最後のダンスから2年、騒動と歓喜と悲劇を原動力にして世の感情を揺さぶったアイドル・グループが新たな顔ぶれで動きはじめた。今度はどこへ向かって、何を食べますか?

 

いまのところは楽しい

 横浜アリーナでの解散から2年が経った今年の7月8日、マネージャーの渡辺淳之介とサウンド・プロデューサーの松隈ケンタがオリジナル・メンバーのプー・ルイを誘う形で再始動を宣言したBiS。メンバー募集オーディションを経た9月には最終審査となる合宿の模様をニコ生で中継し、そのまま24時間経たずにお披露目ライヴを敢行して話題となった。そんな合宿で生き残ったのが、ゴ・ジーラペリ・ウブアヤ・エイトプリンスキカ・フロント・フロンタール、そしてなぜか平等にオーディションに参加させられたプー・ルイ。新たなBiSはこの5人でスタートしたばかりだ。

プー・ルイ(18)

プー「今回のBiSって一見、歴代で一番バカそうなんですよ(笑)。どの時代のBiSと比べても何か明るいというか。でも、意外と努力家っちゃ努力家だし、言われたことはちゃんとやってくるので、真面目かどうかはわからないけど、素直な子たちですね」

キカ「横アリとかも行ってたので、私が観てたBiSと比べると全然あの形になれる状況じゃないな、と思ったりしますね」

ゴジ「私はもともと会社員で、毎週ルーティーンの生活を送ってた頃の私と、BiSになった私っていう生活のギャップがすごすぎて、2か月経ったんですけど、〈あれ、私……BiS、そっか〉って、ふわってした気持ちになる時はあります。だから、すごい楽しいんです。不思議な感覚で」

ペリ「合宿審査が過酷だったので、もっと大変なことばっかなんだろうなって思ってました。案外いまのところはね、全部楽しい。ただ、まだ序盤じゃないですか? これからもっと絶対に……まあ、イイっちゃイイけど、不安っちゃ不安って感じです(笑)」

プー「ただ、やっぱBiSの曲がずっと好きで。解散してから誰も歌えなくなったわけで、それは寂しかったから、また歌えるのは嬉しいですね。良い曲ばっかりなので」

アヤ「私は“My Ixxx”が好きです。曲がカッコイイところが好きです。あと、踊りもカッコイイところが好きです」

プー「ちょっとバカっぽいな(笑)」

ペリ「私は“primal.”ですねー。あの、エモいんですよ。ライヴでやってると気持ちがこみ上げてくるというか。はい」

キカ・フロント・フロンタール(18)

キカ「“Give me your love 全部”が好きなんですけど、まず歌詞が好きで、最後の〈痛いくらいで抱いて!〉っていうフレーズが、気持ちがわかるなって。〈痛い〉って一種の愛情表現だと思っていて……ギュッと、痛い、苦しいくらいの……(省略)」

プー「気持ち悪い(笑)」

ゴジ「私はやっぱり“nerve”ですね。解散の時の〈日本エヴィゾリ化計画〉をおもしろいなって思ってたし、いまライヴでやってても、お客さんが目に見えて踊って楽しんではるのがわかるし。他にも良い曲がたくさんあるので、それがまたどんどん広がっていったら楽しいなって」

 

いつもどこかに向かってる

 そして届いたのが、現体制での処女作『Brand-new idol Society2』だ。核となるのはライヴの即戦力となる過去の名曲群で、松隈ケンタ率いるSCRAMBLESの面々がいずれもリアレンジを施している。

BiS Brand-new idol Society2 つばさレコーズ(2016)

プー「BiSを始めた頃って渡辺さんも松隈さんも実績がそんななくて、デビュー作はお金も機材もない状況で作ったんですよ。BiSの3年半と解散後の2年を経て全員がレヴェルアップしたのを見せたいっていう気合いと、最新のBiSを届けたいっていう気持ちがドンッと詰まってますね」

