(左から)林宏敏、カネコアヤノ、本村拓磨

言葉のひとつひとつから魅力的な物語が生まれていくような、独特の描写による楽曲で人気を集めるシンガー・ソングライター、カネコアヤノ。彼女が2015年発売のアルバム『恋する惑星』以来、約1年半ぶりの全国流通盤となるEP『ひかれあい』をリリースした。

昨年11月のEP『さよーならあなた』以降は、以前からサポートを務めてきた本村拓磨(ベース、Gateballers)、濱野泰政(ドラムス)の2人に新たに林宏敏(ギター、ex 踊ってばかりの国)を加え、4人体制で作品制作やライヴを行なってきた彼女だが、この『ひかれあい』では、現在のバンドの充実ぶりをさらに作品へと反映。全編を通して、各メンバーの演奏がしなやかに絡み合い、魅力的な化学反応を起こしている。とはいえ、本作でもっとも印象的なのは、これまでよりも確信を堪えたカネコ自身の歌だ。リード曲“とがる”のコーラスでは、バンドの疾走感溢れる演奏に乗って〈かわる! かわる! かわってく景色を受け入れろ〉と力強く叫ぶ。おそらくこれは、心から信頼できるメンバーと出会うことができた今だからこそ歌える歌でもあるのだろう。

『ひかれあい』というタイトルには、この約1年で出会ったさまざまな人々との繋がりが表現されているという。そしてそのひとつひとつが、彼女にインスピレーションを与え、まるでつぼみが花になって咲き誇るかのように、本作の豊かな音楽に結実している。今回はカネコアヤノ、林宏敏、本村拓磨の3人で、その制作過程とこれまでの変化を振り返ってもらった。

カネコアヤノ 『ひかれあい』 we are(2017)

 

弾き語りは自由、バンドは永遠に終わらない青春

――カネコさんはもともと、大学時代に友達に渡した音源からミュージシャンとしての本格的な活動がスタートしたそうですね。

カネコアヤノ「その当時は、こんなにちゃんと音楽をやるとは思っていなかったですね。でも、私自身は全然変わっていないんですよ。いまだにできないことは多いし、サポートしてくれる人たちに助けられてきたという感じですね」

――活動当初から、〈こんな音楽を作りたい〉という理想像はあったんですか?

カネコ「とくにそういうふうな考えはありませんでした。ずっと私は自分のなかから湧き出てくるものを作っていくという感覚なんです。いちばん最初は、私と声をかけてくれた友達と、今もドラムを叩いてくれているヤスさん(濱野泰政)の3人編成でライヴをしていたんですけど、そのライヴを本村くんが偶然観てくれて、〈一緒にやろう〉という話になった。その後に、ギタリストが抜けてからは、私と本村くんとヤスさんの3人編成になったんですけど、ギターはずっと探していましたね」

2012年のミニ・アルバム『印税生活』収録曲“はっぴいえんどを聴かせておくれよ(仮)”

――林さんと本村さんは、最初にカネコさんの音楽を聴いたとき、どんな魅力を感じましたか?

本村拓磨「僕が最初に聴いたのは、ベース抜きの3人編成でのライヴだったんですけど、価値観が全部ひっくり返されたような感じでした。歌を聴いて、〈こんなことを思ってもいいんだ。すごいぞ、これは〉と思ったのを覚えています。それで、自分から〈ベースを弾かせてください〉と伝えました」

林宏敏「僕の場合は、ギターを探しているという話をもらったのが最初でしたね」

カネコ「そう、私からお願いしました。林くんは、最近ライヴを観たなかでいちばん格好良いと思ったギタリストだったんです」

林「それで曲をもらったら、すごくいい歌を歌う人だなと思って。それまで名前は知っていたけど、音楽をちゃんと聴いたことはなかったんですよ。でも、音源を聴いて、一緒にやりたいと思いました」

――徐々に、カネコさんが信頼できる仲間が集まってきたという感じだったんですね。カネコさんは、今のメンバーの演奏にどんな魅力を感じていますか?

カネコ「今のメンバーに思うのは、〈歌を大切にしてくれる人たち〉だということですね。歌心がある演奏をする人たち。ドラムのヤスさんもそうです」

――それは実際に林さん、本村さんも意識していることですか?

