実に17年ぶりのヴォーカル・アルバム。先んじて発表された“流動体について”や“彗星”に顕著だった(当人が言うところの)〈ファンク交響楽的サウンド〉が全編で脈動しており、『LIFE』とその後のシングル群とも近い質感のポップ・アルバムに仕上がっている。だが、リズムや譜割りが複雑化し、時に直接的でポップス然としない言葉が飛び交い、その言葉を届けんともがくように歌唱される様は、かつてのラブリーな装いとは次元の異なる表現にも思えるし、彼の音楽特有の異形さがかつてないほどわかりやすく表面化した作品とも言えるだろう。この美しくいびつな語り口でしか、小沢健二にしかできないやり方で2020年の日本と日々の暮らしを照射し、祝福してみせていることに胸を揺さぶられる。