『WOW』から25年。現在の大西の姿を表わす、カラーの異なる2作品が同時発表
炎の立つようなメインストリーム・ピアノを弾き倒してきた大西順子(ピアノ)。誰の記憶にも残るあの名作『WOW』から数えて25年となるここにきて、50歳になった現在の自分の立ち位置を示す、カラーの異なる2種類のアルバムを同時発売することにした。
東京の地下クラブで腕を馴らし、バークリー卒業後の1980年代末からNYを拠点に本格的プロ活動を開始する。本場一流どころが当初よりそのステージに注目し、そして93年に『WOW』を発表すると瞬く間にシーンのトップへ踊り出ていた。以来常にシーンの中心にいながら、2000年の大阪公演を最後、第1回目の蟄居に下る。7年後に謹慎を解き復帰してみれば、相変わらずのダイナミックさで再び世界へ話題をふり撒いてみせた。そんな中でまた、突如、演奏家活動からの引退を表明するのだ。家庭の事情が転じ、業界の在り方に変化が生じ、ビジネス形態が以前のものと違ってきたのが要因だと、今ではそう振り返られる。ただ当時は天才ならではのこの奇行が、ファンを一喜一憂させた。その後、小澤征爾の熱烈なラヴコールに一夜限りの条件で応えたり、日野皓正の激励を受けて舞台へ登壇することはあった。ただその素行は依然として計り知れず。そんな昨年の6月、初めてプロデューサーを立てた『ティー・タイムズ』を発表し、約3年ぶりとなる完全復活の狼煙を上げたのだった。
プロデューサーの菊地成孔は炎が立つような演奏を身上とする大西に、冷めた闇を抱える哀愁曲をやらせたいと願った。ジョージ・ラッセル好きの2人が想定したのは、かのオーケストラがやるビル・エヴァンスとポール・ブレイのダブル・ピアノのひとり多重録音版だったか。『ティー・タイムズ』にはそんな“クロマティック・ユニヴァース”の他、デトロイト・テクノをモティーフとした2種のタイトル曲、菊地の作曲に挟間美帆のペンを躍動させた大編成曲、トリッキーなクロスタイムを取り入れた超絶ナンバー、闊達なラップとのかけ合い曲を収録。仕様が大がかりすぎたため奏者側がクラブ・サーキットに耐えうるか微妙だったが、目出度く参集したオーディエンスを仰天させて終わることになる。
そこで得た次へのヒントはドラマー・スキルの躍進による4拍子と5拍子を交錯させたグルーヴの、自作曲上での具現化だ。またこの現象の、ソリストに限らぬバンド全体への浸透。それは第2期マイルス・バンドがやったことの現代版であり、日々浮遊する想念が作る、割り切れないタイムによる偶発的創造作業だという。自身のトリオで2年間この感覚を追いかけてみた大西は (この時のドラマーは高橋信之介(ds)ではなかったが)、大きな勘違いをしていたことに気づいた。つまり「古曲のリメイクばかりしていても唯一無二の演奏家になれない」と語ってきながら、かつての巨人(アート・テイタム、アーマッド・ジャマル、ロイ・ヘインズ、エルヴィン・ジョーンズたち)が意図せずもそんな感覚を古曲において適えていたのだ。この気づきが一人ではまとめきれなかった次へのステップを促し、その成果が新ドラマーを迎えセルフ・プロデュースに戻った今回の、現在の大西の姿を表わし自身にとって初となる2作同時発表のアルバム群ではなかったか。
「『グラマラス・ライフ』は今までどおり限界まで攻撃的で、パワー漲る演奏集です」。『楽興の時』以来、8年ぶりのピアノ・トリオ作。より柔軟性ある名手・高橋を迎えた現メンバーで、最新オリジナル曲の他、ウェザー・リポート、ODJB、97年にモントルーでも演奏した“クトゥービアにて”を扱う。「初のバラッド集『ヴェリー・スペシャル』は10年以上も温めてきたヴェルディの“柳の歌”の他、愛しいメロディを持つ曲群をデュオで演奏します。私の演奏はBGMにならないと言われますが、ゆったりした時間を創出してくれるはず」。“ラッシュ・ライフ”と“ア・フラワー・イズ・ア・ラヴサム・シング”の2曲のストレイホーン歌曲でやったデュオの相手は、なんと、時代を開くカリスマ・シンガーのホセ・ジェイムズだ!
自作曲でのタイムの浮遊と交錯、過去の歌ものへの篤い顧慮、抑制とそこからの解放によるカタルシスの官能……新たなる大西ワールドが展開する。
LIVE INFORMATION
大西順子VERY GLAMOROUS TOUR 2018
大西順子(p)井上陽介(b)高橋信之介(ds)馬場孝喜(g)
○1/25(木)ビルボードライブ大阪
[1st]18:30開演/[2st]21:30開演
○2/8(木)・9(金) ブルーノート東京
[1st]18:30開演/[2nd]21:00開演
○2/23(金) 名古屋ブルーノート
[1st]18:30開演/[2st]21:15開演
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