 一方で、オーディションの課題曲だった“BiSBiS”も含む新曲は5つ。個々に説明してもらおう。

プー「BiSって曲先行で詞を書くんですけど、今回の“BiSBiS”だけは、渡辺さんと松隈さんに誘われた時に一発目は詞先でいきたいって言われて。〈新しいBiSが始まる時の思いを書いて〉って言われて、1日で書きましたね。〈行かなくちゃ〉のフレーズはやっぱBiSの代名詞なので……いっつもどこかに向かってますけど(笑)。あと、渡辺さんの本(『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』)で見た〈ルサンチマン〉って言葉が気に入って使いました。BiSにめっちゃ当てはまる言葉だなと思って」

ペリ「“BiSBiS”は合宿の審査で歌ったし、その合宿でプーちゃんがフリを付けて、みんなで1から練習したのもあって、本当に思い入れが深いですね、いちばん」

キカ「“Human after all”は、おもしろい感じの曲なんですけど。まあ、特徴的なのがライヴでの振付ですね。〈所詮 人間さ ダニほど価値ない〉って歌詞なので、サビを歌うアヤちゃんがダニ以下な人間の私を虐めるっていうフリなんですけど、〈こういうふうにやって〉ってお願いして、叩いてもらったり、絞めてもらったり……(省略)」

アヤ「“Happy Birthday”では私の歌詞を使っていただきました。まず〈オモチャ箱から出られないリカちゃん人形〉っていうテーマを決めて、したいことをできない人、窮屈な世界で生きてる人の気持ちもちょっと代弁して書いたというか」

プー「Aメロのラップみたいな感じで言葉がババババっといくところとか、曲調もBiSではあんまりなかった感じで」

ペリ・ウブ(18)

ペリ「はい、“Not Special”はプーちゃん作詞なんですけど、アレだよね、〈悪魔・ささやき〉って歌詞は渡辺さんに〈もう1回BiSやろう〉って誘われたっていう意味で。私は〈イインデスカ? もうわかったの 私は特別じゃないの〉ってところが好き。いや~、イイ歌詞書くな~と思って」

プー「上から(笑)。これは合宿が始まる前に書いてたんですよ。〈使うかわかんないけど、先に書いといて〉って。で、BiSが始まるのを待ってる時の感情をそのまま書きました。でも、これ歌詞だけ採用されて、最終審査で落とされてたとしたら悲しすぎません? 〈もうわかったの 私は特別じゃないの〉って書いて、ホントに特別じゃなかったんだ!って。いられて良かったー(笑)」

 

いろんな人に向けて言ってる

 解散を数日後に控えた2年前の7月2日、新宿ステーションスクエアで行ったフリーライヴにて、プー・ルイは「世界を変えたいって歌いました。それがちょっと無理そうです」と語った。世界を変える――〈we shine the whole world〉と歌った“レリビ”は初作のラストに収まっていた渡辺作詞の人気曲だが、その志を改めて彼の言葉で掲げたのが、新作のラストを飾るメロコア調の“CHANGE the WORLD”だ。〈あのBiS〉がここまでストレートに歌うのかという思いを抱く向きもあろうが、その型破りな歩みを支えてきたのが感情に刺さる楽曲性の高さだったことを思えば、いまのBiSがこのアンセムをまっすぐ歌うのは、気持ち良い裏切りのようでいて、真っ当なことなのかもしれない。

ゴ・ジーラ(18)

ゴジ「私にとって、“BiSBiS”はBiSになりたいって思った気持ちの曲、ここから始まる決意の曲なんですけど、“CHANGE the WORLD”はメンバーが決まって、やっとBiSが一歩踏み出せるっていう曲やと思うんですよ。MVにも研究員の方がたくさん参加されてて、やっとホントにBiS始めますっていう決意のもとに集まった人たちが、一歩踏み出したっていう曲がそのまま歌詞とか曲とか、MVにも全部出てて。だから、どんどん広めて、ここから始まりたいなって思いの曲です」

