先週末、2月16日に公開された岡崎京子原作、行定勲監督の映画「リバーズ・エッジ」。その主題歌として発表された小沢健二の“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”をクロス・レヴュー、話題を振りまく楽曲の魅力を紐解いた。

小沢健二 『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』 ユニバーサル(2018)

 

いまも小沢健二と岡崎京子と〈心〉と〈言葉〉に耳を傾ける人へ

〈岡崎京子の最高傑作とも言われる漫画を行定勲が映画化した「リバーズ・エッジ」。その主題歌を小沢健二が歌う〉という複数の川の流れが交わってひとつの大河となったような事実に、90年代文化の豊饒さ、そして罪深さを感じずにはいられない。筆者は89年生まれで90年代文化の洗礼を〈確実に〉受けたとは言い難いが、同年代やその下の世代への小沢の音楽と岡崎の漫画の影響力の強さは年々増しているように感じるからだ。“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”で歌われる〈でも魔法のトンネルの先/君と僕を愛する人がいる〉〈本当の心は 本当の心へと 届く〉とは、そういうことなのだろう。小沢の自己言及的な歌詞ばかりが取り沙汰されるが、この曲は決してレトロスぺクティヴなものではない。吉沢亮が最後のラインで語るように、小沢と岡崎の〈心〉〈言葉〉を愛する2018年のファン、あるいはその〈心〉に通じるものを持った〈若い詩人たち〉に向けられたものなのだ。優しくシンコペーションするオルガンに彩られた“アルペジオ”は、小沢が復帰後に発表した一連のシングルのなかでも最良の1曲である。 *天野龍太郎

 

きっと何が正解かは重要ではない

映画「リバーズ・エッジ」の主題歌でもある表題曲を含む21枚目のシングル。二階堂ふみと吉沢亮が声で参加した表題曲の、先行公開された歌詞がセンセーショナルで、思わず〈「君」って誰だろう?〉〈「彼女」って誰のことだろう?〉と勘繰ってしまった人も多いのでは。それはきっと、〈駒場図書館〉や〈下北沢珉亭〉といった具体的な地名が出てきて、歌詞の世界が現実世界と地続きになっている気がするのも原因のひとつだろう。そんな現実世界とリンクした歌詞に、抽象的な歌詞が挟まれていることが余計に意味深さを呼んでいる。しかし歌詞ではドキッとさせられつつも、アコギのアルペジオやストリングスが舞い踊る音像は、まるで晴れた休日の昼下がりのようにいたって穏やか。きっと何が正解かは重要ではない。小沢健二が伝えたかった〈本当の心〉と、それを愛する我々リスナーとの間に存在するものこそ〈魔法のトンネル〉なのだろうから。 *酒井優考