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発掘された作りかけの楽曲は宝物のよう

――そして、『NEW SCHOOL』から15年が経ち、2017年の12月に新作『TIMELESS MELODIES』がリリースされたわけですが、長いブランクを経た久しぶりの作品をお2人はどう捉えられていますか?

堀江「感覚的には連載漫画の久しぶりの新刊を書いたような、そんな感じかな。実際、全7曲中、4曲目の“Potassium Purple”と5曲目の“Love Is Navy Blue”、6曲目の“Timeless Melody”という3曲は『NEW SCHOOL』以降に作品を作ろうとして、骨格は出来ていたものの、頓挫したまま眠っていた曲だったりするしね」

チャーベ「当時のエンジニアにハードディスクを探してもらったら、〈作りかけの曲が3曲ありました〉って送られてきて。ディテールはまったく覚えていなかったんだけど、聴き直してみたら、〈これは完成させられそうだな〉って」

――当時、その3曲はどういう意図で作られたんでしょう?

チャーベ「4曲目の“Potassium Purple”は、当時、堀江くんがナイトメアズ・オン・ワックスにハマってて、僕は買ったばかりのCDJでスクラッチを入れたり、スティールパンを叩いたりしながら、自分たちなりにループ・ミュージックの可能性を試してた曲ですね。当時のデモには堀江くんの仮歌が入っていたんだけど、今回は僕の要望で歌を入れずインストとして収録したんですよ」

堀江「うん。当時はループ感に翻弄されて、壊れちゃったんだろうね(笑)」

チャーベ「それ以前は、例えば、堀江くんがちょっと突っ込んで弾いたキーボードにドラムが付いていくのがグリットのズレであり、そこが生演奏のグルーヴの気持ち良さだったんですけど、リズムのループ組みと、そのズレがなくなるわけで、当時の堀江くんはそのトラックのうえでピアノを弾きながら歌うのがすごくイヤだったんでしょうね(笑)」

――でも、今この曲を聴くと、気持ちいいアーバン・ファンクというか、10年以上前にこんな試みを実践していたことが驚きでもあり。

チャーベ「シティー・ポップだよね(笑)」

堀江「当時、ライトハウス・ファミリーに触発されたんじゃないかなって、自分は考えているんですけどね(笑)」

――かと思えば、6曲目の“Timeless Melody”の、途中でボサノヴァのギターが出てくる構成は謎ですよね。

チャーベ「あれ全然意味がわからないですよね(笑)。たぶん、サンプリングなんじゃないかな。スタジオにレコードを持ち込んで、あれこれやっていたんだと思いますね。当時の記憶がまったくなくて、自分としては宝物を見つけたような感覚なんですよ。今回の作品は新たに書き下ろした曲だけを収録してもよかったんですけど、このタイミングを失ったら、発見された3曲は永久にお蔵入りになりそうだった。それなら、新旧の曲を織り交ぜて作品をまとめたら、いちばん美しいんじゃないかなって」

 

解釈のズレが音楽に広がりを生む

――かたや、4つの新曲に関しては、どのように取り組みましたか?

堀江「1曲目の“Magic Hour Melodies”はチャーベくんとスペシャルズのライヴを観た帰りの車の中でイメージが浮かんだもので、最初の考えでは8ビートだったんですけど、リズム・パターンの展開だったり、曲の繋ぎ合わせはチャーベくんのアイデアで変わりましたね」

チャーベ「倍と半分を行き来するビートは、フットワークだったり、今のヒップホップのドラム・パターンをFRONTIER BACKYARDのTDCくん(福田忠章)に叩いてもらいました」

――この曲とそのインスト・ヴァージョンであるラストの“Magic Hour Colors”のオーケストラルなシンセ・ワークは素晴らしいですよね。

堀江「(70年代に活動していた英国のポップ・バンド)パイロットのキーボード奏者、ウィリアム・ライオールのソロ・アルバム『Solo Casting』(76年)に触発されたんですよね」

チャーベ「パッドのシンセサイザーのサウンドを聴いて、僕はプリファブ・スプラウトのなかでもめちゃくちゃ好きなアルバム『Jordan:The Comeback』(90年)を思い出して、めっちゃアガってたんだけど(笑)」

堀江「そういう解釈のズレが、NEIL AND IRAIZAっぽい(笑)。そういうとき、普通はどちらかに寄せるんだけど、ウチらの場合はズレたまま突き進むんですよ」

チャーベ「そのほうが曲に広がりが生まれるじゃないですか。そのズレによって何が出てくるのかを自分たちは楽しんでいるんですよ」

――そうかと思えば、“Clock Park Orange”は、ビーチ・ボーイズのようなポップス・クラシックの要素も感じられますし、“Mixture Of Love”はバーズのようなフォーク・ロック的な要素もあって、クラシック・ロックやポップスがルーツにある堀江さんらしい曲だと思いました。

チャーベ「“Clock Park Orange”に関しては、曲を作っているときはまったく考えてなかったんですけど、レコーディングしているある瞬間にブライアン・ウィルソンがかつて書いた“Guess I'm Dumb”が突然思い浮かんで、そういうパーカッションを入れてみようかなって思ったんですよね」

