AORの第一人者にして〈Light Mellow〉の提唱者、金澤寿和。彼が監修するPヴァインの看板シリーズの一つが、〈Light Mellow Searches〉だ。
同シリーズから、金澤本人が選曲した名曲からなるベストオブベストな2枚組コンピレーションアルバム『Light Mellow Searches – Brand New Sprouts』がリリースされた。AORからアシッドジャズまで、〈Light Mellow〉な現代の精鋭たちによる珠玉の逸曲が並ぶ本作。このアルバムについて、そしてスタートから10年目に突入した〈Light Mellow Searches〉について、評論家/音楽ディレクターの柴崎祐二が金澤へインタビューした。
なお今回の『Brand New Sprouts』をはじめ対象作品をタワーレコード各店で購入すると、全カタログを掲載した金澤のコメント付きガイドブック「Light Mellow Searches All Catalog List 2015-2024」が特典として付くキャンペーンが実施中。こちらもお見逃しなく。 *Mikiki編集部
AORファンの国際網 × 日本のAOR観
――まずは、シリーズが始動したきっかけを教えて下さい。
「Pヴァインでこのシリーズが始まる前に、VIVID SOUNDで〈LightMellow’s Choice〉というシリーズをやっていたんです。それは基本的に再発が中心のシリーズだったんですけど、今回のコンピにも入っているステイト・カウズとか、新譜ものも少しリリースしていたんですね。
その後、レーベル側の諸事情で〈LightMellow’s Choice〉は一時休止してしまうんですけど、新録ものをどんどん紹介したいという気持ちは変わらずにあって。そうしたら、たまたまクニモンド瀧口くん(RYUSENKEI)の紹介でPヴァインのスタッフと知り合い、そこからスタートしたという流れです」
――当初はPヴァインのレーベルカラーからしてもかなり新鮮な企画に感じました。
「そうですね。Pヴァインといえば、どちらかといえばレアグルーヴとかクラブ寄りのタイトルが多い印象でしたから。実際、はじめのうちはそのあたりを配慮して、ハードな音のAORは避けていました(笑)。様子を見ながらタイトルを重ねていって、徐々にそういうものもOKになっていきましたけど」
――リリースのラインナップを改めて眺めてみると、大御所の新録作からごくマイナーなアーティストのものまで、すごくバラエティに富んでいますよね。どういう情報網を駆使してこれらの作品のリリース情報をキャッチしているんでしょうか?
「AOR好きの国際的なネットワークがあるんですよ。例えば、どこどこの国でファンジンを発行していますみたいな人がいたり、ポッドキャストやインターネットラジオをやっている人がいたり。そういう人たちはみんな横のつながりを持っているんです。だから誰かがFacebookに情報を上げると、それが自然と僕のところにも入ってくる。最近では〈これをPヴァインで出してよ〉みたいな話をもらうこともあります」
――その中からご自身の選球眼を元にチョイスしていく、と。
「はい。そうしたコミュニティにはコアなファンの人も多いから、〈これはあまりにマニアックだな〉とか、単純に内容的に〈うーん〉というものもあるので(笑)、あくまでクオリティ的に優れているかどうか、それと日本のAOR観にマッチするかが基準になっています」
ヨットロック以降の新たな欧州AOR
――日本のファンにも特に評判が良かったアーティスト、タイトルを挙げるとすると、どのあたりになりますか?
「今回のコンピにも入っていますが、マーティン&ガープをはじめオランダのアーティストには好反応が多いですね。オランダではイギリスのヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの人気がとても高いんですが、サウンド的にも同傾向の王道AOR路線のバンドがたくさんいて、日本人の好みにもぴったり来るんだと思います。同じような意味で、さっき名前を上げたステイト・カウズなど、北欧のアーティストも強いですね」
――ヨーロッパのシーンが盛り上がっているのは、2010年代に盛り上がった例の〈ヨットロック〉の人気も影響しているんでしょうか?
「それは大いにありますね。〈ヨットロック〉という言葉自体はアメリカから出てきたものですけど、今はむしろヨーロッパの方が浸透している印象です。アメリカで〈ヨットロック〉っていうと、いわゆる〈懐メロ〉っていうか、ちょっと気恥ずかしさが混じった音楽っていうネガティブな認識が拭いきれないと思うんですが、ヨーロッパだとそのあたりはもう少しフラットだと思います。
もちろん、アメリカでもペイジ99とかが出てきていますけど、ヨーロッパのアーティストにくらべると割と年齢が行っている人が多い感覚で(笑)」
――両地域の指向の違いは、〈ヨットロック〉のブーム以前にもあったんでしょうか?
「ありました。例えば、TOTOはある時期からアメリカ国内では人気が急下降していくんですけど、ヨーロッパだと逆に上がっていくんですよね。ツアーも盛んにやっていたし。そもそもペイジ99は、スウェーデンのステイト・カウズの影響でスタートしている。アメリカじゃ完全に過去へと追いやられたスタイルでしたから、逆に〈まだ可能性があるんだ〉と気づかされたそうです」

北欧ではスティーリー・ダンよりペイジズが人気?
