ポップスターへの階段を駆け上がった先で見つけたのは、LIVEとLOVEを育む太陽の樹。全力のショウマンシップが繰り出す魂は、その元で何度でも再生する
「普通に生きてたら決して幸せばかりとは言い難い2017年になるだろうから、だからこそ、多幸感で始まって多幸感で終わるアルバムにしたかった。俺はポップスターとして衒いなく、〈愛〉とか〈平和〉とか〈幸せ〉を歌おうって。このアルバムを作ることで、そういう覚悟はさらに強くなったかもしれない」。
衒いなくあることの難しさ。音楽的にも、アーティストとしての佇まいにおいても、2016年の終わりにそれを痛快にやってのけたのがブルーノ・マーズの『24K Magic』だとしたら、2017年にはこの男がいる。SKY-HIのニュー・アルバム『OLIVE』。本作での彼は、全力のショウマンシップをもって繰り返し生きること――〈再生〉を説く。
「死ぬことと本気で向き合うことで〈生きてて良かった〉と思える気持ちを浮かび上がらせたのが前作の『カタルシス』だったんですけど、『OLIVE』はそれをより先へ推し進めたものですね。30歳になって思ったんですけど、30歳ってことは30年間自分と一緒に生きてるってことで、たかだか自分一人の中ですら、ときには同じ方向を向いて、ときにはぶつかり合ってってことをやってる。だから、〈生きる〉っていうことに本気で向き合おうとするなら、それはきっと対峙するとか相対した方向でというよりは、全部を受け入れて寄り添うことなんじゃないかと思ったんですよね。それで、本当の意味での強さと優しさと愛情を注ぎ込んだ、〈一緒に生きてくれるアルバム〉を作ろうと。今回は、そういうことを冒頭の“リインカネーション”から“BIG PARADE”“アドベンチャー”“創始創愛”を挿んでラストの“ナナイロホリデー”まで、ずーっと言い続けてるんです。ただ、教科書みたいなアルバムにするつもりはないから“Walking on Water”みたいな暴論(笑)も出てきたり、明確なストーリーテリングものの“十七歳”を間に入れたり。そうすることで、聴き進むにつれて〈言いたいこと〉の聴こえ方がどんどん変わっていくって脚本を書けたなあと思いますね」。
生命力を感じさせる音
「〈生命力溢れるアルバム〉ということで、おのずとサウンドもオーガニックになった」という本作は、ソウル/ファンクを下地とする楽曲が多くを占め、歌の割合も増えた風通しの良い一枚に。「ソウル・ミュージックの持つ包容力が欲しかった」というmabanuaとの“リインカネーション”、istと共に晴れやかな躍動感を演出した“BIG PARADE”と、聴き手を開放的に迎え入れる2曲がオープニングを担っている。
「“BIG PARADE”は、〈イヤミったらしいアイツ〉〈常にネガティヴ思考のアイツ〉の〈アイツ〉を〈自分〉って表記するか迷ったんですけど、もう言っちゃおうと思って。死ぬときはみんな一人。その〈一人〉の中には前向きなばかりじゃない、いろんな自分がいるけど、それを全部引き連れていこうぜっていう歌詞だから、重くならないように、極力ポップに、躍動感を持って。ビートはゴールドリンクとかと親和性の高いものですけど、ここではオーガニックなほうのトレンドを徹底するというよりは、躍動感を出すためにピアノとブラスでデコレーションするという、服を着せるような作業をしましたね」。
そして、〈行こう 別れを手に取って/最後の瞬間を愛そうぜ〉というフレーズに本作の大テーマを託した“アドベンチャー”は、映画ならクライマックスにあたるというファンク・チューンだ。
「オールド・スクールなアプローチで、タワー・オブ・パワーあたりのファンクネスがコスプレじゃない自分の音楽として実りましたね。で、盟友のFIRE HORNSに参加してもらったら、生命力が2Dから3Dになるみたいな感じで、〈魂〉っていう意味でのソウルが吹き込まれたから、ホントにアルバムを象徴する曲になったなと思って。セルフ・サンプリングで前の曲からの要素を入れて、で、後ろのほうの曲に繋がる言葉遣いをして、みたいなところも含めて、“アドベンチャー”が間違いなくクライマックスですね」。
そこから後半、清廉な鍵盤とジャジーなビートがループする“創始創愛”ではメッセージがより根源的なものへ。
