待たせたな! ようやく完成したフル・アルバムはリアルな視点から進行形のざわめきを炙り出す。夢の途上に現実を見る『ヒップホップ・ドリーム』の行方は……

 1月のミックスCD『ON THE WAY』から間髪入れず漢 a.k.a. GAMIが発表する待望のオリジナル・アルバムは、自伝本と同名のタイトルで送る『ヒップホップ・ドリーム』。「フリースタイルダンジョン」出演を機に大きく活動の場を広げた現在、彼の目に映る夢は変わったのか否か、アルバムはその答えの一つでもある。

漢 a.k.a. GAMI ヒップホップ・ドリーム 鎖GROUP(2018)


前とは違う空気を吸ってる

――アルバム以前に、近年は音楽外の動きも広がったけど、実際どうです?

「何かしらのことをやらせようとしてくる人がいるっちゅうか、ほっといてくれないって意味ではラッキーって感じ。よっぽどおかしいだろって企画以外は大体やって、聴く層も広がって、そういう意味では良かったですね」

――その間には炎上BOYZ(D.Oとのユニット)やILLBROS(TABOO1、DJ BAKUとのグループ)などでの配信リリースもあったけど、自分名義の音楽とは切り離して考えてた?

「そこはまったく別物で、炎上BOYZの名前でやってるのは完全に遊んでるに近いというか」

――それがコアなリスナーにどう捉えられるかは特に意識することもなく?

「気にしてないですね。ただ、良くも悪くも何かと目立つし、奇跡的に無事故で生かしてもらえてるからヒップホップに貢献しないとって感じ(笑)」

――今回のアルバムの出発もそういう気持ちっていう。本格的な制作は去年の夏ぐらいから始まったとか。

「やることがたくさんあって進みが遅かったっていうより、アルバムに対するモチヴェーションの問題かな。ホント言い訳じゃなく、〈俺、とうとうヒップホップ好きじゃなくなってんのかな?〉って勘ぐってしまうぐらい、何百曲トラック聴いてもなかなかピンとくるのがなくて、音のチョイスには困ったんですよね。かっけえのはわかるけど、俺のラップとはどうなんだろうっていうので」

――アルバムに向かう気持ち的にはどうだった?

「昔の曲は当事者的なプレイヤーとしてだったりストリートの部分でINGなことを体験しながらリアルタイムで歌ってたけど、いまはその時代と明らかに違う空気を吸ってる感じもある。そのなかで日本語ラップに必要でしょ?っていうイメージの一つとして、若い奴らに持っててもらいたい言葉や視点でモノを言ってるかな」

――タイミング的にもタイトルからしても、同名の自伝本と地続きなアルバムという意識があったのかなと。

「そうですね。本で書いてた場面だったり、本で言いたかったこと、好きな部分をリリックに織り込まないとなっていう。ただ、幼少期から順番に韻だけ踏んだ作文みたいに書いてったら簡単に作れたかもしんないけど、それはそれでつまんない。結果、本と重なるリリックはたくさんあるけど、本に沿ったサントラにもなってない」

――そこはやっぱり音楽と本は別物ってことすか。

「自伝に沿ったストーリーものとして作ってくのはやっぱ無理って感じで。俺は物書きでもないし、なんなら今回も10曲のうちたぶん8曲、9曲はリリック書かなかったんで。そのぐらい文字書くことが年々嫌になってて、2小節か4小節ずつ録っていくんですよ、その場で」

――ともあれ、過去のある一点の選択が人生を分けるっていうことが繰り返し曲に盛りこまれていて。

「そうですね。それは表現力のなさでそうなっちゃったのかわかんないですけど。ラッパーやってる若い奴に対しての歌が多いかもしんないですね、意外と。アメリカではヒップホップで更生するっていうより、金持って失敗したり捕まったりする奴も多いけど、ホント利口になって悟るって意味で言ったら、日本人は成功してなくても意外とヒップホップで変わってく奴が多いんで」

