THE BEST COAST ~アイアムスー!が柔和に伝える西の勢い~
ケンドリック・ラマーが昨年トークショウに出演した際、〈先人のレガシーを受け継ぐ西海岸の面々〉としてTDEのメンバーと並べて名を挙げていたのが、ニプシー・ハッスル、ドム・ケネディ、プロブレム、そしてアイアムスー!だった。だから何だと言われればナンだが、〈ニュー・ウェスト〉というキーワードが浮上してきた数年前以上に、いまカリフォルニアのアーティストたちが好調だ。しかも各々が多様。もちろんケンドリックの評価の高さに引っ張られている部分はあるとしても、上記の面々に加えて外すことのできないYGやタイガもいるし、スヌープ世代のヴェテランばかりが目立ち、ゲームが孤軍奮闘していた頃と比べても、新進を中心にいい感じで各世代が共存しているように思えるのだ。
そしてアイアムスー!である。こういった際にベイエリア勢の名前が同列で挙がることも珍しい気がするのだが、それもまた現代の捉え方なのだろう。リッチモンドでHBK(ハートブレイク)ギャングを率いる彼は89年生まれの24歳。構成員であるセイジ・ザ・ジェミナイの“Gas Pedal”が突発的に昨年ヒットしたことでHBKにも耳目が集まったものの、それ以前から早耳の間ではオッド・フューチャー以降のインディー・マインドを備えたハイフィー(?)としてウォッチされていた。そして、今回総帥が初の公式盤をリリースしたというわけだ。
その『Sincerely Yours』は、ジェミナイの雄々しさとは異なるスーならではの柔和な語り口が印象的に響いてくる。加工気味でシンギン・ラップにも近いそのマイク捌きは、ドレイクを引き合いに出せるような内省と、フューチャーにも通じるラフネスを兼ね備えたもの。ここ数年のベイエリア・サウンドは往年のアトランタが生んだクランク~スナップ~トラップ系のシンプルなビートに相当接近してきているが(“Gas Pedal”もそうだ)、そうした簡素なベース・トラックの心地良さもありつつ、エリア不問でイマっぽいナードな感性も持ち合わせているのがスーやHBKの特徴だろう。E-40や2チェインズにもすでに手合わせしているだけに、この後はもう一回り大きな飛躍が期待できるんじゃないだろうか。
▼アイアムスー!がコラボしたアーティストの関連作品
左から、E-40の2012年作『The Block Brochure: Welcome To The Soil 2』、同2013年作『The Block Brochure: Welcome To The Soil 5』(共にHeavy On The Grind)、ウィズ・カリファの2012年作『O.N.I.F.C.』(Rostrum/Atlantic)
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