Photo by Olivia Bee

急成長を遂げた新作『Go To School』

レモン・ツイッグスの新作『Go To School』が素晴らしい。ポップで、キャッチーで、メロディアスで、メランコリックで、ノスタルジックで、しかし現代的で野心的でもある。彼らがこんな形で急成長を遂げるとは思いも寄らなかった。

THE LEMON TWIGS 『Go To School』 4AD/BEAT(2018)

2年前、『Do Hollywood』というアルバムを引っさげ、彗星のように登場した19歳の兄ブライアンと、17歳の弟マイケルのダダリオ兄弟。まさしく早熟の天才の名にふさわしい2人が作り上げた同作は、レトロスペクティヴな70年代ロック/ポップへの美しいオマージュに満ちていて、何もかもが高次元で止揚した最高のポップ・アルバムだった。

それは飛び抜けた才能の持ち主の若者が、10代後半というもっとも感受性豊かな時期だからこそ作り得た一瞬のきらめきのようなものであって、あんなレヴェルの作品は二度三度と作れるものではないと思っていた。だがそれは間違いだったのである。

『Go To School』は、こちらが予想もしなかった方向に変化・進化している。素晴らしいのは、前作ではまだ残っていたロック的な形式への執着がなくなり、むしろ非ロック的なサウンドを目指すことで、結果として音楽性の幅がぐっと広がり、自由で、柔軟なロック・ミュージックたりえていることだ。

もちろんそうは言っても本作の楽曲のスタイルの多くがロックに依っていることに変わりはない。彼らは「ベストなロックは70年代に生まれたと思っている」(マイケル)と公言するほどのオールド・スクールなロックの信奉者であり、本作でもそうしたロック的記号あるいは〈記憶〉は随所に登場する。ロック・オペラの古典、ザ・フーの『Tommy』(69年)へのオマージュと思わせる箇所もいくつかある。そうした引用のおもしろさは前作から変わらず受け継がれている彼ららしさだ。だが本作を本作たらしめているのはそこではない。むしろ非ロック的な部分こそが肝である。

 

ミュージカルへの挑戦で脱ロック、懐かしくも新鮮な音世界

本作で彼らがやろうとしているのは〈ミュージカル〉である。『Go To School』は、人間の男の子として育てられたピュアなハートを持つチンパンジーが成長していく様子を描いたコンセプト・アルバムだ。

明確なストーリー性を持った音楽作品という意味では、ザ・フーの『Tommy』や『Quadrophenia(四重人格)』(73年)、あるいはキンクスの『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』(68年)、ジェネシスの『The Lamb Lies Down On Broadway(眩惑のブロードウェイ)』(74年)、ピンク・フロイドの『The Wall』(79年)といった、いわゆる〈ロック・オペラ〉作品が浮かぶが、レモン・ツイッグスの場合は、最初にストーリーありきではなく、出来上がった楽曲をまとめるテーマとしてチンパンジーのストーリーを思いついた、という。『Tommy』や〈四重人格〉のようなそれ自体で完成された作品ではないから、コンププト・アルバムやロック・オペラというよりはミュージカルに近い、と彼らは説明している。

『Go To School』収録曲“If You Give Enough”

ヒップホップやR&B、あるいはEDMといったいまの最新の流行に目配りするのではなく、といってブルースやオールド・ジャズ、カントリーなどルーツ音楽に遡行するのでもない。 むしろミュージカルという19世紀後半のアメリカで発祥した伝統の総合エンタテインメントのスタイル、手法を取り入れることでロック的な定型表現を脱し、他にはない懐かしくも新鮮な懐の深い世界を作り出しているのである。メロディー、楽曲構成、歌唱などが、通常のロック・ソングとは異なる華やかでカラフルでノスタルジックでファンタジックな、独特の表情を伝えてくるのだ。