――コンピに付属しているブックレットには、各アーティストが影響を受けた様々なレジェンドの名前も挙げられていますけど、中でも頻出するのがスティーリー・ダンですね。
「やっぱり彼らは別格的な人気がありますね。他にない特徴的なサウンドなので、プロなら一度はコピーしてみたくなるのというのも大きいと思います」
――ちょっと意外だったのは、ペイジズの名前が頻繁に出てくることです。
「彼らは、北欧だとスティーリー・ダンの上を行くくらいの浸透度があるんですよ。ある局地的なエリアの熱気は本当にすごい(笑)。アマチュアやセミプロでペイジズをコピーしている人が結構いますし。どうやら、スティーリー・ダンほどR&B色が濃くなくて、スリリングでジャズっぽいテイストが受けているみたいです」
――今回の収録曲の中には、実際にオリジナル世代のベテランアーティストがゲスト参加している例もありますよね。元シカゴのビル・チャンプリンの名前が何度も出てくるのがとても印象的でした。
「日本のAORファンは大物の名前に反応しやすいので……(笑)。
それにビルの場合は若手からのオファーにも積極的に応えていくタイプで、ファイル交換でもフットワーク軽く歌っちゃう人ですから」
――彼のかつてのソロアルバムが現行アーティストの間で特に人気が高いとかそういう理由もあるんでしょうか?
「それもありますが、意外とそれだけじゃなくて(笑)。彼がジェイソン・シェフと一緒にボーカルを担当していた時期のシカゴの人気が妙に高いんですね。日本だとシカゴは初期から人気だったし、ピーター・セテラがいた時代に思い入れがある人が多いと思うんですけど、ヨーロッパのAORファンの主流はちょっと世代が下なので、それ以降の作品の方が熱く支持される傾向にあります。
さっき言ったように、TOTOもそう。ボビー・キンボールよりもジョセフ・ウィリアムズ時代に思い入れがある人が多いんです」
カシオペアらフュージョン人気の再燃
――一方で、よりクラブ的な視点というか、イタリアのカメラ・ソウル等、アシッドジャズ〜クラブジャズ的な下地を感じさせるアーティストも収録されているのが面白いなと思いました。
「タイトルで〈AOR〉とは銘打ってますけど、実際にはそれにとどまらない周辺ジャンルのアーティストもいくつか収録しています。それこそ、ヨーロッパにはジャズの伝統が根づいているし、フュージョンやジャズファンクもすごく人気が高いので」
――レアグルーヴ以降の感覚からすると、フュージョンってともするとちょっとダサいと思われがちだったと思うんですけど、イギリスのジャズダンスを起点に、海外のクラブシーンでは連綿と受け継がれているんですよね。
「そうそう。北欧のミュージシャンとやりとりしていて気づくのは、日本のカシオペアの人気が圧倒的に高いっていうことなんですよ」
――80年代当時に行ったヨーロッパツアーも盛況だったらしいですよね。
「そうなんですよ。日本のファンにはあまり知られていないかもしれないけど。面白いのは、年齢的にカシオペアをリアルタイムで聴いていたというわけじゃなくて、家にある親のレコードを通じてハマったっていうパターンが多いみたいですね」


AIが代われない臨場感や表現力
――そういう新世代ならではの、オリジナル世代と異なる魅力があるとすれば何でしょう?
「単純に音作りが上手くなっているっていうのは確かだと思います。例えばニュアンスに富んだソロ演奏みたいなものは昔の人の方が優れていたと思うんですよ。けど、アンサンブルの組み立て方とか入念さっていうのは、今の方が向上しているんじゃないでしょうか。
それはもちろん、機材の進歩っていうところが大きいし、宅録だとしても作り込める環境が当たり前になったっていう背景がありますよね」
――今回のコンピにも、大々的に打ち込みを使った曲がいくつか入っていますよね。
「はい。僕がいろんなところで言っているのは、打ち込みで宅録しているとしても、それが音楽的な必然性に基づいたものなら全く問題ないっていうことなんです。僕の世代だと打ち込みに反射的な拒否反応を示す人も多いけど、実際には、その音がただの代替品じゃなくて、音楽的に面白い効果を挙げていればいいわけですから」
――その一方で、人の手を介した演奏ならではの迫力をいかに表現するかという意識も各トラックから強く感じます。
「やっぱり人が演奏していることによる臨場感、身体や心と連動した表現力っていうのは、AIには代われない領域だと思うんです。もちろん、真似ならできる。けれど、いかに創造力を駆使しながら〈表現〉を行うかとなると、話は別ですよね」
〈フィジカルでリリースすること〉に込めたメッセージ
――改めて感じるのは、AORを中心に、ここに収められているような音楽ってやっぱりフィジカルで聴くのが妙にしっくりくるなあ、ということなんですが、金澤さんご自身も、きちんとパッケージされたものを紹介したいという気持ちが強いんでしょうか?
