AMラジオから聴こえてくるのは爽やかなヨット・ロック――すべてが輝いて見えたあの時代に思いを馳せ、 ショーン・リーとママズ・ガンのアンディ・プラッツによるユニットが初夏の風に乗って帰ってきた!

 BREEZEが心の中を通り抜ける──どこかで聞いたことのあるコピーを思わずつけたくなるようなファースト・アルバム『West End Coast』を発表したのが2015年。ママズ・ガンのアンディ・プラッツとLAを拠点に活動する奇才ショーン・リーから成るヤング・ガン・シルヴァー・フォックス(以下:YGSF)は、「アンディは完璧なパートナー」「ショーンは音楽業界最高の隠し玉だ」と心から信頼し合う両者が、AOR~ブルーアイド・ソウル趣味を遠慮なくぶつけ合ったユニットだ。ユビキティからの諸作でも定評のあるショーンが中心となって作るメロウで切なげなサウンドと、ソングライティングでも腕を振るうアンディの鼻にかかったような甘く青臭い歌声、および爽やかなハーモニーは、77~82年頃の録音かと勘違いしてしまいそうなウェストコースト産ポップスのそれで、潔いほどにヒネリがない。シンガー+トラックメイカーが組んだAORデュオということではボビー・コールドウェルとジャック・スプラッシュのクール・アンクルを連想させるが、実際にクール・アンクルから触発されてもいるようだ。

YOUNG GUN SILVER FOX 『AM Waves』 Legere/Pヴァイン(2018)

 前作『West End Coast』以降、メイヤー・ホーソーンの『Man About Town』、サンダーキャットの『Drunk』、カルヴィン・ハリスの『Funk Wav Bounces Vol. 1』など、目利きの音楽愛好家を熱狂させている人気者たちが自身のアルバムでAOR(ヨット・ロック)的なアプローチを試みることが増えてきているが、それらを挿んでYGSFが約2年半ぶりに放つニュー・アルバム『AM Waves』も見事なまでの直球AOR。昨秋にリリースされた先行曲“Midnight In Richmond”もニコレット・ラーソン版の“Lotta Love”に通じるミディアム・アップで前作との連続性を感じさせ、ショーン自身も「このセカンド・アルバムは前作からバトンを繋いだものなんだ」と話す。実際に、アイズレー・ブラザーズをAOR系ミュージシャンが真似たようなグルーヴィー・チューン“Lolita”は、前作のセッションで録音されていた曲だったりする(前作の拡大盤にも追加収録)。今作の本編ラストを飾る同曲は、同じく後半に登場する表題通りのダンス・ナンバー“Kingston Boogie”と共にジョン・ヴァレンティみたいで、これらの曲が70年代後半の発掘音源だと紹介されたら何の疑いもなく信じてしまいそうだ。

 アルバム・タイトルの『AM Waves』は、ウィングスっぽいノスタルジックなポップ・チューン“Caroline”の歌詞から取られたもので、黄金時代のAM電波(ラジオ)へのトリビュートの意味が込められているという。〈黄金時代〉とは本ユニットで彼らが意識している70年代後半~80年代前半のことであり、その時代の音楽に対する愛情表明でもあるのだろう。夢に出てきたレニー・クラヴィッツ経営のバーにインスパイアされたというブルージーなバラード“Lenny”やソフトなミッド・グルーヴの“Mojo Rising”は、コーラスのムードも含めて70年代のホール&オーツに通じていて、これらが音のこもったAMラジオから流れてきた時のことを想像してみると納得のタイトルではある。

 アース・ウィンド&ファイアをイメージしたような“Underdog”や“Love Guarantee”といったポップなライト・ファンクを彩るホーンはシーウィード・ホーンズによるもの。AORサウンドの一翼を担ったとも言えるシーウィンドのホーン隊を意識したネーミングからも、YGSFが愛を注ぐ対象は一目瞭然だ。よって、マイケル・マクドナルド加入期のドゥービー・ブラザーズを想起させる“Take It Or Leave It”といったランニング・テンポの曲を臆面なくやってのける彼らに対して、聴いたまま以上の意味を求めるのは野暮というもの。アンディ率いるママズ・ガンの最新作『Golden Days』にもこうしたAORマナーが反映されていたが、そこで言う〈ゴールデン・デイズ〉とは、YGSFが本作でトリビュートしたAMラジオの黄金時代と同義なのだろう。その〈黄金ぶり〉を今回の新作は改めて伝えてくれるのだ。

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