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抜けの良いものを

YOUR SONG IS GOOD Extended KAKUBARHYTHM(2017)

 ダンス・ミュージックをやるうえでの〈制約〉を〈バンドの個性〉として変換するなかで生み出された“Waves”を手掛かりのひとつとして、新作『Extended』の制作は進められていった。結果として作り上げられたのは、レゲエ~ダブを接着剤としながら、バレアリックやディスコ・リエディット、ニューウェイヴ・ファンク、クンビアなどさまざまな要素が繋ぎ合わされた、YSIG以外の何物でもない異形のダンス・ミュージック。それもあきらかに今までのYSIGとは異なる空気感を纏った、フレッシュで風通しのいいダンス・ミュージックだ。

「今回は抜けの良いものを作ってみたかった。ダンス・ミュージックといっても真っ暗なダンスフロアじゃなくて、自然光が射す午前中のイメージ。そういうこと、今までやったことなかったんですよね。どちらかというと南国の灼熱のイメージを引っ張ってましたからね(笑)。温度設定をもう少し下げて、心地良い感じにしようと。イメージとしてはイジャット・ボーイズの『Versions』とか。あのアルバム、午前中にすごくハマるんですよ」。

 そうして制作を進めるなかで浮上してきたのが、〈気持ち良さ〉というキーワード。

「長いことバンドをやってきて、ここから自分たちは何をやるべきか考えていったとき、〈気持ち良さ〉というシンプルなところを突き詰めていくのは自然なことだと思えたんですよね。演奏していてもきっと気持ち良いだろうし、これは飽きないかも、と」。

 浮遊感のあるキーボードとギターが絡み合うバレアリック・ムード満点の“Cruise”で幕を開け、ニューウェイヴ・ディスコの雰囲気も漂う“New Dub”、松井泉のパーカッションが大活躍するトライバル・ハウス“Mood Mood”、フロアライクなダブ・クンビア“Double Sider”、バレアリック経由のラヴァーズ・ロック“Palm Tree”、ディスコ・リエディットをバンド編成で演奏したかのような本作のクライマックス“On”、さらに先述の“Waves”──曲調は今まで通り幅広いが、通底するのは上がりすぎず下がりすぎない〈気持ち良さ〉。よりメロウに、よりディープに進化した快楽度数高めのYSIGをたっぷり楽しませてくれる。

 そんなYSIGも来年は結成20周年。JxJxは「難しい時期もあったけど、最近は力が抜けてきてちょうどいい感じかな? そう思ってるのは自分だけかもしれないですけど(笑)」と笑うが、20年もの期間バンドを継続し、なおかつ常に新たな姿を打ち出し続けるというのはそう簡単なことではない。

「たまに思うんですけど、アルバムごとに同じメンバーで新しいバンドを結成してる感じなんですよね(笑)。それゆえにしんどいんですが、だからこそ続いてるというか。きっと、必ずどこかにフレッシュな要素がないと、全員しっくりこないんでしょうね」。

『Extended』の初回盤に参加したリミキサー陣の作品。