91年にHIVで亡くなった稀代のヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーを軸に73年に『Queen(旋律の王女)』でデビューしたクイーン。最初のヒット“Seven Seas Of Rhye”“Killer Queen”(共に74年)、“Bohemian Rhapsody”(75年)、“We Will Rock You”(77年)、デヴィッド・ボウイと共作した“Under Pressure”“I Want To Break Free(自由への旅立ち)”(84年)、フレディ晩年の“The Show Must Go On”(91年)など、彼ら4人がロック・ファンに残したアンセムは枚挙に暇がない。

フレディとブライアン・メイを中心とする非凡なソングライティングを筆頭に、現在においてもリスペクトを公言するミュージシャンが多いフレディのカリスマティックなヴォーカルやステージ・パフォーマンス、ブライアンのギター・オーケストレーション、ゴスペルばりのコーラスワークと初期のハード・ロック路線からのオペラ・ロックなど、圧倒的な音楽的個性をもってクイーンはレジェンドとして君臨し続けている。また、フレディが元・アートスクール生であり古着の販売を行っていたことなどに所以する独特のアートワークや(主にフレディの)ファッションも、バンドの特異性を際立たせる要素であった。

そのクイーンが公式に認める彼らのトリビュート・バンドがいるという。それが、本稿の主役である南米はアルゼンチン発のゴッド・セイヴ・ザ・クイーン/GOD SAVE THE QUEEN(以下、GSTQ)だ。本国を飛び越えて世界ツアーを成功させるほど絶大な人気を博している彼らが、昨年東京・中野サンプラザで開催した初来日公演の好評を受けて5月16日(水)~5月21日(月)来日ツアーを開催することが決定した。

下掲の動画で感触をご確認いただきたいのだが、とりわけヴォーカルのパブロ・ペイディンのフレディぶりがかなりの高クォリティー。衣装変えを何度もしながらのヒット曲を網羅したセットリストで、あの複雑なサウンドとパフォーマンスを本格的に再現しているのには、笑みがこぼれつつも素直に驚かざるを得ない。ファンが楽しめるのはもちろんのこと、GSTQクイーンを知らない世代にとってもロックのレジェンドに出会う機会をもたらしてくれる、そんな意義深い役割を担っているのではないだろうか。

今回は約1か月後の来日公演を前に、音楽評論家の小野島大がメンバーへ緊急メール・インタヴュー。彼らは一体何を考え、なぜクイーンをトリビュートするのか? そしてトリビュート・バンドの意義とは。謎に包まれた存在に迫ってみた。 *Mikiki編集部

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 アルゼンチン発のクイーンのトリビュート・バンド〈ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン(以下、GSTQ)〉の来日が決まった。世界でもトップクラスの実力と動員を誇るGSTQは昨年も来日を果たし、東京公演1回だけながら、多くのクイーン・ファンの度肝を抜くようなパフォーマンスを見せ、大いに評判となった。今回の来日は大阪・広島・東京・仙台の4箇所を回る本格的なジャパン・ツアーとなる。

 トリビュート・バンドとは何か。著名なミュージシャンやバンドの功績をたたえるため、そのミュージシャン/バンドの楽曲をライヴ演奏するバンドを指す。楽曲を本物そっくりにコピーするのみならず、ステージ・アクション、衣装、メイク、使用楽器やステージ・セット、演出まで忠実に再現するのである。

 従って人気バンド、アーティストの数だけトリビュート・バンドは存在すると言って過言ではない。なかには本物と遜色のないほどの動員・人気を誇るバンドもあり、GSTQはそのひとつなのだ。クイーンはそのバンド自体が持つ高い音楽性やポピュラリティー、個性的なキャラクターや外見ゆえ、日本が誇る老舗〈GUEEN〉〈KWEEN〉を始め、世界中に同種のトリビュート・バンドが存在するが、98年に結成されたGSTQは、世界30か国でプレイし、80万人を動員したという際だった実績を誇るトップ・バンドだ。なかでもヴォーカルのパブロ・ペイディンは声域、外見、アクション、身のこなしまでフレディ・マーキュリーにそっくりで、そのあまりのなりきりぶりに爆笑しながらも、本家同様の圧倒的な歌唱力と華麗なパフォーマンスに、いつしか魅了されてしまうのである。

 彼らはクイーンの魅力をこう語っている。

 「完璧なミュージシャン。ソングライターとして、またそれ以外のすべてにおいて信じられないほどのカリスマ」

 また数あるアーティストの中で、特にクイーンをトリビュート対象とした理由については、彼らへの深く大きな愛情と共に、クイーンの多様にして複雑な音楽性を挙げ、〈ひとつのバンドでロック、ポップ、オペラ、オーケストラ音楽、ヘヴィー・メタルを演奏できるのはクイーンだけですよ!〉と語り、そうしたクイーンの音楽を演奏することはチャレンジなのだとしている。

75年作『A Night At The Opera(オペラ座の夜)』収録曲“Bohemian Rhapsody”を演奏するGSTQ
 
本家クイーンの“Bohemian Rhapsody”
 