本村「意識していますね。極端な話、自分のベースは聴いてもらわなくてもよくて、歌がいちばん良く聴こえるように……歌の内容がちゃんと届けばいいなと思ってやっているので」

林「自分の場合は、もともとそんなギターしか弾けない(笑)」

――では、今の編成になって、最初に音を出したときのことを思い出してもらえると嬉しいです。

カネコ「『さよーならあなた』(2016年)のレコーディング前だったんですけど」

林「まだ僕が、踊ってばかりの国をやっていたときですね※」

※林は踊ってばかりの国を2016年11月19日に脱退した

カネコ「デモの弾き語りを聴いてもらって、自分でもどういう展開が正解なのかわからない、という感じでみんなに相談して」

林「集まる1日前にそれを言われたんですよ」

カネコ「ハハハ(笑)。自分では切羽詰まりすぎてわけのわからない曲ができてしまったという感じでした。でも、プリプロで〈ここはドロッとしたくて……〉という話をすると、〈おお、わかった〉という感じですぐにやってくれて。林くんは最初からすごくわかってくれて、とても助かりました」

林「最初のレコーディングから楽しかったよね」

カネコ「そうそう。林くんは絶対怖い人だと思っていたんですよ。背も超高いし、最初に集まったときもびっくりしたぐらいで」

林「俺も人見知りがすごいから、普段は仲良くなるのに時間がかかるんです。でも、初めて集まったときから自然に打ち解けられた」

カネコ「すぐに仲良くなりました。『さよーならあなた』を録る以前には、2回ぐらいしかスタジオに入っていなかったのにね。レコーディングを終えて、その日にみんなで呑みに行ったよね」

本村「そうだ。あれは楽しかった」

2016年のEP『さよーならあなた』収録曲“さよーならあなた”

カネコ「私たちがもともとやっていたことに林くんが加わって、音楽がより良くなっていった感覚がありました。今回の『ひかれあい』に収録した“とがる”は、最近私が入眠する直前に脳裏に浮かぶ〈走る〉映像を曲にしたいという気持ちから生まれた曲なんです。そのイメージをバンドのみんなに伝えて制作しました」

――バンドのメンバーが、映像的なイメージからカネコさんのやりたいことをちゃんと掴んでくれるというのは、すごいことですね。

カネコ「そうですよね。『ひかれあい』の2曲目の“天使とスーパーカー”は、友達が(歌詞に登場する)〈今日の天使っているよね〉という話をしていたことがすごく記憶に残っていて。素敵な話だなと共感したことがきっかけです」

本村「ああ、その話をしてたね。僕もそこにいたんですよ。それがもう2年ぐらい前の話。〈今日の天使〉というキーワードがすごく印象的で、憶えていました」

カネコ「素敵な言葉だなぁと思って、曲を作ろうと思ったんです」

――今回の『ひかれあい』は、収録曲の3曲すべてバンド編成の音源と、カネコさんの弾き語り音源が収録されています。これには何か理由があったんですか? 2ヴァージョンを聴き比べることで、それぞれの違いを楽しめるように思いました。

カネコ「特にそういうことを考えていたわけではなかったんですけどね(笑)。普段は弾き語りでライヴすることが多いし、デモは弾き語りで作るので」

――カネコさんは、弾き語りとバンド編成に、それぞれどんな楽しさを感じますか?

カネコ「弾き語りは、自分のそのときの気持ちやペースで自由にやれることですね。バンドは、まるで青春のようで〈永遠に終わらないな、これは〉という気持ちになれます」

 

今がいちばん良くて、今がいちばん楽しい

――『ひかれあい』は今のバンドの魅力が詰まった作品になっているように思います。今回のレコーディング作業で、印象に残っている瞬間を教えてください。

本村「“とがる”のときは、全員で一発録りをして、〈これいいね〉とゲラゲラ笑っていました。あれはいい雰囲気だったし、すごく楽しかったですね」

カネコ「これまでも〈いっせのせ〉で録ることはありましたけど、あんなふうにリハーサルと変わらない雰囲気でレコーディングできたのは、初めてだったかもしれない」

本村「そのときの場の空気のようなものも一緒に音源に入ったというか」

カネコ「そうそう。今回は3曲とも、レコーディングの空間や空気感が録音できたと思っています」

本村「“とがる”は、特に全然いじくり回したりしなかったよね」

――最初にバンドの演奏が〈ドン!〉と入ってくるところから、その疾走感がすごく出ています。

林「あれを録音したのは確か、ピザを食べた直後じゃなかったっけ?」

――えっ、何ですか(笑)?

