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『More Learners』で見せた多彩な挑戦

――LEARNERSの新作『More Learners』は前作同様にカヴァーがメインですが、チャーベさんはファースト時のインタヴューで、〈次作は知り合いのミュージシャンに曲提供してもらったオリジナル中心のアルバムにしようかな……〉というアイデアも話していましたよね。

チャーベ「そうだった! それはね、3枚目になりました。実は曲もいつくか集まってきていたし、迷ったんだけどね。ただ、ファーストが持っていた楽しさからこぼれた要素や音楽がまだあるなと思ったので、そういう意味も込めて『More Learners』というタイトルで出すことにしたんです」

――カヴァーの選曲はジャンル、年代共に幅広くなっているし、リズムやコード感もさらに多彩になっています。バンドとして新しい挑戦をした作品だと思いました。

紗羅「ありがとうございます。ただ、私自身はいつでも変わらないヴォーカリストでありたい、いつもフラットでいたいと思っているんです。他のみんなはこだわりのある人たちだから、そこを私まで作り込みすぎると、いまとは違ったバンドになるんじゃないかなと思う。だから、私はパッと聴いて思ったまま歌うようにしています。そういう気持ちで続けていきたい」

チャーベ「おもしろいことに、僕もLEARNERSでは自分のこだわりを捨てているんですよ。曲と構成とリズムの種類、キーを決めたらあとはチエ太一ハマの3人に丸投げして、何にもやらない。その結果、自分が思っていたものと少し変わるんだけど、いまはそれに凄くワクワクできていて、本当に楽しいんです。LEARNERSについては、もう続けられるだけで良くて、それを可能にしていくのが俺の仕事であり、こだわりかな。下地だけ作って、あとはみんなが納得いくとこまでやっていいよーと投げる役目。チエは今回めちゃくちゃ考えてフレーズを作っていたよね?」

チエ「ファーストは自分の手癖……ロカ的なギターのみで演奏した面があったので、自分としてはこれまでやってこなかったギター・プレイに挑戦したアルバムだと思っています。カントリーや8ビートの曲はほとんどやったことがなかったし」

――チエさんとリズム隊2人の挑戦は特に感じられますよね。“DENISE”の頭打ちのビートなど、Riddim Saunter時代から考えても太一さんとハマさんがプレイしている印象はなかった。

チャーベ「あれはね、ニック・ロウの“Cruel To Be Kind”を意識したんですよ。タイチと、〈頭のフィルどんなんだったっけ?〉と聴き直して」

ニック・ロウの79年作『Labour of Lust』収録曲“Cruel To Be Kind”
 

TAXMAN「俺は“DENISE“が大好きでした。もともとのオリジナルも好きだったし、今回のカヴァーはチャーベさんが言ったようにニック・ロウやエルヴィス・コステロみたいな感じがして、格好良いアレンジだなと思った。僕らも新作の『NEW』でコステロを意識した曲があるんですよ」

チャーベ & チエ「あ!」

TAXMAN「“POPULAR GIRL”という曲なんですけど」

チャーベ「やっぱり、そうだったんだ。あの曲、良いよねー。パワー・ポップっぽいアレンジだよね」

TAXMAN「そうです。“DENISE”を聴いたとき、きっと同じ感覚なんだろうなと思ったんですよ」

――ROYさんが『More Learners』で印象に残った曲は?

ROY「“WHY DO FOOLS FALL IN LOVE”はキッズ・ドゥワップの定番ですけど、それをオリジナルのキッズたちにも負けない純粋さ、真っ直ぐな感じで表現できるのはLEARNERS以外にいないだろうな……と思いました。あと6曲目の“SAINT TROPEZ BLUES”は珍しくマイナー・コードの曲で……」

チャーベ「その通りで、LEARNERS初のマイナー。もともと紗羅ちゃんはマイナーを歌いたかったんだよね。でも、僕はマイナー調が自分にないんです。マイナー・コードを触ったこともないくらい(笑)」

一同「ハハハハ(笑)!」

チャーベ「でも、どういうわけか紗羅ちゃんがマイナーを歌いたいという気持ちはわかったから、マイナーの曲だったら、これかなと選曲して」

ROY「新鮮でした。こういう曲がアルバムに入っているとドキッとしちゃいますよね」

チャーベ「フランス映画『赤と青のブルース』(60年)のサントラに入っている曲なんだけど、ロカのリスナーで知っている人はほぼいないだろうなと思ったんだよね。だから、そういった文脈で僕らを聴いてくれている人は原曲を知らないだろうな、ニヤっていう。逆に渋谷系の人は喜ぶだろうし、異なるカルチャーをマッシュアップする気持ちがありました」

映画「赤と青のブルース」の主題歌であるマリー・ラフォレの“Saint Tropez Blues” 


