(c)2016 STREET CAT FILM DITRIBUTION LIMITED ALL RIGHTS RESERVED.

ボブという一匹の野良猫との出会い。お互いをいたわりあう存在が、男の人生を変えた!

 僕も猫を飼っていたことがあり、その可愛さをよく知るが、猫は勝手気ままでもあり、飼い主の相棒にはなってくれない生き物のはず。ところが、飼い主に常に寄り添い、先行きの見えない日々を送っていた男の人生を好転させ、社会の底辺から引き上げた猫がいた。それはロンドンで起こった実話で、その物語を記した12年の回想録は英国だけで150万部超というベストセラーとなった。映画『ボブと言う名の猫 幸せのハイタッチ』はジェームズ・ボーエンの実話を映画化した心温まる作品である。

 路上でギターを弾いて歌うジェームズ(『タイタンの戦い』のルーク・トレッダウェイ)はホームレスで、ヘロイン中毒から抜け出すために代用薬のメサドンを服用している。バスキング(路上演奏)では稼げず、ゴミ箱を漁る悲惨な境遇だ。寒いロンドンで雨に打たれながら、食べ物と寝床にする場所を探す姿は本当に痛々しい。そんな苦しい日々に中毒者仲間に出会い、再びヘロインに手を出して死にかける。

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 もう後がないと親身に心配するソーシャルワーカーのヴァル(ドラマ『ダウントン・アビー』のジョアンヌ・フロガット)の尽力で、ジェームズは住まいを見つけてもらい、今度こそと社会復帰への努力を始める。お湯が出ると喜ぶ姿が印象的だ。ここまでの映画の序盤は、社会の片隅で必死にもがいているのに、ほとんどの人びとには見えない存在となっているホームレスや中毒者の状況を描いており、ケン・ローチの映画と言ってもおかしくはない。

 そんなジェームズのところにどこからともなく現れたのが、茶トラの猫、ボブだった。ここからが贖罪の物語の始まり。ボロボロの生活を送っていた男が、猫の世話をすることで、自分の人生を少しずつ立て直していく。或る日、ロンドン中心部にバスキングに行くジェームズを追いかけてきたボブはバスに飛び乗り、一緒に出掛けることに。それからのボブはバスキングやホームレス支援雑誌『ビッグイシュー』販売の際に常にそばにいる存在となり、その愛らしさでチップや売り上げの増加に大きく貢献する。相手が猫であれ誰であれ、お互いをいたわりあう存在を得ることで、人生は大きく変わるのだ。そんな日々に近所の女性との恋や父親とのもつれた関係も描かれ、やがてジェームズはコールド・ターキーと呼ばれる苦しい中毒克服に挑む決心をする。

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 監督のロジャー・スポティスウッドは、007シリーズ『トゥモロー・ネバー・ダイ』などで知られるが、以前にトム・ハンクス主演『ターナー&フーチー/すてきな相棒』という人間と犬の友情物語を撮っており、本作でも動物への愛情が全編で感じられる。キャストで最注目はもう一人(匹)の主役だ。実は映画に登場するのは本物のボブである。重要な場面の大半は彼自身が演じた。邦題にある「ハイタッチ」(英語では「ハイファイヴ」)は仕込まれた芸ではなく、本物ならではのワザなのだ。

 また、音楽にも注目してほしい。主人公がバスキングで稼ぐ設定なので、音楽が売りで当然と思うかもしれないが、現実のジェームズは多くのバスカーと同じく、誰もが知る曲、例えばオアシスやU2のヒット曲などを歌っていた。彼にとってギターを弾いて歌うのはあくまでチップを稼ぐ手段だから。

 だが、この映画のジェームズは自作曲を歌う。それらの曲を書き下ろしたのが、ノア・アンド・ザ・ホエールのチャーリー・フィンクだ。ノア・アンド・ホエールはマムフォード&サンズらと共に「NUフォーク」とも呼ばれた00年代後半の英国でのアコースティック・リヴァイヴァルの一翼を担ったバンドで、創立メンバーには人気女性シンガー・ソングライターのローラ・マーリングもいた。

 チャーリーは15年にバンドを解散し、今年6月にソロ・デビュー・アルバム『カヴァー・マイ・トラックス』を発表したばかり。この『ボブという名の猫』のサウンドトラックは、それに先駆け、バンド解散後の自作曲を初めて披露する機会となった。彼は人生における出会いを衛星の動きに重ねる《サテライト・モーメンツ》など計6曲を提供し、レコーディングでもトレッダウェイをサポートした。

 

映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
監督:ロジャー・スポティスウッド
出演:ルーク・トレッダウェイ/ジョアンヌ・フロガット/ルタ・ゲドミンタス/アンソニー・ヘッド
配給:コムストック・グループ (2016年 イギリス 103分)
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bobthecat.jp/
◎8/26(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー!