次の一手のためのイントロダクションもしくは前哨戦!
鎖GROUP×BLACK SWANの公開記者会見が行われたのは2014年6月、そこから次章に突入した漢 a.k.a. GAMIのキャリアは、めまぐるしい勢いでページを更新し続けている。もちろん、2000年に〈BBOY PARK〉のMCバトルで表舞台に現れ、新宿拡声器集団ことMSCを率いてコアなヘッズの支持を瞬く間に取り付けた彼が、常にその時代における最重要ラッパーであり続けていたのは確かだ。ただ、それらの足取りを前章だとして、アウトロー的な姿勢を前に出していた往時の姿から彼の現在の姿を想像することができただろうか? 現在の漢はレーベルを経営しながら、新たなMCバトルのチャンピオンシップ〈KING OF KINGS〉を主催し、一方では「フリースタイルダンジョン」の初代モンスター(としてMステ出演も実現!)や「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」の審査委員長を務めて日本語ラップの普及に努め、のみならず自伝「ヒップホップ・ドリーム」(2015年)を出版したり、KNZZのビーフ(現在は解消)に端を発する“って事だよね?”がバズを起こしたり、はたまたFRESH!ではヴァラエティー番組「漢たちとおさんぽ」では新たなキャラクターを見せたり……その魅力のアウトプットも硬軟自在になっている。そうでなくても彼に注目しているのはもはや日本語ラップのヘヴィー・リスナーだけではないわけで、控えめに言っても、日本語ラップ/MCバトルなどを包括した日本のヒップホップ界における最重要人物のひとりなのは疑いないだろう。
一方、そうした露出によって不在を感じさせることがなかったとはいえ、鎖GROUP設立後のソロEP『9sari』(2014年)やMSCの『1号棟107』(2015年)リリース時にも示唆されていたアルバムの話題は長らく噂の域を出ぬままとなっていた。何しろ名作の誉れ高いファースト・アルバム『導~みちしるべ~』(2005年)からの歳月は言わずもがな、2作目と位置づけることもできるDJ琥珀とのストリート盤『MURDARATION』(2012年)からでも5年以上が経過しているのだ。ゆえに、昨年3月に配信された久々のソロ曲“新宿ストリート・ドリーム”を前ぶれとして、このたびリリースされたミックスCD形式の『ON THE WAY』は、〈そこ〉に向けての大いなる前進と捉えていいだろう。
今作でDJミックスを担当したのはLORD 8ERZ名義でアルバムも出している鎖GROUP所属のDJ GATTEM。GATTEMのミックスCDといえば、鎖GROUP最初の一枚として2012年に限定リリースされた『HURTFUL mixed by DJ GATTEM』(現在は入手困難)を思い出す人もいるかもしれない。同作はそれまでの客演集という趣だったが、それに準ずる体裁で仕上げられた今回の『ON THE WAY』も、2012年以降の客演曲などがまとめられている。
〈ずいぶん待たせたな、だがまだ焦るな〉とかますイントロから、重々しいMSCの“新宿2015”やポッセ・カットの“KUSARI GROOVE”、PONYの人気曲“SUKIKATTE”といった鎖を繋ぎつつ、D.Oと参加したI-DeAの“殺しのメロディ”(2013年)、KOHHも交えたAKLOの“Break the Records(Remix)”(2014年)、BES“Pyrex Remix”(2016年)、TOKONA-Xの声の上で般若と絡んだDJ RYOW“ビートモクソモネェカラキキナ 2016”(2016年)、そしてDungeon Monstersの“MONSTER VISION”(2017年)、みんな大好きな韻踏合組合の“一網打尽(REMIX)”(2014年)からのMSC“まだ行けるか?”(2015年)など、幅広い演者の楽曲が贅沢な流れをガシガシ粗削りに織り成していく。そんななかに上祐史浩を招いた“クサリノワ”(2017年)を挿入したり、件のディス曲を“SKITってことだよね?”として盛り込むなど、独特の不穏なサーヴィスも忘れてはいない。
注目のエクスクルーシヴ曲としては、穏やかならざる“Luvletter For Trash”、秋田犬どぶろくを迎えた“ティーオーケイワイオー”、プロボクサー・竹原虎辰のハードな半生をハードに歌った“KOTATSU ANTHEM”を収録。後半は手の合うLIBROの名曲群やLORD 8ERZの“9ROSSLORD”を連鎖し、昨年を代表する人気曲のひとつだったSALU“LIFE STYLE”から、輪入道と参加した故DJ Deckstreamの“You Only Live Once”(2014年)、そしてMSCによる惜別の歌“Don't Leave Me”(PRIMALのヴァースがいつ聴いてもエモい!)でシメる流れも見事だ。こうして楽曲がズラリと並んでみると、要所要所で話題曲への登場や印象的な客演を残してきていることも改めてよくわかるし、この先へのさらに期待も高まろうものだ。
というわけで、この後に何かがあることは大方の人がお察しだと思うが……諸々は来月号で本人に語ってもらうこととしよう。 【次号へ続く】
漢の作品を一部紹介。
関連盤を紹介。