古い音楽の魅力を継承したうえでの同時代性

――ちなみにTHE BAWDIESもファースト・アルバム『YESTERDAY AND TODAY』(2006年)ではカヴァーが収録曲の過半数を占めていました。それが一転して2作目の『Awaking of Rhythm And Blues』ではオリジナル・ナンバーのみとなって。

ROY「出発点はガレージなので、カヴァーで何が悪いというスタンスもあったし、楽しくやっていられたらそれで良かったんですけど、オリジナルを作れと言われて(笑)。でも、作っているうちに自分たちの感覚で自分たちが好きな音を鳴らせる喜びを感じてきたことで、セカンドではオリジナルをメインにすべく向かっていけた。そして(2009年の)メジャー・デビューのタイミングで、〈昔の音楽が好きなんです〉という気持ちだけだったら、〈じゃあ昔のを聴いてたらいいじゃん〉となるなと思い、現代の人たちに根付かせるためには現代の音楽として届けないといけない、そのうえでオリジナリティーとは何だろう……と考えはじめました。以降はそれを探求し続けています」

チエ「私が居酒屋で呑んでいるときに、THE BAWDIESの新作『NEW』の曲がかかったんですよ。で、一緒にいた友達はTHE BAWDIESだと気付いたんですけど、私はまったく違う印象だったからわからなかった。今回の作品は、それくらい新しくなっていると感じたし、ビックリしました」

チャーベ「古参ファンからの感想(笑)」

THE BAWDIES NEW Getting Better(2017)

THE BAWDIESの2017年作『NEW』収録曲“SUNSHINE”
 

――紗羅さんとチャーベさんは『NEW』を聴いていかがでしたか?

紗羅「アルバムを通しての流れが凄く気持ち良いと感じました。爆発的なロックでスタートし、途中はちょっと優しくなったり、ちょっと寂しくなったり。THE BAWDIESはいつもその時代に合った音楽を作っている気がして、そのなかでTHE BAWDIESらしさがバチッとハマっているから、本当に頭の良いバンドだと思う。そんなこと言える立場でもないんですけど(笑)。いまの時代はもちろん、いろんな時代の音楽を聴いて、好きなもの・嫌いなもの・苦手なもの、すべてを聴いたうえで作っている音楽なんじゃないかな」

THE BAWDIESの2017年作『NEW』の全曲トレイラー映像 

チャーベ「アルバムとしての流れがある作品だったよね。1、2曲目の“THE EDGE”“HELLO”とかは〈THE BAWDIES!〉みたいな感じなんだけど、それ以降は新しいチャレンジがあって、特に中盤の楽曲がいまの自分にはハマった。ダンス・ミュージックが少し入ったリズム・アプローチもあって、おもしろく聴きました。ギターも結構チャレンジしているよね? 4曲目の“DANCING SHOES”には、これシンセかな?と思うような音色があった」

TAXMAN「僕はギターを弾くうえであまり空間系のペダルは使わないんですけど、今回は結構多用しましたね。前作『Boys!』(2014年)から2年かけて、ゆっくりレコーディングしているなかでビートルズをよく聴いている時期があって。ビートルズのレズリー・スピーカーから出しているギター・サウンドみたいな感じで鳴らしたいなと思ったところから、いろいろ試して生まれたサウンドなんです」

――今回の『NEW』はプロダクションで攻めている作品ですよね。アラバマ・シェイクスの新作『Sound & Color』やウィルコ諸作と並べて聴けるモダンなロック・アルバムになっていると感じました。

ROY「いろいろな段階を経たうえで、そういう面も出せた作品だと思います。このアルバムでなにを伝えたいかを2年間の活動でいろいろ考えてみた。そこでいちばん感じたのが、自分たちは新人じゃなくなっている、ということだったんです」

一同「ハハハ(笑)!」

ROY「自分たちが(音楽シーンに)出てきたばかりでドーンと波に乗っているときは思うように音が届いていくんですよね。でも、いまは自分たちよりも若手の勢いが凄いし、フェスに出ても後輩ばかりなんですよ(笑)。もう若手じゃない、波には乗っていないんだと感じ、いままでと同じやり方では波の外から奥の人たちに届けるのは無理だろうなと思った。そこで、最初に決めたのは、何か新しい要素を採り入れるのではなく、ずっとやってきたことをさらに研ぎ澄まして、これまででいちばん激しいものを作ろうということ。それで出来たのが『NEW』の頭3曲“THE EDGE”と“HELLO”“45s”なんです」

 

