フランク・シナトラを、独創的なスタイルでモダンにカヴァー!
オーティス・レディングに一番影響を受けていると言い切るベン・ロンクル・ソウルは、スタックスやモータウンのような古式ゆかしきソウル・ミュージックを現代に再現して人気を集めたパリ在住のシンガーだ。が、これまでのようにモータウン・フランスからではなく仏ブルーノートからリリースした2016年の最新作『Under My Skin』はフランク・シナトラの名唱で知られる楽曲のカヴァー集に。その経緯はこうだ。
「2年前の夏、LA滞在中に車でかける音楽が欲しくて友人からシナトラのCDを借りたら、歌詞に出てくる内容がLAの雰囲気そのもので気に入ったんだ。シナトラって何百曲も録音していて、カヴァーもされて世界中に知られているけど、自分も歌いたくてね」
だが、パリのスタジオでベン・ワックスとマテュー・ジョリーらと制作したアルバムは、シナトラの曲を現行のR&Bやクラブ・ジャズ、レゲエ~ダブ的なスタイルで歌っており、一聴してシナトラのカヴァー集だと気づかないほど独創性のある仕上がりになっている。
「シナトラの曲はポップ性が高いから自由自在にアレンジできるんだけど、今回はコードを簡素化させてより親しみのある楽曲に書きかえたんだ。シナトラの真似をする人はたくさんいるけど、結局シナトラを超えることはできない。だから自分は自分らしく、自分ができることをやった。B.B.キングや初期のドゥー・ワップ、それにフージーズまで、自分の音楽的影響を見せたり聴かせたりするという意味でもね」
特に《I Love Paris》と《New York New York》はレゲエ~ダブの感覚が強く、スタジオにホレス・アンディのアルバムを持ち込んだというエピソードにも頷ける。《I Love Paris》にはパリでの無差別テロによって恐怖感を覚えた体験も僅かながら反映しているようだ。
「だからブルージーなレゲエにしたんだ。父親が(仏領)マルティニーク出身なのでレゲエやカリブ音楽に影響を受けていて、そういうリズムが出てくるのは自然なことだった。スタジオにはホレス・アンディ、それにチャールズ・ミンガスのアルバムも持ち込んだよ」
自分らしくシナトラの曲を歌うことで自身のルーツにまで遡った彼は今後、どこに向かうのだろうか?
「次の作品はいろんな音楽をミックスしたものになると思う。でも、スタジオ・ワンへのトリビュートを含めたレゲエ・アルバムになるかもしれないし、70年前後のサイケデリック風な音楽をやるかもしれない」
そう答えた彼は取材当日、ジミ・ヘンドリックスのマグショットをプリントしたTシャツを着ていた。そして「オンラとバッドバッドノットグッドが好き」とも語った彼は、さらに面白いことをやってくれそうだ。