マンドリンとギターで味わうイタリアの夏
ナポリは、マンドリン発祥の地。マウロ・スクイッランテは、そこに誇りを持ち、衰退していたマンドリンの人気を復活させた第一人者だ。学校で教鞭を執る一方で、ナポリ・マンドリン・オーケストラを主宰している。そのマウロがギタリストのサンテ・トゥルジとのデュオで新作『Estate~イタリアの夏~』を発表。昨年の秋編に続く、四季シリーズの第2弾になる。
「四季をテーマにアルバム制作するのは大きな挑戦だった。イタリアにそういうアルバムはないから。日本からの提案にワォ~!!って大興奮したよ」(マウロ)
2人は、同じ音楽学校の先生仲間。イタリアの多彩な夏を演奏で伝えるべく、選曲に苦心したという。
「イタリアの夏は、とても表情豊かなんだ。ビーチだけではなく、内陸部の畑では作物が青々と輝き、また恋が生まれる季節でもある。それと帰省の時期で、各地でお祭りが行われたりするので、《麦祭》や《民衆の祭り》といった曲は、意図的に選んでいる」(マウロ)
後者の《民衆の祭り》は、カトリックの伝統的なお祭りに関する楽曲をメドレーにしたものだが、今回は、メドレーが3曲も。これがひとつの特色である。
「インストゥルメンタルのデュオだと、編曲して演奏しても、歌がないので、リフレインが間延びしてしまう。だから、メドレーにするのがいいと思ったんだ。イタリアには夏の定番曲がある。夏になると、必ずラジオから流れてくるような歌、それをメドレーにしたのが“トルメントーニ組曲”。トルメントーニとは一度聴いたら忘れられないという意味さ。いずれも1960年代のヒット曲だけれど、最近は、こういうイタリア語の定番曲がなかなか生まれないんだよね」(サンテ)
トルメントーニの中には弘田三枝子の《太陽の海》や森山加代子の《月影のナポリ》など、日本語でカバーされた曲もあり、世代によってはノスタルジーが感じられるはずだ。それにしてもトレモロで奏でられるマンドリンの音色は、気品があって美しい。なのに、なぜ発祥の地でマンドリンは、衰退してしまったのか。
「歴史に翻弄されたこともあり、ネガティヴな意味で、古いイタリアを象徴する存在になってしまった。グローバリゼーションの弊害でもあるね」(マウロ)
「でも、マウロの尽力で、今ではマンドリンを教える音楽学校が南イタリアにも出来て、若い世代で学ぶ人、演奏できる人が確実に増えているよ」(サンテ)
収録曲にはピアソラの《ブエノスアイレスの夏》とヴィヴァルディの《夏》がある。2人の演奏力の高さを示す曲だが、ともに『春』と『冬』が残っている。
「今後春と冬を録音して、四季シリーズを完結させたいけれど、それも新作の売上次第かな(笑)」(サンテ)