カネコ「レコーディングがクリスマスだったんです。だから、みんなでピザを食べて、その直後に録音しました。林くん、コーラも飲んでいたよね。だから〈ピザ・グルーヴ〉ですよ(笑)」

本村「ハハハ(笑)。“とがる”は骨太に行こうという話をしていたので、その前にご飯を食べようかという話になって。スタジオの近くにちょうどピザ屋があったんです」

カネコ「〈絶対にピザでしょ〉ってなってね(笑)」

林「2曲目の“天使とスーパーカー”は、自分のこれまでのギタリスト人生のなかでいちばんいいギターが弾けたと思っているんですよ。そのときに〈俺はこのバンドでギターを弾きたい〉と思いました。全体的なフレーズや、音の選び方が気に入っていて、〈このバンドで弾けるのは俺しかいない〉というギターが弾けたと思っているので」

本村「“天使とスーパーカー”のレコーディングで僕が覚えているのは、林くんがハコモノのギターを使っていて、僕がヴァイオリン・ベースを使っていて」

林「それで、俺たちビートルズみたいじゃんってね(笑)」

ビートルズの65年のシングル“We Can Work It Out”。ジョージ・ハリソンがハコモノのギターを、ポール・マッカートニーがヴァイオリン・ベースを演奏している

本村「それがすごく楽しかったですね。3人編成のときからやっていた曲なんで、そこに林くんが入って、また良くなったというか。そして3曲目の“朝になって夢からさめて”は、林くんがバンジョーを弾いていて」

林「その場で〈やってみて〉と言われたんですよ。スタジオのときから〈バンジョーを入れてもいいかもね〉という話は出ていたんですけど、初めて弾いたのはレコーディングのときでした。そこからバンジョーにハマってしまいましたね」

カネコ「レコーディングのときは、ヤスさんが本当にいろんな楽器を用意してくれるんです」

――その場で思いついたアイデアをすぐに形にできるような環境になっているんですね。

カネコ「あと、本村くんはもうずっとベースを弾いてもらっていて、昔からベースも上手だし理論もわかる人でしたけど、今回“とがる”のときに、私が言うのもなんですけど、〈本村くん、本当にベースが上手くなったな〉と思ったんですよ。上手いというか、本当に歌に寄り添って弾いてくれる人なんだなとあらためて実感しました」

本村「ああ、それは嬉しい。彼女の歌も、僕が言うのは変かもしれないですけど、どんどん意思が強くなっているなと感じます。僕自身もそれに呼応したベースを弾くようになってきているのかなと思いますね」

――お互いに積み重ねてきたものが、相乗効果を生んできている、と。

カネコ「そうですね。今回の『ひかれあい』はそういうことをすごく感じました」

――『ひかれあい』というタイトルには、どんな意味が込められているんですか?

カネコ「(2016年4月の)弾き語り作品『hug』は、以前までいた事務所を辞め、フリーランスで一時期活動していたときにリリースしたんですけど、そのタイミングで自身の周りの環境――マネージャーやエンジニア、カメラマンなどスタッフのみならずほかにもたくさん――を良い意味で変えてみることにしたんです。そうした変化を経て、みんなが惹かれ合いながら、これからも良い作品を作っていける気がした。私は周りのみんなに対して愛しかないから、それを歌いたいし、そういう作品を作りたい。そして、『hug』から1年たった今、そういう作品が出来た。だから、タイトルを『ひかれあい』にしたんです」

