これほど分かりやすい驚きもないだろう。デビュー30周年を迎えたバンドの、通算21枚目のアルバムが、今までで一番パワフルだというのだから。

 

これほど分かりやすい驚きもないだろう。デビュー30周年を迎えたバンドの、通算21枚目のアルバムが、今までで一番パワフルだというのだから。

BUCK-TICK、というと未だに元祖ビジュアル系的な認識の人もいるのかもしれない。けれども、例えばギターの今井寿はメジャー・シーンで最もノイジーかつアバンギャルドなギタリストだ。ボーカルの櫻井敦司は日本でも有数の安定したピッチと太い歌声の持ち主。もう一人のギタリスト・星野英彦はバッキングの達人。樋口豊はレコーディングに際して、まずクリックだけを聴きながら全曲のベースを弾き通すという超人的な集中力の持ち主。そして生演奏も打ち込みも混ざったサウンドに人間味を与えるドラムのヤガミ・トール。彼らが出す音を初めてライブで体験した人たちはみな、おもしろいように同じ反応をする。〈BUCK-TICKってこんなにロックでラウドだったのお!〉と。その質感を、そのまま音源に封じ込めるのに成功したのが最新作なのだ。VRのように飛び出てくるサウンド、という形で。

同時にここには、過去一度も耳に出来なかったものも収録されている。それは例えば言葉の世界だ。本作はコンセプト・アルバムではないが、1曲目と最後の曲は対になっている。誕生を歌う“零式13型「愛」”とその名も“胎内回帰”だ。前者は〈命ガ モウ ドクドク ドクドクト 胎内大宇宙 君ノ名前ヲ「愛」ト言ウ〉という詞でフィナーレを迎え、後者は〈Melodyわたしの鼓動 Harmony胎内の爆音〉というフレーズで結ばれている。この張り裂けるような言語感覚はこれまでの櫻井にはなかったものだ。

もっといえば〈爆音〉はラス2の“ゲルニカの夜”のイメージも引き継いでいる。これはタイトル通りピカソが描いたスペイン内戦の模様をモチーフにした歌。ほのぼのとした子供の情景が一転悲劇に陥る物語風の詞で、この一歩踏み込んだ表現も新しい。「自分が歌えるのは自身のこと、戦争反対、そして猫のこと(笑)。娯楽でもある音楽で戦争反対を歌うとしたらこういう物語形式がいいんじゃないかと思った」と櫻井。

本作には“GUSTAVE”というおちゃめな猫の歌も収録されていて、作風の振れ幅がマックスだ。また3曲で作詞をしている今井も〈天上太陽 中空我雷電地上火天怒焔‥〉といった異様にアッパーな歌“IGNITER”を送り込んでいる。

サウンドでいつになく突出し、詞でも一歩踏み出た新作は同時に、毎回不変の良さをも堅持している。それは独自のメロディーで聴かせる、という部分だ。BUCK-TICKのメンバーには、彼らが音に目覚めた40年ぐらい前から始まる膨大な音楽体験がある。それらがいったん咀嚼された上で出てきたものであるせいか、今井や星野が作るメロディーは今の誰とも似ていない。それでいてメロディー世代の強みか、どんなにアグレッシブな曲にも必ずキャッチーな旋律がある。“薔薇色十字団 -Rosen Kreuzer-”、“サロメ -femme fatale-”、“Ophelia”という星野・作の3曲がいずれもそうだ。あるいは今井が書いた“BABEL”。この曲は先行シングルというには笑ってしまうぐらい重々しいナンバーだけど、歌メロだけ辿ってみると全編流れるような旋律で貫かれている。しかもそれらはすべて、旧作にはなかったメロディーなのだ。

過去20枚のアルバムたちでは聴けなかったメロディーを披露することで自分たちの持ち味を更新し、21枚にして初めて表現してみせた音と言葉の新たな爆発もある。こうなってくると誰でも疑問が浮かぶ。なぜ、そんなことが可能なんだろう?と。尋ねてみたところ、彼らも明確な答えはもってなかった。

ただ今井は「今回は何もテーマを設けずにただイイ物を作りたいと思って始めたら、いつもと違うものが姿を現した」と言った。櫻井は「いつも隅々まで神経を行き届かせたものを作りたいと思っている」と語った。要約すれば〈感覚と誠意〉。どちらも研ぎ澄ませ尽くせば知識だけでは得られない、無限の結果を示してくれるものだ。

考えてみれば頭で策をめぐらしていたら同じメンツで30年なんてバンドは続けられない。ましてや一度として同じ種類のものを作らない、なんて無理だ。BUCK-TICKの奇跡とそのダメ押しともいえる『No.0』は、長い体験を縦横に活かす音楽家としての無垢な気持ちの証、ともいえるだろう。