BETWEEN THE BUTTONS
実に5年ぶりのアルバム『Animal Ambition』が堂々完成!! アフターマスを巣立った猛獣、50セントの野心はまだ充たされていないのか、ゲームは振り出しに戻ったのか、それとも……


 

勝つことへの欲望

 「カニエ・ウェストの『Yeezus』? クリエイティヴなのは認めるけど、俺にとってはまったくヒップホップを感じられないね。パフ・ダディの新曲“Big Homie”に至っては正直ゴミだ。もう奴の音楽なんて聴きたいと思わないだろ? 俺はすべてにおいてリアルであり続けるぜ」。

 もう長いことアルバムのリリースから遠ざかっているにもかかわらず、Forbes誌の〈ヒップホップ長者番付ランキング〉ではすっかり常連になっている50セント(2013年度はパフ・ダディ、ドクター・ドレー、ジェイZ、バードマンに次いで5位にランクインしている)。もはや本格的な音楽活動を行なわなくとも楽々と巨万の富を稼ぎ出す彼が、誰彼構わず牙を剥いていたかつてのスピリットを失っていたとしても何ら不思議はないけれど、久しぶりのアルバムを引っ提げて取材に応じてくれた50は、相も変わらず舌鋒鋭いあの50のままだった。

 「ようやくアルバムを出すことができて、とても嬉しく思ってる。インタースコープと契約が切れるまではいろいろな抑制があったからね。いまはもう作品の内容に対して横から意見してくる人間は誰もいない。すべてアーティストである俺が直接決めている。もうスタッフ会議に出向いて自分の音楽を聴かせたりしなくてもいいんだ。各部署から10人くらい集って、俺が次に何をやるのか探ろうとするなんてこともない。いまは自分が決めたタイミングで作品を出すことができる。作品をリリースする自由を手にしたことは、きっと強みになるよ。世に出ている音楽を聴いて〈いまだからこそこの音を出すんだ〉と自負できるものを出すことが可能になった。〈いま出したい〉と思うものをすぐに出せるんだ」。

50 CENT 『Animal Ambition』 G Unit/Caroline/HOSTESS(2014)

 前作『Before I Self Destruct』(2009年)から4年半ぶり、対立関係にあったインタースコープからインディペンデントのキャロラインに移籍して作り上げた50セントのニュー・アルバム『Animal Ambition』。かねてからアナウンスされている通り、本来『Before I Self Destruct』の次にくる新作は2010年から制作を続けている『Street King Immortal』になるはずだったわけだが、それを後回しにしてまで『Animal Ambition』のリリースに踏み切ったのは、自分がいまもなおギラギラしたモチヴェーションを維持していること——アルバム・タイトルに倣って言うならば、まさに野獣の眼光を失っていないこと——を、勝負作となる『Street King Immortal』の前にどうしてもアピールしておきたかったからなのだろう。

 「今回久しぶりにアルバムを出すにあたって、まずは〈成功〉を題材にした『Animal Ambition』を先に出すべきだと思った。このあと『Street King Immortal』で俺が言うことに備えてもらうためにね。『Animal Ambition』では成功や繁栄をテーマに曲を書いたんだ。ここに込めたのは、消すことのできない〈勝つことへの欲望〉だ。つまり、成功へのトンネルを走り続けさせてくれる意欲だね。俺は別に金が欲しいわけじゃない。俺が手にしたいのは、自分が正しいことをした時に得る達成感だ。音楽を作って、その瞬間にぴったりハマるものが完成したときの充実感。まるで魔法のような感覚だよ。音楽以外の活動では、あの感覚は絶対に得られないんだ」。