今後の作品への序章のような印象も受ける、現代ジャズを語る上ではマストな1枚
2015年、ジャズ界のニュースターとしてシーンを席巻したアルバム『The Epic』から2年。6曲入りのミニアルバムが遂にリリースされた。詳しい内容に入る前に、この作品の制作背景に少しだけ触れておこう。 本作は、2年に1度開催されるホイットニー・ビエンナーレ2017にて、カマシの姉アマニ・ワシントンのアートワーク、A.G.ロハス製作のフィルムとともに初演されたものである。このイヴェントはコンテンポラリー・アートの最高峰を収蔵するホイットニー博物館が主催するものであり、最先端アートや新進気鋭のアーティストを数多く紹介してきたことで知られている。絵画や彫刻、映像/写真、パフォーマンス、ビデオゲーム・デザインなど幅広いカテゴリーが集結する展覧会であり、カマシの音楽が映像やアートともに紹介されることは、現代アメリカのジャズシーンを考える上でも非常に興味深い。
本作は6曲がそれぞれ一つの楽章をなしており、最後の第6楽章にてすべての楽章が統合されるというコンセプト。1曲1曲は独立した楽章であるが故、一聴して各々が違ったカラーをまとっている。1曲目の“Desire”はローズのソロや浮遊するシンセのカウンターメロディなど『The Epic』とは違う新しさを感じさせるし、4曲目の“Perspective”ではモダンかつダンサブルな8ビートが心地よく、マイケル・ブレッカーあたりが得意そうな曲を彼らしいコンテンポラリーな色に染め上げる。もちろん、彼の代名詞とも言えるような力強いテーマを持つ2曲目“Humility”も聴きごたえ充分。そして最終楽章となる“Truth”は13分超からなる楽曲であり、壮大なオーケストレーション・コーラス、そしてカマシのブロウが堪能できる傑作である。
カマシ本人は本作についてこう語っている。「ぼくが望んだのは、異なるメロディを合わせたときに作り出される美しいハーモニーを体験することで、皆が自分たちそれぞれの違いにある美しさに気づく手助けをすることなんだ」
彼は、世の中における人種や言葉、習慣の違いを、様々なリズムやメロディが織りなすコントラストと同じように〈美しいもの〉と定義しようとしているのかも知れない。