ディアンジェロ率いるヴァンガードの一員であり、多くのアーバン作品に参加してきた気鋭ジャズ・トランペッターによる注目の新作。そんな経歴を反映した内容で、ビラルやビッグ・クリット、ファロア・モンチ、ゲイリー・クラークJrら豪華客演陣のパフォーマンスを演奏で鋭く煽りつつ、自身が主役を張る。トランペットのキレと熱量をもっとも味わえるのはゲストなしの不穏なビートで吹きまくる“Bubba Rides Again”か。
昨年封切された映画「MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間」で主演ドン・チードルの演奏部分を担当し、その際に彼の人柄、音楽性に大いに共鳴したドンから贈られたニックネーム(ミュージシャンとマジシャンの造語)がタイトルとなっている。キーヨンの思想や観念が表出した音には、社会への疑問や怒り、そして愛が詰められている。それは時にメロディで語り、ブレスノイズで嘆く。そう感じるのは、トランペットという楽器の持つ〈語る力〉が余すことなく引き出されているからこそ。マイルスが持ち合わせていたものをきっと彼も持っているかもしれない。幾度となく聞き直す価値のあるアルバムだと思う。