 トリビュート・バンドのトリビュート対象のバンド/アーティストは、多くの場合既に解散したり活動を休止したバンドや、亡くなってしまったアーティストが多い。ビートルズやレッド・ツェッペリンのトリビュート・バンドは世界中に存在するし、まだ活動はしているものの、ヴォーカルのフレディ・マーキュリーが亡くなり全盛期のメンバーでのライヴが不可能になったクイーンもそのひとつだ。トリビュート・バンドが、時に本家に匹敵するほどの熱狂や人気を得ているのは、すでに観ることが叶わないお気に入りのバンドの最良の時期の最良のライヴを体験させてくれるからだろう。もちろん映像による追体験は可能だが、生のライヴ体験は、時にその感動を上回るものがある。そしてそのバンドのファンが一同に集い、愛情と連帯を確認できる数少ない機会が、トリビュート・バンドのライヴだったりすることも大きい。GSTQは言う。

 「(GSTQのステージを観る)人々は時を遡って、クイーンがまだ生きていて、フレディがステージに立っていると信じています。2時間のショウの間観客には、自分たちは今、クイーンが存在した1980年にいる、と信じてくれることを願っているし、私たちのすべての活動はそのために捧げられています」

 もちろん尊敬するアーティストへの敬愛の念を表すやり方はさまざまだ。ほとんどのアーティストは、影響を受けたアーティストの音楽性やファッション、アティチュードなどのエッセンスを取り入れながらも、そっくり真似するのではなく、そこに自分なりの色ややり方を加え、フィルターを通して〈オリジナル曲〉として提示する。だがトリビュート・バンドは、嫌みな言い方をすればそこに〈自分〉はなく、ただ真似するだけだ。GSTQは、それで満足なのだろうか? 彼らほどの実力と演奏力があれば、自分たちのオリジナルな音楽で勝負することも可能だったのではないか?

 だが彼らは、自分たちの喜びとは、お客さんが〈クイーンは、フレディはまだ生きている〉と信じて喜んでくれる姿を観ることだとし、〈そのため、私たちにエゴや、新たに楽曲を制作するなどの余地はありません〉と断言するのである。つまり彼らはアーティストではなくエンタテイナーであり、クイーンの音楽を忠実に再現することを職業とした職人集団なのだ。

TVショウに出演した時と思われるGSTQの映像、“I Want to Break Free”“We Will Rock You”“We Are The Champions”をプレイ。演奏は司会者のトークの後2分すぎから
 

 本家クイーンはフレディが亡くなり、ジョン・ディーコンがバンドから脱退して、残るブライアン・メイとロジャー・テイラーが、アダム・ランバートを新ヴォーカリストに迎え、クイーンの名の下に活動している。フレディという圧倒的なカリスマ・スターを失い、フロントマンが変わった今のクイーンは、クイーンと言えるのか。熱心なファンの間では賛否両論がある〈今のクイーン〉について、GSTQはこう語っている。

 「彼らはもちろん、オリジナル・バンドの一員だし、クイーンという魔法の一部だし、それを生のライヴで観ることができるのは素晴らしい。私たちは彼らからたくさんのことを学んでいます。アダムは素晴らしい歌手だけど、フレディとは完璧に違う。でも彼らの判断もやり方も正しいと思う。彼らはフレディのクローンじゃないからです。 彼らはこの先も、これまでのように彼らの音楽を演奏すべきです。 私たちはそのアティチュードを尊重します!」

 この言葉の裏側を強引に読み取れば、今のクイーンは私たちの知るクイーンではない、自分たちこそが、あのクイーンそのものなのだ、という強烈な自負を感じることができる。私たちの誰より愛したクイーンは、もはやGSTQのステージにしか存在しないのだ、と彼らは主張しているようにも思える。

GSTQのライヴ写真
 

 GSTQは、81年のクイーン初のアルゼンチン公演を見て魅了された4人によって結成されたという。つまり彼らにとってクイーンとは81年のクイーンであり、2018年のクイーンではない。さらに今彼らはもっとも有名なクイーンのショウのひとつ、86年のウェンブリー・アリーナ(ライヴ・エイドの会場としても使われた)でのライヴを研究し、特別なレア・トラックの演奏と共に、クイーン・ファンに届ける用意があるという。日本ではその一端が見られるのではないかという期待もある。彼らは言う。

 「私たちがもっとも大事にしているのは、敬意と情熱をもって演奏することです。 私たちはクイーンが大好きで、この先20年後もクイーンは世界最高のミュージシャンであると信じているし、彼らのショウは最高のショウであり続けると思っています」

 全盛期のクイーンのライヴは、世界最高のミュージシャンであるクイーンは、残された映像でしか観ることができない。だがGSTQのライヴなら、今でも体験できる。そこには1986年のクイーンが存在している……かもしれない。

本家クイーンの86年のウェンブリー・アリーナ公演での“Under Pressure”のパフォーマンス映像

 


Live Information
〈GOD SAVE THE QUEEN Japan Tour 2018〉

5月16日(水) 大阪・梅田CLUB QUATRO
開場18:15 開演19:00
チケット6,900円(スタンディング)

5月18日(金) 広島・広島CLUB QUATRO
開場18:15 開演19:00
チケット6,600円(スタンディング)

5月20日(日) 東京・日本青年館ホール
開場17:00 開演18:00
チケット7,560円(全席指定)

5月21日(月) 宮城・仙台GIGS
開場18:15 開演19:00
チケット6,900円(全席指定)

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