KNOCK ON THE DOOR
[特集 ]理想の〈アメリカ〉を求めて
アメリカがどこへ向かおうとも、アメリカーナはいつだってここにある。先行きの見えない時代だからこそ、ルーツに根差した音楽と旅に出ないかい?

★Pt.1 FLEET FOXES『Crack-Up』
★Pt.2 JEFF TWEEDY『Together At Last』
★Pt.3 DAN AUERBACH『Waiting On A Song』
★Pt.4 SUFJAN STEVENS/BRYCE DESSNER/NICO MUHLY/JAMES McALISTER 『Planetarium』
★Pt.6 ディスクガイド

 


「American Epic」と巡る1920年代の米国

VARIOUS ARTISTS American Epic: The Soundtrack Legacy(2017)

 T・ボーン・バーネット、ジャック・ホワイト、ロバート・レッドフォードが制作総指揮を務めた「American Epic」。1920年代のレコーディング機材が、デルタ・ブルースやケイジャン、ハワイアンなど米国各地の音楽をどのように記録し、それらをどのように広めていったのか――そんな物語を追う同ドキュメンタリー番組は、ミュージック・ラヴァーにとって興味深い内容だろう。ロバート・ジョンソンやチャーリー・パットンこそがアメリカ音楽のパイオニアだと主張する本編のサントラ『American Epic: The Soundtrack』には、ほかにもメンフィス・ジャグ・バンド、ミシシッピ・ジョン・ハート、ジミー・ロジャーズらの貴重な音源が並ぶ。

VARIOUS ARTISTS American Epic: The Sessions Lo-Max/Columbia(2017)

 で、注目すべきは番組から派生した新録の2枚組コンピ『American Epic: The Sessions』。ここでは現代を生きるミュージシャンたちが1920年代のコンデンサー・マイクやカッティング・マシーンなどを使ってレコーディングするという、チャレンジングなアプローチがなされている。アラバマ・シェイクスがいなたいシャッフル・ビートを奏で、エルトン・ジョンとジャック・ホワイトがブルージーに絡み合う。くすんだ音質の中で展開されるセッションはどれもプリミティヴな躍動感に溢れており、仕上がりはシンプルの極み。ナズやラファエル・サディークまでがカントリー/ブルース世界の住人みたいな表情をしていることも印象的だ。ゴスペルに料理されたベック“Fourteen Rivers Fourteen Floods”や、ウィリー・ネルソンとマール・ハガードというアウトロー・カントリーの両巨頭によるデュエット“Old Fashioned Love”も芳醇な味わいがあり。本作を通じて時代を超越したアメリカーナの魅惑的な世界を堪能してほしい。 *桑原シロー