林「このEPは、これまででいちばんいいんじゃない?」

カネコ「だよね(笑)。私もそう思っているんですよ。曲もジャケットも、アーティスト写真もミュージック・ビデオも、今がいちばんいいんじゃないかなと感じていて」

――実際、“とがる”には、〈かわる〉という単語が印象的に出てきます。

カネコ「そうですね。『hug』からの1年間、変わるタイミングがたくさんあって、嫌な経験もしたし、苦しいこともあったけど、やっぱり、私は変わっていきたい。前は、変わるのがダサいと思っていたんですよ。でも、この1年でそこが変化した。バンドのために歌うし、来てくれるお客さんや、いつも一緒に活動してくれるスタッフたちのためにも歌うようになった気がしています。これからもずっと変わっていきたい。今がいちばん良くて、今がいちばん楽しいという感じですね」

2016年の弾き語りアルバム『hug』収録曲“グレープフルーツ”

――では、昔と今とでカネコさんが変わったこと、ずっと変わらないことを挙げるなら?

カネコ「昔と違うのは、明るくなったこと。よく笑うようになったのはすごく大きいです。変わってないのは、わがままなところ、ですかね」

本村「横から見ていると、楽しいことを自分からどんどん発信したり、自分からそういう場所に飛び込んでいったりするようになっているんじゃないかな、と感じますね」

カネコ「会いたい人には自分から会いに行くようになったんですよ。それに、人と遊ぶということが、以前より好きになったんじゃないかと思います」

林「このバンドで遊んでいても、すごく楽しいよね」

カネコ「ね。スタジオやライヴがない日も、バンド・メンバーで遊んでいるし。そうやって人といろいろなことをするのが、前よりも楽しくなっています」

林「あと、僕が観ていて思うのは、ライヴでの変化ですね。去年の11月に初めて会ってからでも、ライヴでの立ち居振る舞いに自信がついたんじゃないかな、と思います」

カネコ「昔は、恥ずかしかったんですよ。でも今は自分をそのまま出せるようになっているというか。やりたいことをやらせてもらえているんだから、もっと自分を出そうと思うようになりました」

――今は、それを受け止めてくれる人たちがいるからなのかもしれないですね。最後にこれから、どんな活動をしていきたいと思っていますか?

カネコ「もっと大きなところでライヴをやってみたいです。とにかく、やったことのないような、大きなところでやりたい。見たことのない景色を、見たことのあるものに変えていきたいです」

 


LIVE INFORMATION
インストア・ライヴ
2017年4月29日(土)15:00~
タワーレコード新宿店 7Fイヴェント・スペース(バンド編成)

2017年5月2日(火)21:00~
ココナッツディスク吉祥寺店(弾き語り)

2017年5月20日(土)15:00~
名古屋PARCO西館 1Fエントランス・スペース(弾き語り)

2017年5月21日(日)15:00~
タワーレコード難波店 5Fイヴェント・スペース(弾き語り)

※すべて観覧自由

 

カネコアヤノ ツアー2017 “ひかれあい”
2017年5月3日(水・祝)群馬・高崎club FLEEZ
2017年5月6日(土)静岡・浜松FORCE
2017年5月7日(日)COMIN’ KOBE 兵庫・神戸ワールド記念ホール
2017年5月13日(土)廃校グルーヴ 香川・高松 モモの広場
2017年5月14日(日)島根EAD CAFE
2017年5月28日(日)いつまでも世界は... 京都市内エリア
2017年6月4日(日)岡山ラウンジ・カド
2017年6月5日(月)広島ヲルガン座
2017年6月10日(土)宮城・仙台teato
2017年6月11日(日)新潟EDITORS CAFE
2017年6月17日(土)沖縄・那覇G-shelter
2017年6月18日(日)沖縄・那覇BABYBABY
2017年6月24日(土)北海道・苫小牧ELLCUBE
2017年6月25日(日)北海道・札幌キノカフェ
2017年7月1日(土)愛知・名古屋K.Dハポン 共演:Homecomings
2017年7月7日(金)大阪・心斎橋LIVE HOUSE Pangea 共演:バレーボウイズ
2017年7月9日(日)東京・代官山 晴れたら空に豆まいて ※ワンマン・ライヴ
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NEWWW vol.13
2017年6月16日(木)東京・渋谷 WWW
共演:バレーボウイズ/MONO NO AWARE
開場/開演:18:30/19:30
料金: 前売り 1,000円(1D別)
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