ROY「この3曲は重要でしたね。これらを作れたことで、まだまだ自分たちは尖れるとわかった。むしろ肩の力が抜けてリラックスできて、じゃあ次は新しいことをやろうといろいろな挑戦できたんですよ。さっきアラバマ・シェイクスを引き合いに出してくれましたけど、最後の“NEW LIGHTS”は、プロデューサーのNAOKILOVE PSYCHEDELICO)さんがアラバマ・シェイクスやエイミー・ワインハウスみたいな古典的なリズム&ブルースに取り組んだうえで、それを泥臭く聴かせないサウンドをTHE BAWDIESでもできるんじゃないか?と提案してくれて作った曲なんです」

 

――2015年にシングルとしてもリリースされている、長岡亮介ペトロールズ)さんがプロデュースした“SUNSHINE”も凄くフレッシュでした。音の鳴りは柔らかなのに、位相はトリッキー。古い音楽の魅力を継承したうえで同時代性を持った音楽を作っていることが、THE BAWDIESとLEARNERSの2組の共通点だと思います。

ROY「誤解を恐れずに言うと、僕は昔の音楽しか聴かないんです。ソウルの7インチを掘り続け、それらをずーっと聴き続けたうえで曲を作っている。感覚の面では、古のソウルをそのままやっているんですけど、現代に生きる人間である以上は現代感が絶対に出てくるんですよ。昔はそれを出てこないようにしていたんですけど、いまはそこをちゃんと解放してあげようと思っています。この音楽にこんな要素があったらおもしろいかなと思ったら、それは60年代の人からは出てこないものだろうし。憧れに近付こうと曲を作り、そこに自分たちが自然と感じている感覚を混ぜていく。それで現代の音楽になっていくんだと思います」

――なるほど。

ROY「と、簡単に言いましたけど、デビューした頃からずっとやろうとしていても、なかなかできなかった。それがようやくちゃんと形にできたのが『NEW』というアルバムなんです」

チャーベ「僕らもLEARNERSの2作は、新譜としてリスナーに聴かせたいと思っていました。やっているのはカヴァーだけど、いま20歳の子は僕らのヴァージョンをカヴァーという感覚では聴かないだろうし、新曲が並んでいるアルバムを届けているという気持ち。チエちゃんのギターの音色とか一つ一つの音はルーツやマナーを踏まえているんだけど、全体像はいまの新譜と並んでも負けない音圧にするというのが目標でした。だから、録音機材は一切ヴィンテージものを使ってない。2017年の録音システムで、2017年の音源として出しました」

TAXMAN「古い音楽を新しく響かせることができるバンドは必要で、LEARNERSはまさにそうですよね。ロックンロールやロカといったルーツを持っているバンドは、わりかし小さいシーンに固まりがちな気がするけれど、LEARNERSはそうじゃない。小箱だけじゃなくて、フェスや渋谷のWWWXなど大きなライヴハウスでもパフォーマンスしているのが新鮮です。だから、この『More Learners』の次がどうなるのか、すでにめちゃくちゃ楽しみ。さっきチャーベさんがオリジナルを歌うと言っていましたが、ワクワクして待っています」

チャーベ「ありがとう! 良かったら曲を提供してください(笑)」

ROY & TAXMAN「ぜひぜひ!」

紗羅「やった!!」

 


LEARNERSからのお知らせ
『More Learners』発売記念インストア・イヴェント
2017年2月24日(金)タワーレコード渋谷店 B1F〈CUTUP STUDIO〉
開場/DJスタート 20:00 / ライヴ・スタート 20:30
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THE BAWDIESからのお知らせ
〈NEW BEAT TOUR 2017〉
2月25日(土)なんば Hatch
2月26日(日)名古屋 Diamond Hall
3月2日(木)高知 X-pt.
3月4日(土)高松 モンスター
3月5日(日)松山 WStudioRED
3月9日(木)浜松 窓枠
3月11日(土)和歌山 SHELTER
3月12日(日)京都 磔磔
3月17日(金)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
3月18日(土)青森 クォーター
3月20日(祝・月)仙台 Rensa
3月25日(土)宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2
3月26日(日)郡山 HIPSHOT Japan
3月30日(木)岡山 YEBISU YA PRO
4月1日(土)広島 CLUB QUATTRO
4月2日(日)周南 RISING HALL
4月15日(土)滋賀 U STONE
4月16日(日)神戸 Chicken George
4月20日(木)松本 Sound Hall aC
4月22日(土)新潟 LOTS
4月23日(日)富山 MAIRO
4月27日(木)熊谷 HEAVEN'S ROCK VJ-1
4月28日(金)高崎 club FLEEZ
4月30日(日)水戸 LIGHT HOUSE
5月13日(土)札幌 Zepp 札幌
5月21日(日)東京 NHKホール
5月28日(日)大阪 オリックス劇場
5月29日(月)愛知 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
6月8日(木)長崎 DRUM Be-7
6月10日(土)大分 DRUM Be-0
6月11日(日)福岡市民会館
6月16日(金)沖縄 桜坂セントラル
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