夕焼けがあたりを茜色に染めているある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。
【今月のレポート盤】
逸見朝彦「ハロー! 皆の衆、元気かな?」
逗子 優「おはようございま~す! 何だかご機嫌ですね~。あ、そのCD……!」
逸見「気付いた!? オアシスの97年作『Be Here Now』の〈Deluxe Editon〉だよ!」
穴守朔太郎「お~、バンドが現象化するまでの最重要期間を振り返る〈Chasing The Sun〉プロジェクトの第3弾だんべえ。2年前にデビュー作『Definitely Maybe』と2作目『(What’s The Story) Morning Glory?』が登場した時も興奮したけど、今回も熱いんべ」
逗子「後追いの僕ら世代にも馴染みの深いバンドですよね~。最近では〈ブリット・ポップ・リヴァイヴァル〉なんて括られている、ブロッサムズやDMA’sなどのチルドレンも大活躍していますし、もしかしてイマってオアシスがキテるんですかね~!?」
穴守「いやいや、トレンドとか関係なく、このバンドの楽曲はもはやスタンダードだんべえな」
逸見「ところでさ、94年の衝撃的なデビューから95年の2作目で破格の成功を収め、翌年にはネブワースで25万人規模の野外ライヴも敢行。期待値マックスのなか、2年ぶりに登場したアルバムがこの『Be Here Now』なわけで」
穴守「実際にリアルタイムで見てきたような口ぶりだけんど、当時の会長はまだ1~2歳だんべえ」
逸見「(無視して……)リリース日にはデビュー前のピート・ドハーティが朝からレコ屋に並んでいたっていうのも、いまや語り草だよね」
逗子「だけど、このアルバムって賛否両論というか、それまでの作品に比べると評価が低かったんですよね~!?」
穴守「まあ、アレンジが凝りすぎているし、長尺曲が多いからよ、前2作ほどの明快さは確かにないんさ。でも、オイラはオアシス流〈ウォール・オブ・サウンド〉みたいなこの分厚い音が好きだいな」
逸見「デラックス版のDisc-3には、カリブの島でノエル・ギャラガーが録音していた14曲のデモ音源を収録していてね、既発のヴァージョンと聴き比べたらおもしろいよ」
逗子「じゃあ、僕がコーヒーを煎れますから、ちょっと流してみましょうよ~」
穴守「へえ、この音源はシンプルなぶん、楽曲の良さが際立っているんべ」
逸見「2作目までのファンはこっちの朴訥としたテイストのほうが好きかもしれないよね」
逗子「とはいえ、僕はやっぱりリアム・ギャラガーの声があってこそのオアシスだと思いますね~」
穴守「そいつはオイラも同感! それに『Be Here Now』ってキャリア中でもいちばんロックンロールしていた作品だと思うんだけんどよ、それはアルバム全体の華やかでギラギラした魅力ゆえだんべえな」
逸見「ロックンロールと言えば、シングルのB面曲やライヴ音源が収録されたDisc-2では、ビートルズ“Help!”のカヴァーも聴けるんだよ。ただ、“D’You Know What I Mean?”のカップリングだったデヴィッド・ボウイ““Heroes””が、今回入っていないのは残念だけどね」
逗子「とにかく、ロック・スターのベタな名曲を臆面もなく演奏しちゃうのがまたオアシスらしいですよね~」
穴守「タイトル・トラックや“It’s Gettin’ Better (Man!!)”からはローリング・ストーンズの影響をモロに感じるし、“D’You Know What I Mean?”なんて自分たちのヒット曲“Wonderwall”のコード進行をそのまま使っているんだから、図々しいんだか、無邪気なんだか……」
逸見「でもさ、オアシスって英国の古風なロック・イディオムを踏襲しつつも、不思議なくらいオアシスとしか言いようのないサウンドに仕上げているところが凄いし、だからこそスタンダードとして聴き継がれているんだろうね」
穴守「会長、それは誰のブログからの引用さあ?」
逸見会長が珍しくスマホを見ないで話しているのも印象的な本日のロック談義。秋の日は釣瓶落とし。すっかり暗くなってきたので、そろそろお開きとしましょう。【つづく】