――ただ、ここで言う〈ヒップホップ・ドリーム〉は、果たしてホントに夢なのか?って疑問が。

「綺麗事をどう綺麗事に言わないようにするかも心掛けたっていうか。周りの奴が聴いたら〈これイイ感じのこと言ってない?〉って思うだろうけど、人によっては超バッドだと思うんですよ。〈うわあ、まさしく今なんだけど〉みたいな」


マジで落ち着けよ

――それが夢だとしても、結果その先に代償や現実の厳しさは残るっていう。

「俺らは日本であるであろうとされているヒップホップ・ドリームに向かってる途中だし、俺は日本にまだヒップホップのスターは現れたことないと思ってる。その意味で言ったら〈日本でやってくヒップホップはこうだよ〉っていう現実的な感じかもしれないすね」

――〈頼りになるのは数限られてるマイメン〉っていうフレーズも曲を変えて何度も出てくるじゃないですか。孤独の影も随所に滲むし。

「そうっすね。“宿の斜塔”でも似たようなフレーズはあったし、俺の曲にちょいちょいそのフレーズ出てくるんですけど、そこはいまだに変わんないなあと思うっすね。それこそ本で言ってたみたいにLibraの時からしたらだいぶプライヴェート含めて削ぎ落とされてるんで、関係者って意味でも」

――まして、“新宿ストリート・ドリーム(DJ BAKU REMIX)”も、サビからして、ヒップホップに首突っこんだことで道を踏み外してるんじゃないかっていう。

「そうなんですよ(笑)。みんなが言うのは成功の夢だけ。現実に日本でハスってるラッパーがたくさんいれば俺もそういう歌を歌うけど、明らかに副業や他でがんばってる奴らがまともな生活してるだけであって、ラップで一発行ったっていうのは〈高校生RAP選手権〉の子たちでギリじゃねえの?って感じなんで、日本で見る夢、特に俺のスタイルで日本でヒップホップやってくんだったら現実こうなりますねみたいな。でもここからけっこう楽しくヒップホップをやれるような感じっすけどね、やっと」

――じゃあ漢君の思う〈ヒップホップ・ドリーム〉の形が、昔と今では違うと。

「それは本でも言ってるんですけど、日本の警察、ヤクザ、政治家、一般の社会組織から認められること。そうすれば金ももっと回って、エンターテイメントの部分で磨きかけるっていう普通のことですよね。ヒップホップが独立した力を持ってやっていこうぜっていう。いまは言ってみれば自分らが金を生み出してるっていうよりは誰かに金出してもらわないと何かをできなくて、その人間をみんな探してるだけだから。そもそもラッパーは芸能人とは全然違うんで。危なすぎるから」

――そこは“ワルノリデキマッテル”と。

「この前の事件もホント、〈マジで落ち着けよ〉ぐらいにしか思ってなくて。都合のいい時だけ一般人視点やめろよみたいな」

――“ワルノリデキマッテル”にもそういうラインがあるよね。めっちゃタイムリーな感じで。

「これホントに2週間後に出せんの?って感じの我々のスケジューリングじゃないとそこは入れられない。最近ゴリッとしたのが少ないし、このタイミングで〈これがラッパーだろ〉っつう感じの表現でみんなが自粛してるところにビシバシ行きたいから」

――“極東”にしても違う意味で論議を呼ぶ曲かなと。

「歌舞伎町でたまたま知り合ったゴリゴリ右のおっさんが言ってたことって、10年前にジャンキーが真顔で言ってたアレじゃんみたいな、そういう部分で重なる〈ストリートあるある〉なんですけど。日本人はこういう視点を持ってたいなって部分を歌ってる」

――アルバム以降の活動についても少し聞ければ。

「いい意味のノリと勢いでサクサク曲作れればいいかな。これの続編として、まずは本に出てきた奴らをフィーチャリングに誘った曲を毎月配信して、あとはできればD.OのユニットとILLBROS、第2のMSCじゃないけどヒップホップ・クルーを作りたくて。それ以降はバンドだったり違う形式でもやりたいし、まあ、またいろいろ情報見かけると思うんで、楽しみにしてもらえれば」

漢 a.k.a. GAMIの作品を一部紹介。

 

参加トラックメイカーの作品を一部紹介。