(左から)イハラカンタロウ、小渕晃

ママズ・ガン(Mamas Gun)のフロントマンであるアンディ・プラッツ(Andy Platts)とマルチプレイヤー/プロデューサーのショーン・リー(Shawn Lee)によるデュオ、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス。2015年にデビューアルバム『West End Coast』で登場して以来、AORリバイバルの最前線にして最高峰のグループとして脚光を浴びている。その後も順調に作品のリリースを重ね、4作目になる『Ticket To Shangri-La』を発表した。新作は、爽快なウェストコーストロックの再解釈が熟練と洗練の域に達しており、惚れ惚れする完成度の高さだ。

今回はそんなヤング・ガン・シルヴァー・フォックスの魅力について、2人のゲストに語らってもらった。1人は、ソウル/ファンクやAOR、ブルーアイドソウルからの影響を元にメロウかつグルーヴィーなサウンドを紡ぎ出している新進気鋭の音楽家、イハラカンタロウ。エドブラック(edbl)によるリミックスとカップリングされたニューシングル“つむぐように(Twiny)”を12月14日(水)に7インチでリリースすることも話題だ。もう1人は、元「bmr」編集長で「シティ・ソウル ディスクガイド」の監修や選曲で活躍する小渕晃。2人がそれぞれの視点からバンドの魅力を詳らかにする。

YOUNG GUN SILVER FOX 『Ticket To Shangri-La』  Légère/Candelion/Pヴァイン(2022)

 

AORリバイバル勢のなかでも抜群のソングライティング

――まずはヤング・ガン・シルヴァーフォックス(以下、YGSF)との出会いについてお教えいただけますか?

イハラカンタロウ「ママズ・ガンの『Golden Days』が2017年の暮れに出たときにタワレコへ行ったら、隣にYGSFのファーストアルバムが並んでいたんですね。それが出会いでした。

〈いま、こういうウェストコーストロックをやっているアーティストがいるんだ!〉と、特に録音にびっくりしましたね。〈本当にいまの音楽なの?〉って。大好きになったのはサード(2020年作『Canyons』)からなのですが」

――『Canyons』のどういうところがお好きなんですか?

イハラ「“Dream Woman”という曲が、前2作とまったくちがうサウンドだったんです。本人たちが〈ニコレット・ラーソンが好き〉とおっしゃっていて、僕も彼女の初期2枚(78年作『Nicolette』、79年作『In The Nick Of Time』)が大好きなのですが、まさにそういうウェストコーストロックサウンドで。

ニコレット・ラーソンの78年作『Nicolette』収録曲“Lotta Love”

サードではエアプレイやデヴィッド・フォスターのプロデュース作のような80年前後の洗練されたファンクサウンドの要素が入ってきたので、〈この人たちについていこう!〉と確信しましたね(笑)。

“Dream Woman”では、ニコル・トムソン(Nichol Thomson)というショーン・リーと別のプロジェクト(スーパー・ハイウェイ・バンド)をやっている方が弾いているんです。一聴してベースがちがうなって思いました」

2020年作『Canyons』収録曲“Kids”

――やはり、ミュージシャン的な視点で聴かれているんですね。

イハラ「〈おや?〉と思ったらクレジットを見るようにしています。サードは冒頭の“Kids”もすごく好きな曲です」

2020年作『Canyons』収録曲“Kids”

小渕晃「おっしゃるとおり、実はYGSFって作品によって音楽性がちがうんですよね。

僕の出会いはファーストで、ジャケットとタイトルを見て〈ねらってるな〉と感じて、1曲目“You Can Feel It”の1音目を聴いてすぐ好きになりました。あの頃はまだUKポップの要素もあって、ウェストコーストロックやAORがコンセプトだったのだろうけど、もうちょっと自由でしたね」

2015年作『West End Coast』収録曲“You Can Feel It”

――“You Can Feel It”は「シティ・ソウル ディスクガイド」(2018年)で選んでいましたね。

小渕「テンポ感ですとか、まさにいま聴きたい音だったんです。

ファースト以降はウェストコーストロック色がどんどん強まっていきましたね。『Canyons』や新作『Ticket To Shangri-La』にいちばん近いのは、マイケル・マクドナルドがいた頃(75~82年)のドゥービー・ブラザーズでしょうね」

ドゥービー・ブラザーズの78年作『Minute By Minute』収録曲“What A Fool Believes”

――「シティ・ソウル ディスクガイド」のレビューでは、〈とにかくソングライティングが驚くほどにウマい〉と書かれています。

小渕「ええ。一番の武器はアンディの歌とソングライティングだと思います。ウェストコーストロックやAORのリバイバルバンドって他にもいるわけですが、ソングライティングは突出していますね。もちろんショーンも才能がありますが、アンディはママズ・ガンでの作曲もすごい。

イハラさんは同じソングライターとしてどう思いますか?」

イハラ「YGSFと比較すると、ママズ・ガンの新作(2022年作『Cure The Jones』)は70年代前半のソウルボーカルグループっぽいと思いました。YGSFは70年代後半~80年代志向ですよね。その約10年の差は大きいのですが、どちらも歌い分けられるアンディはすごい。ソングライティングの上手さは、そういう音楽的素養の幅広さが関係していると思います」

ママズ・ガンの2022年作『Cure The Jones』収録曲“Party For One”

――あの時代を思い出す、独特のセンチメンタルなメロディーを書けるのがすごいと思います。

小渕「アンディはイギリス人で、ショーンもトーキング・ラウド周辺などイギリスでの活動が長かった人っていうのがミソなのかなと。アンディはビートルズやELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)のような60~70年代のUKロック/ポップスをまちがいなく通っているので、作曲にそれが自然と出てきている。UKならではの繊細なメロディーって、アメリカの音楽にはあまりないですからね」

イハラ「メロディーに対する意識のちがいは、僕も感じます。最近のソウルやR&Bを聴いていて〈いいな〉と思うのはUKが多いんです。たとえば、クレオ・ソル(Cleo Sol)とか。もちろんUSの音楽も好きなんですけど、メロディーという点で日本人がぐっとくる確率が高いのはイギリスの音楽かもしれないですね」