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いろんなことが進んでるよっていうのをメールの数で伝えてる(KAN)

山崎「KANさんのスタンスって、今回にしても、CDジャケットから何から、ほぼほぼ自分で考えて進行してるでしょ。ここまでやってええんや、っていうのもあったし、じゃあ俺にそれができるのか、っていうのもあるし。曲作って歌ってる人がそこまでやれるって思ってなかったから。そのへんって曖昧でしょ。クレジットにしたって、この曲に対して誰がどこまで関わってるとか、誰がやったことかって把握できない場合も多いし。この音源は、最初はなんでこんなことをやろうと思ったのか、っていうのがないと、音楽はなかなかいいふうにならないだろうし。KANさんはそれがわかってる。何が発端で、モチベーションはどこから来てるか、とか。そのへんは曖昧にしてるアーティストも多い中、そこは曖昧にしたらあかん、と。KANさんがしっかりしてるから、ここはどうするああするっていうのが、少ないスタッフでもちゃんと進められるんですよ。ほんまやったら、KANさんがバーっと歌って、あとはおまかせします、っていうこともできるわけじゃないですか。そこはね、今回、学んだな。俺にはできない」

KAN「それは、できる・できないとか、スタッフの数でもなくて、僕の性格だと思うよ。メールってもんがあるかないかなんだ、単純に。昔はメールがないから、たとえばジャケットにしても、プリントしたものを持って来てもらって、それを確認して、っていう作業があったわけじゃない? そこで1〜2日のロスが生じるけど、今はメールで、関わってる人全員に一斉送信して、誰が何をやってるかっていうのがわかってたほうがいいから。だから今回も山ちゃんのメールアドレスも含めて、スタッフ全員に送ってたんだけど。で、それに対して返信がなくてもいいんだ、全然。大事なのは、今、誰が何をやってるかっていうのが伝われば。そういう意味でメールはすごくありがたいね。あとは性格。どこまで自分でやりたいか」

KANの2017年のセルフ・カヴァー作『la RINASCENTE』収録曲“愛は勝つ”
 

山崎「僕はスタジオワークだけでほとんど終わってるから」

KAN「ジャケットのことも、必ず山ちゃんにもメールしてるのは、それを見るかどうかは知らないよ。と同時に、イベントもそうなんだけど、それをやってることによって、どんどんメールが送られて来ることによって、やばいな、っていうのを本人に思わせたいっていうのもある」

――メールの中身がどうという以前に、いっぱいメール来てる、っていう事実が。

KAN「アーティストによって、きっちりやる人と、何もやらない人がいるから。いろんなことが進んでるよっていうのをメールの数で伝えてる、っていうのは結果的に思った。以前のイベントで、藤井フミヤくんが〈KANちゃんからバンバン、メールが来て、うっとおしかった〉って言ってた(笑)。でもイベントが終わったあと、またそのイベントに出たいって言ってくれて。メールは興味ない人は全然見ないだろうけど。見る人はちゃんと見てるから」

――山崎さんは、今回、曲作りやレコーディング以外のことにも直接関わってみて、どうでしたか?

山崎「最初、CDのジャケットは(実際にレコーディングは二人だけだけど)〈何人もいるように撮ったらおもしろいんちゃう?〉って言ったんですよ」

――あ、あのジャケットは山崎さんのアイデアなんですね。

山崎「そう。で、そのあと、だとしたならば、撮影せなあかんやんか、っていう頭が僕には全然なくて(笑)。3日間しかないレコーディングの中でそれもやろうっていうことになって、普通はジャケット撮影って言ったら別の日にやるんやけど、今回はレコーディングの合間に撮ろうっていう画期的な発想で、そっちのほうが、ものを作ってる臨場感が出てくるからいいなと思ったけど。その具体的なやり方に対していちばん気を配ってたのはKANさんやったと思う」

KAN「レコーディング中に、ジャケットの写真も撮るし、特典DVD用の映像も撮るよ、って」

――最後の歌入れの日、作業としては全部終わったのかなと思ったら、楽器を取っ替え引っ替えして、ものすごいスピードで撮影してましたね。

KAN「本当に二人で演奏したっていう証拠写真っていうか(笑)」

――実際は使ってないサックスまで持ち込んで(笑)。

KAN「さっきも山崎くんと話してたんだけど、今までこういう、演奏のコラージュをやった人はいると思うけど、普段着でやってるのは俺たちだけじゃないか、って」

山崎「今日着てる服と一緒やし(笑)」

KAN「完全な普段着。で、表情がいきいきしてるのは、レコーディングをやったあとに撮ってるからだよね。同じアイデアとシチュエーションでも、別の日に改めて撮ったら、こういう顔にならなかったと思う」

山崎「時間がないっていうのが功を奏しましたね」

山崎まさよしの2016年作『LIFE』収録曲“君の名前”
 

――レコーディングもすごくスムーズで、スピーディーでしたね。

山崎「いや、すごく楽しかったです」

――楽しいのが伝わってきますよね。

山崎「なかなかレコーディングしてるときに、〈ビートルズはこうじゃないよね〉とか、そういう音楽の話ができる人が実は少なかったりするんですよ。ミュージシャン同士でも、そういう話にどこか照れたり、若い人やったらなおさらやし。そのへんは偏見もあるのかもしれないし。でもKANさんがベース弾いて、僕がドラム叩いてるときは、一緒にバンドやってるみたいやったし、ああいうのはもっとやりたいなと思いましたね」

――ここまでのキャリアで、そういう初期衝動的な気持ちになれるっていいですね。

KAN「やっぱり、山崎くんの声は強烈だったね。知ってたけど、改めて思った」

山崎「僕は、うまく歌おうという気はまったくないんですけど、でもこの声が欲しかったらいつでも呼んでください、っていうのはある」

KAN「強烈な個性だった。あとは、僕はもう、ベースが弾けたことが嬉しかった」

山崎「何回も間違えながら(笑)。タイム感はいいのに、間違ってるっていう」

KAN「ポールのラインね、♪ブンブンブンブン……っていう。ポールは毎回違うから」

山崎「そうなんですよ、♪デュンデュンデュンデュン……。KANさん、そこがうまい」

KAN「そういうのを入れていくんだよ。うんと好きな人じゃないとわからないとこだけど」

山崎「(筆者に)面倒臭いでしょ?(笑)」

――いえいえいえいえ。

KAN「必死に弾いたんだよ」

山崎「今回の注目ポイント、〈KAN、初めてベースを弾く!〉(笑)」

KAN「55歳で」

山崎「55歳なんですか?」

KAN「そうだよ。大事なのは気持ちだよ。ウマイ・ヘタではなくて、気持ちです」

山崎「あと、今回は二人だけでやったっていうことがすごく重要でした。KANさんのやり方と僕のやり方はたぶんぶつかったと思うけど、でもスタジオで、俺がやってることを咀嚼して、じゃあこうしようって出してくれた結論ですごくスムーズに進行できた。それが自然にできてたことが今回の僕の収穫でしたね」