「そうですね。入口としてはストリーミングでも全然構わないと思うんですが、その先にじっくり聴くのはやっぱりフィジカルメディアで、っていう意識は変わらずにありますね。これは音楽ライター的な発想だけど、特にこのジャンルはクレジットをチェックすることから一気に楽しみが広がっていくじゃないですか」
――さっき話に出た通り、人の手による演奏とかアレンジをいかにして楽しく味わうか、という音楽でもありますからね。
「そうそう。だから僕も、自分の監修するタイトルでは目に付くところにミュージシャンの名前を記載するのを意識的にやっているんです。それこそ、AIにおすすめされるものっていうのは確かに自分の好みに近いかもしれないけれど、自分で能動的に掘っていく楽しみっていうのは無いわけですよね。
ある一人のミュージシャンやプロデューサーを起点に掘っていくと、クオリティの良し悪しを嗅ぎ分けるのにも長けてきますし、点が線、そして面へと広がって楽しさが増していくと思うんですよ。そういう思いもあって、一つのメッセージとして長年フィジカルという形で紹介し続けているんです」
――実際に今回のコンピでも、〈ここで見た名前がこっちにもある〉みたいなことが度々ありますし、〈この人はこういうプレイが魅力的なんだな〉って気付いていく面白さもありました。
「それは嬉しいですね。今の時代、原則的にはストリーミングで何でも聴けちゃうわけですけど、それでも、アーティストやミュージシャンの名前が自分の中にインプットされていなかったら、検索すらできないわけですよね」
――僕もついこないだ、何年か前によく聴いていたアルバムのタイトルとアーティスト名を思い出せなくて、ひどくモヤモヤしました。ジャケットは思い浮かんでいるんですけど、検索が出来ないっていう(笑)。
「でしょう(笑)。ストリーミングでも徐々にクレジットを乗せていく傾向にあるみたいですけど、結局、手元に現物さえあればいいわけですからね。そういう意味でも、今回のコンピも2枚組というボリュームなのにPヴァインに無理を言って1枚並みの手に取りやすい価格にしてもらったのは本当にありがたくて。
今の時代、特にシリーズもののタイトルはそうなんですけど、リリースしっぱなしで後は何の動きもナシっていうのが多いんですよ。このコンピを出したのにも、それじゃもったいないという気持ちが強くあったんです。ぜひこれを入口にして、シリーズの各作にも興味を持ってもらいたいですね」
RELEASE INFORMATION
発売日:2024年4月24日
品番:PCD-27072/3
フォーマット:2CD
監修・解説:金澤寿和(Light Mellow)
価格:2,700円(税込)
収録曲
DISC 1
1. Miles / Riding The Wave
2. August Red / Sunshine Melody
3. Mandoo / Can’t We Get Along?
4. Jamie Hosmer / Can't Stop Thinking About You
5. Gabe Dixon / I Believe In Our Love
6. Page 99 / For Imagination’s Sake
7. Modern Times Ensemble / Ramen Dilemma
8. Lo ‘Garp’ Van Gorp / Fisher King
9. Fan Fiction / Mister Minit
10. Al Sunny / How Does It Feel
11. Dawn Patrol / Keep On Believin’
12. Doug Brons / Love Finds A Way
13. Martin & Garp / Making Up
14. TOBB / Sexually Overrated
15. Tomi Malm / Walkin' On Air
16. Quint Starkie / Endless Summer
17. Papik presents Sea Breeze / Biggest Part Of Me (feat. Mario Rosini)
DISC 2
1. Tangarine / The World We Live In
2. State Cows / Emily
3. Emm Gryner / City Nights
4. Tom Hansen / Take A Chance On Love (feat. William Sikstrom)
5. Monkey House / Welcome To The Rest Of The World
6. Zachary Crawford / Hard Enough
7. TJ George / My Shaped Hole
8. The Superhighway Band / The Shake
9. Horn House / Firebrand (feat. Nathan King)
10. Joel Sarakula / Work For Love
11. Tristan / Diamonds
12. Brunky Music / Borderline
13. Camera Soul / Unlucky Day
14. Nate Williams / I Can’t Dance (feat. Steve Winwood)
15. Maeva Borzakian / Hey You (feat. Magoo)
16. The Mighty Soulmates / Gonna Love You Right
17. Super db / The Best In Me (2024 Mix)
INFORMATION
Light Mellow Searches ALL CATALOG CAMPAIGN
対象店舗:タワーレコード各店 ほか(オンラインも対象)
キャンペーン内容:〈Light Mellow Searches〉の商品を1枚お買い上げごとに、「Light Mellow Searches All Catalog List 2015-2024」を1冊プレゼント
https://tower.jp/article/feature_item/2024/04/23/0101