「ネガティヴな自分とか、マイナスに思えることとか、そういう部分も含めて自分を丸ごと愛すことから始めることの難しさと尊さ。〈自分の隣の人を愛すことができたら世界平和はなる〉みたいなことってよく言われるけど、そもそも鏡の中に映ってる自分を本当の意味で愛せてるかって言われると、それは一番難しいんじゃないかって。でも、だからこそ言いたかった。自分を愛することが〈壮大なテーマの世界平和〉だって。それがスタートでありゴール。ゴールでありスタート。このテーマは『OLIVE』のあとも歌っていくべきものの一つなのかも。ジョン・レノンも、マイケル・ジャクソンも、みんなこういうことをやってたんじゃないかな。時代によって音像も言葉も違うけど、そういうことのような気がする」。
最低条件が一つ上へ
そんな大らかさを最後に受け止めるのは、喉の手術という試練を通じて〈夢の中なんかより現実は歓びにあふれてる〉という境地に達した“ナナイロホリデー”。さらに、「“リインカネーション”は“ナナイロホリデー”の後にくる曲とも捉えている」と本人は言うが、そうした循環と再生に起伏と説得力をもたらすその他の楽曲もまた、各々の輝きを放っている。例えば、アフロなリズムのブラス・ロック“Double Down”と、ミニマル&メロウな“Stray Cat”。自身へ目を向けた2曲の後には、リスナーと近い目線で思春期の葛藤と淡い恋心を綴った“十七歳”と、初々しいラヴソング“明日晴れたら”が並ぶ。
「“Stray Cat”にはアンダーソン・パークを感じますよね。“BIG PARADE”と違ってストレートにトレンドっぽい。それと、“明日晴れたら”はソウル寄りのディスコ・ナンバーで、しっかりとした歌モノっていう意識で作った初めての曲かも」。
また、本作中でとりわけギラギラしたエッジが表出しているのが“Walking on Water”と“How Much??”だ。
「“Walking on Water”はヒップホップ・チューンを作ろうと思って。ソウル溢れるアグレッシヴな曲で、ひたすら暴論じみたボースティングをするナンバーが必要だったから、MUROさんにトラックをお願いしました。“How Much??”はポリティカルなパーティー・ソングをしっかりやろうと。社会に向けた問題提起って、親しまれて、愛されて、合唱されるようなものじゃないとホントの意味をなさないと思うから」。
加えて、MUROと同様に今回が初の手合わせとなったシンガー・ソングライター、ビッケブランカとの共作によるミュージカル風の“Over the Moon”に、〈別れを愛すること〉を綴った“クロノグラフ”も。
「“Over the Moon”は、チャンス・ザ・ラッパーがやろうとしてることにクイーンとかベン・フォールズを感じたから、そこの解釈をちゃんとやってみようと思ったんだけど、自分にその素養がなくて。俺、クイーンよりもエアロスミスだったから(笑)。自分の中にタワー・オブ・パワーがあるから“アドベンチャー”になるし、アース・ウィンド&ファイアがあるから“リインカネーション”になるんですけど、これは絶対になかったんです。だから、“Over the Moon”を嘘なく作れたのはビッケブランカのおかげ。コーラスも彼に積んでもらったんだけど、マジ最高で」。
ネクスト・フェイズへ達した『OLIVE』を携えて旅立つ全国ツアーのファイナルは、日本武道館での2デイズ公演。私たちはそこで、〈生きること〉を音楽で謳歌するポップスターの姿を目撃することだろう。
「今の自分と自分の仲間、SUPER FLYERSなら〈金字塔〉って呼ばれるライヴを必ずやれるっていう自信があるし、武道館はそれを広く知ってもらう象徴的な出来事にしないといけないから大切には思ってますけど、でも、あくまでもそこがスタート。この規模でのライヴが普通だと捉えてもらった状態になって、初めて本当の意味で勝負できる。良い音楽を作って良いライヴをするっていうのは最低条件。これからはその条件が一つ上の段階へ上がるってことですね。それはすごく喜ばしいことだと思うし、人生なかなか楽しみ甲斐があるなと思っているので、武道館の2日間はもちろん、そこまでのツアー自体を成功に収めて、今後に繋げていきたいです」。
『OLIVE』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
★〈SKY-HI HALL TOUR 2017 ~WELIVE~〉追加公演が決定!
【日時/場所】2017年3月30日(木)大阪・フェスティバルホール、2017年5月3日(水・祝)東京・日本武道館
【受付URL】〈http://r.y-tickets.jp/skyhi1702_sp〉
【チケット先行販売受付期間】2017年1月25日(水)15時00分~2017年2月16日(木)23時59分
※予定枚数に達し次第、受付終了となります。 ※その他の注意事項などは、必ず詳細をご確認ください。