コラム

50 CENT 『Animal Ambition』(3)

AMBITION AS A RIDAH ニュー・アルバム『Animal Ambition』が暴れる前に……50セントの歩みを駆け足で振り返ってみよう

 

 50セントという名前だからというわけではないが、彼を語る際にまとわりついてくるのは数字の話だ。チャートの順位、セールス枚数や金額、総資産、もしくは撃ち込まれた弾丸の数。最後のは笑えない冗談だとしても……トータルで3,000万枚以上という破格のアルバム・セールスを叩き出し、Billboard誌の選ぶ2000年代の〈Artists Of The Decade〉でも6位にランクイン。ただ、50が数字のスケール感でのみ評価されがちだということは、彼が例えばナズジェイZエミネムのように創造性をアーティスティックに形容されるタイプのラッパーではないと見なされていることを意味しているのではないか。まあ、実際に50自身がみずからのスケール感や幻想をあえて鎧のように纏ってみせるタイプなのはあきらかだし、芸術点を欲しがるような人でもない。しかし、50がここまでサヴァイヴしている理由を数字の裏付けにのみ求めるというのは不十分ではないだろうか。

 【参考動画】50セントの2003年作『Get Rich Or Die Tryin'』収録曲 “In Da Club”

 50セントことカーティス・ジャクソンは、78年にNYクィーンズサウス・ジャマイカで生まれている。ディーラーとして10代を過ごし、やがてジャム・マスター・ジェイランDMC)に見い出されてラッパーとして浮上の足がかりを掴んだ彼は、90年代末にトラック・マスターズを通じてコロムビアとメジャー契約を獲得。“How To Rob”(99年)の小ヒットを受けてアルバムの準備を進めるも、2000年に何者かの襲撃で9発もの弾丸を喰らい、瀕死の重体に。一命は取り留めたが、危険人物として(?)契約は解除され、アルバムもお蔵入りになってしまう。が、ラッパーとしての50が真にスタートを切ったのはそこからだった。

 

 

 身近な連中とGユニットを組織した彼は、手売りのミックステープに著名曲をビート・ジャックしたフリースタイルを収めてスキルと存在感をアピールするという、後に一般化するメソッドで成り上がりを図っていく。そして、その音源を聴いたエミネムのフックアップで、彼の主宰するシェイディ、そしてドクター・ドレー率いるアフターマスと契約。2002年の“Wanksta”で脚光を浴びると、翌年にはドレー制作の“In Da Club”が大ヒット。初のアルバム『Get Rich Or Die Tryin'』は世界で1,500万枚という記録的な数字を上げる一枚となった。この頃にはジャ・ルールマーダー・インクとの対立が表面化してきていたし、その沈静後にはGユニットに加入してきたゲームとの確執で話題を呼ぶなどビーフも数限りなかったが、それすらも薪にして燃える50の傍若無人ぶりな勢いは凄まじかったのだ。

 【参考動画】50セントの2007年作『Curtis』収録曲 “Ayo Technology”

 ドレーやエミネムとの共闘も手伝って頂点を極めた後はサイドビジネスに手を広げる一方、作品もコンスタントにリリース。まるでゲームを楽しむかのようにカニエ・ウェストへのセールス対決を仕組んでみたり、自身のモチヴェーションを音楽そのものに引き付けながらマイペースに活動を続けていく。それでも、かねてから口にしていた(が、どこまでがネタかわからなかった)ジミー・アイオヴィンインタースコープとの対立からアルバムのリリースが『Before I Self Destruct』(2009年)以降は途絶え、こまめなシングル・リリースや客演などは多かったものの、2010年春から作りはじめていた新作は度重なる延期やタイトル変更のニュースが届けられるばかりだった。時代の変化ももちろんあっただろう。ラップのスタイルも、ゲームの勝ち方も多様化していくなか、わかりやすくマッチョでストロングな姿(というのも一面的だが……)をどう受け止めるべきか、受け手の変化もあったはずだ。そんなふうに5年が経って、ようやく姿を見せるニュー・アルバム『Animal Ambition』。ふたたび渇望を思い出すために、そのブランクはリスナーにとっても50にとっても必要な期間だったのではないだろうか。

 

▼50セントの客演した近作を一部紹介

左から、ジェレマイの2010年作『All About You』(Def Jam)、ロイド・バンクスの2010年作『H.F.M.2』(G Unit/EMI)、エル・デバージの2010年作『Second Chance』(Interscope)、マイケル・ジャクソンの2010年作『Michael』(Epic)、マンの2011年作『Mann's World』(Beluga Heights)、トゥー・ショートの2012年作『No Trespassing』(Dangerous)、チーフ・キーフの2012年作『Finally Rich』(Glory Boys /Interscope)、Jコールの2013年作『Born Sinner』(Roc Nation/Columbia)
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