PAST<FUTURE
~未来は今――フューチャーが時代の寵児たりえた理由とは?~

 フューチャーというと、今年のコーチェラ・フェスティヴァルの目玉=初日4月12日のヘッドライナーを務めたアウトキャストのデビュー20周年記念リユニオン・パフォーマンスにゲスト出演していたのが記憶に新しい。ステージがクライマックスに差し掛かってきたタイミングで登場したフューチャーは、デビュー・アルバム『Pluto』(2012年)の“Same Damn Time”を皮切りに、DJドラマとのコラボ曲でビッグ・ボーイのヴァースもある“Ain’t No Way Around It”のリミックス(2011年)、そして今回の新作『Honest』からアンドレ3000を迎えた“Benz Friendz (Whatchutola)”と、アウトキャストのふたりを従えて立て続けに3曲も披露。いくらダンジョン・ファミリーの一員であるとはいえ、これまでアウトキャスト関連作にまともに絡んだことのないフューチャーがあの大舞台でこれほどの破格の待遇を受けたことにはちょっとした驚きがあったが、現在のフューチャーの勢いからすれば彼にこのぐらいの時間を割くのは当然のことなのかもしれない。これといった新しい武器があるわけでもなく、セットリストの懐メロ大会化が避けられないアウトキャストにとって、まさに旬の男であるフューチャーの投入は現役感をアピール/補強する狙いもあったのだろう。

FUTURE 『Honest』 Freebandz/A1/Epic(2014)

 〈旬の男〉だなんて言ったものの、実はフューチャーのデビュー・アルバム『Pluto』の本国での総売り上げは36万枚程度、ニュー・アルバム『Honest』のセールスもリリースから1か月で10万枚にも達していないし、現状大きなシングル・ヒットは『Pluto』からゴールド・ディスクを獲得した“Turn On The Lights”ぐらいだったりするのだが、現シーンにおけるフューチャーの存在感は正直こうした数字とまったく釣り合いが取れていない。これに関しては彼の2013年の客演数を参照してもらったほうがわかりやすいと思うが、その総数はリル・ウェイン“Love Me”、エース・フッド“Bugatti”、ロッコ“U.O.E.N.O.”など、実に50曲以上。これは間違いなく、2チェインズと肩を並べる現行トップクラスの量だ。

 フューチャーの場合、オートチューンの使い手であることが客演時の印象を余計に強くしているところもあるのだろう。彼のオートチューンの使用を巡っては、先駆者であるT・ペインと一時的に確執が生じたこともあったが(いわく「フューチャーはオートチューンの使い方がわかってない」)、みずから「俺は歌じゃなくてラップでオートチューンを使ったんだ。T・ペインとはやり方が違う」と主張しているように、彼のオートチューン使いにはT・ペインはもちろん、リル・ウェイン“Lollipop”(2008年)のビザール感やカニエ・ウェスト『808s & Heartbreak』(2008年)のエモさともまた別のラフでレイジーな魅力がある。そして、その独特の味わいがいまの気分としてシーンに横たわっていることは、フューチャーの地元アトランタからリッチ・ホーミー・クワンやヤング・サグといった〈フューチャー以降〉ともいえる才能が続々と台頭してきていることにあきらか(クワンはその影響を否定。サグはフューチャーの成功について「彼がすべてを変えたんだ」とコメントしている)。そうそう、いまをときめくマイク・ウィル・メイド・イットが実質メインのプロダクション・パートナーであることも、フューチャーを時代の寵児たらしめている重要な要素といえるだろう。

 最後に念押ししておくと、現在のヒップホップ・シーンにおいてフューチャーがどんなステイタスにいるかは、今回のニュー・アルバム『Honest』に参加したゲスト・アーティストのラインナップ——ファレル・ウィリアムス、カニエ・ウェスト、ドレイク、リル・ウェイン、ウィズ・カリファ、プッシャー・T、アンドレ3000など——からも汲み取れるはず。アマドゥ&マリアム“Dougou Badia”をサンプリングしたアルバム冒頭の“Look Ahead”が始まった瞬間から、時代の芯を捕らえた者ゆえのぞくぞくするような凄みが溢れ出す。 

 

▼関連作品

左から、フューチャーの2012年作『Pluto』(Freebandz/A1/Epic)、フューチャーが客演したシアラの2013年作『Ciara』(Epic)、マイリー・サイラスの2013年作『Bangerz』、R・ケリーの2013年作『Black Panties』(共にRCA)
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▼フューチャーの客演作を一部紹介

左から、エース・フッドの2013年作『Trials & Tribulations』(We The Best/Cash Money/Republic)、リル・ウェインの2013年作『I Am Not A Human Being II』、タイガの2013年作『Hotel California』(共にYoung Money/Cash Money/Republic)、プッシャー・Tの2013年作『My Name Is My Name』(G.O.O.D./Def Jam)
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