堀江「“Mixture Of Love”は、チャーベくんがメッセージ・ソングを書いたんだよね」

チャーベ「スペシャル・AKAの“Racist Friend”(84年)に対するアンサーソングというか、アンチ・レイシズムについての歌詞を書きたかったんですよ」

堀江「フォーク・ロックってバーズの“Turn! Turn! Turn!”もそうですけど、プロテスト・ソングが多かったりするじゃないですか。そういう意味でサウンドと歌詞のコンセプトがばっちりハマった曲ですね」

 

もはや僕ら2人を飛び越えて、NEIL AND IRAIZAの音楽が存在している

――音楽におけるメッセージの在り方という意味では、90年代はお二人とも若かったこともありますし、音楽と社会の関係が切り離されていましたよね。

チャーベ「そう、考えてませんでしたよね」

――ただ、アンチ・レイシズムのメッセージが込められた“Mixture Of Love”しかり今回の歌詞は、〈時間とメロディーと色〉という作品に通底するテーマが明確にありますよね。

チャーベ「そうですね。今回は歌詞を日本語で書くのが気分でしたし、書くにあたっては、そういうテーマしか考えられなくなってしまったというか。僕はテーマを設けた作品のほうが好きだということもあるし、10年以上離れた2つの時期に書かれた曲をどう聴かせるかを考えた時に一貫したテーマを設けるのがいいんじゃないかって思ったんですよ」

堀江「ただ、そうは言っても、NEIL AND IRAIZAの場合、今回の歌詞もそうなんですけど、自分のことを歌っているわけではなく、作家的な発想というか、客観的な視点で書かれていたりもするし」

チャーベ「そう、僕らの曲に出てくる主人公は僕でも堀江くんでもないんですよ」

堀江「だからこそ、NEIL AND IRAIZAの音楽はリスナーやオーディエンスが強い思い入れを持ってくれるのかなって。僕らはヒット曲らしいヒット曲はないけど、音源の再現度が低いアレンジによるライヴの演奏を、頭の中で勝手に補ってくれるくらい思い入れを強く持ってくれているオーディエンスがいて。もはや、僕ら2人を飛び越えて、NEIL AND IRAIZAの作品が存在しているんです」

――そういう点では、NEIL AND IRAIZAの作品は、フワッとしている部分がポジティヴに作用している音楽なんだと思いますね。

堀江「そう、フワッとした音楽の走りではあると思います(笑)」

チャーベ「そういう作品を今の若い子がはたして聴いてくれるのか(笑)。そして聴いて、どう思うのかを訊いてみたいですね。個人的には、〈スカートの澤部くんが聴いてくれたらうれしいな〉とか、漠然と届けたい人はいるんだけど、ライヴでの対バン相手みたいなのをイメージしても具体的には思い浮かばなくて、今のNEIL AND IRAIZAは誰もいないところで旗を振っている状態というか(笑)。まぁ、でも、それもおもしろいかなって思っているんですけど」

堀江「よくギター・ポップ云々って書かれたりもするんですけど、実はギターが入っている曲はあまり入ってなかったりするし(笑)」

チャーベ「そもそも、わざと誤解されるような音楽を作っていたりもするから、まぁ、こちらの意図通りではあるんですけどね」

取材はチャーベの運営する〈kit gallery〉で行われた
 

――そういう意味では、サイケデリック・ポップという言葉が適当なのかもしれないですね。

堀江「そうですね。いろんな色が混ざっているポップなサイケデリック感覚だったり、音楽によって人の感覚を歪ませたいという発想は、自分の根っこに確かにあります。日々、真っ当に生きているなかで歪みが欲しくなった時、人それぞれ選ぶものがあると思うんですけど、自分は音楽を選んで、それを歪ませているんですよ」

チャーベ「ソフトロックって、サイケデリックがもとになっているという点が自分にとってはおもしろくて。ソフトで耳触りはいいかもしれないけど、よくよく聴くと、音像が狂ってて、ヤバいっていう。僕はそういう音楽に興味があるから、そういう2人のテイストが合わさって、こういうおもしろい音像の音楽になっているんですよね」

――だから、個人的に今の音楽で近そうなものを挙げるとしたら、例えば、アリエル・ピンクとか。

チャーベ「ああ、なるほど。アリエルやマック・デマルコとかね。彼らもユニークなシンセサイザーの使い方をしているし、そのへんと並べて聴くのもおもしろいかも知れないですね」

堀江「まぁ、で次はギター・ポップのアルバムを作りますよ。作ったことはないけれど(笑)、たぶん、すごくいいアルバムが出来ると思います」

 


Live Information
〈FEELIN’ FELLOWS PRESENTS NEIL AND IRAIZA“TIMELESS MELODIES RELEASE SHOW”〉
2018年2月13日(火)東京・新代田FEVER
出演:NEIL AND IRAIZA
DJ:HIDEKI KAJI
開場/開演 19:30
前売り/当日 3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
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