キカ「私、これ、ホントに歌詞もらってすっごい泣いたんですよ。仮歌を聴いて」

プー「渡辺さんの雑な仮歌で泣いたの?」

キカ「イイ歌!と思って。なんだろう、例えば学校や会社でうまくいかなくて、ちょっと暗い感情がある人たちに〈絶対に君を救うんだって〉っていう気持ちで歌ってるイメージなんですけど。自分もそうだったから。自分も会社員やってた頃はどこか〈この世界から抜け出したいな〉って思ってて、私はそれを絶対に変えたいって思って行動したから、いまBiSになれて。実際に自分の世界を変えることのできた私が歌うことによって、まあ、説得力が生まれるんじゃないかなって思いながら歌ってます」

ペリ「〈世界変えるんだ〉って歌って、最後だけ〈絶対に世界変えようね〉って歌ってるんですよ。最後に自分たちだけじゃなくて、みんなを巻き込んで言ってるところが良いなーって思いました」

アヤ「この曲にはいろいろ思うことがあって……私はBiSの前に他のアイドルのオーディションを受けてて、本気でやって、本気で落ちたんですけど。その時に周りから〈お前アイドルやんの?〉とか言われて……あー、泣きそうになっちゃう」

プー「泣いちゃえばいいじゃん」

アヤ・エイトプリンス(18)

アヤ「そうだね。〈その歳で何やってんの?〉みたいな。年齢が年齢ってのもあって」

プー「みんな(永遠の)18歳だよー(笑)」

アヤ「そう、18歳なんですけど。その時の心情が重なって、響くんです(泣)。そいつら……そういうこと言ってた人たちにも〈変えられるんだぞ〉って示したいし……キカも言ったみたいに、変えられないでジレンマを抱えている人たちにも、何かを伝えられたらなって。すみません、なんか感情が入りすぎてしまって……(泣)」

プー「この後に話しづらいんですけど(笑)、私はやっぱ“レリビ”が思い浮かんだんですよね。前にBiSで映画を撮った時に“レリビ”の日本語訳のリリック・ビデオみたいなのあって。で、それの日本語の意味と“CHANGE the WORLD”がめっちゃ繋がってて、〈また始まった〉って決意表明でもあるけど、同時に過去もちゃんと背負っていくっていう一曲なので、やっぱ、グッときますよね。たぶん、いろんな人にこの気持ちを言ってる。私たちにも言ってるし、研究員にも言ってるし、これから出会う研究員にもそうだし、あと、たぶん元BiSのみんなに向けても言ってる。昔のメンバーたちがいなかったらいまはないし、それは絶対忘れちゃいけないので。皆でBiSを大きくしていきたいなって思いがめっちゃこもってます。もともと“Hide out cut”とか“ODD FUTURE”とか、まあ“レリビ”もストレートな内容だけど、渡辺さんが照れ隠しで英語詞に変えちゃう癖があって。でも、新BiSはもっと大きいところに向けて発信したい気持ちが強いって言ってたので、日本語で誰が読んでもわかる歌詞になったんだと思います」

ゴジ「サクッと世界を変えれたら楽しいやろうなって凄く思ってます。やっぱりBiSっていうものは、凄かった、伝説的なアイドル・グループだと思うので、そんなBiSが再始動するってなったら、やっぱり一瞬で変わるのがいちばんカッコイイと思うんで。もう、サクッと変わりたいです。はい、世界を変えたいです」

プー「まずはグループとしてまとまるのが第一目標なんですけど、その先にある個性のぶつかり合いがアイドルの楽しいところだと思うんですよ。4人も個性的だけど、それがまだ外に出てない。前のBiSはそこがおもしろかったぶん、まとまりはなかったですから(笑)、もしそこが両立できたらパワーアップしたBiSになれるなって思います。早く〈プー・ルイ、ぶっつぶす〉って言いはじめてほしい(笑)」

 いまはまだ、あらかじめ描かれた青写真の通りに進んでいる段階。ただ、何事も思い通りじゃないのは歴史が証明済みだ。12月からは初のツアーへ踏み出し、年明けには次のツアーも発表されたばかりで、その先はまだわからない。歴史は繰り返すのか、あるいは……。