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ジョージ・ハリスン “If Not For You”

ジョージ・ハリスン。70年にフィル・スペクターがプロデュースしたチャート1位のアルバム『All Things Must Pass』に含まれている。シンプルだが魅力的なこの曲はロマンティックなラヴソングだ。ハリスンは、ディランがこの曲を『New Morning』アルバムの為にレコーディングする場に居合わせ、その後カヴァーすることを決めたという。ただし、これは一番売れたヴァージョンではない。オリヴィア・ニュートン・ジョンが71年にレコーディングしたこの曲は、ハリスンと同じようなアレンジだったが、彼女にとっては初めての世界的な大ヒットとなった。

 

マリア・マルダー “I’ll Be Your Baby Tonight”

マリア・マルダーはこの曲をゆったりとした、滴るように魅惑的な歌い方で録音した。マルダーはボブ・ディランの大ファンで、以前にもディランのカヴァーだけのアルバム『Heart of Mine: Marida Muldaur Sings Love Songs of Bob Dylan』も上梓している。

この曲は多くのアーティストにカヴァーされているが、90年にロバート・パーマーがUB40とレコーディングしたレゲエ風ヴァージョンはイギリス、オーストラリア他各地でヒットしている。

 

ゼムIt’s All Over Now, Baby Blue”

ゼム。ヴォーカルにヴァン・モリソンを据えたアイルランドのバンド、ゼムは66年という、ディランがリリースして一年と経たないうちにこの曲のカヴァーを発表している。

この歌は長い間ミステリアスだと評されてきた。別離の曲だが、相手については若い頃から付き合ったり別れたりを繰り返していたジョーン・バエズが相手との説が有力だ。ゼムのバージョンでは重々しいベースラインと、当時ゼムのキーボードを担当、後にプログレ・バンドのキャメルのリーダーとなったピーター・バーデンズによるブルージーなキーボードのソロが加えられている。

 

ガンズ・アンド・ローゼズ “Knockin’ on Heaven’s Door”

ガンズ・アンド・ローゼズ。73年にディランが作曲した西部劇のサウンドトラック『Pat Garrett and Billy the Kid(ビリー・ザ・キッド/21才の生涯)』からの曲。この映画はサム・ペキンパー監督、クリス・クリストファーソン主演他、錚々たるメンバーが出演者に名を連ねているにも関わらず、興行的には失敗だった。ペキンパーは酒浸りの日々を過ごすようになり、MGMのプロデューサーと映画について、予算について激しく争うようになった。彼は、映画の封切り前のヴァージョンを観て、怒りのあまり折りたたみ椅子に立ち上がるとスクリーンに向けて放尿したという伝説がある。88年、ペキンパーはこの映画を再編集する機会を与えられ、この新ヴァージョンは旧バージョンよりも高い評価を受けた。エリック・クラプトンはこの曲のポップ風レゲエ・ヴァージョンを75年に発表し、UKチャートでトップ40につけている。しかし、この曲を気骨のあるブルージーなヴァージョンで世界的に有名にしたのはロサンゼルスのストリートから這い上がったガンズ・アンド・ローゼズだった。

 

バーズ “Mr. Tambourine Man”

バーズ。65年4月にシングル・カットされたこの曲でデビューしたバーズは、一気にUKとUSチャートで1位を獲得している。一月もかからずにコピーされたディランの原曲は、違うキーで、曲調もフォーク寄りで、長さも長かった。バーズのヴァージョンはアレンジされ、ロック寄りのサウンド、マッギンのよく響く12弦ギターとバーズのヴォイス・ハーモニーが彼らの楽曲をダイナミックな印象にしている。ディラン本人はこのバージョンをリリース前に聴き、感銘を受けて〈これなら合わせて踊れるな〉と言ったという。バーズはその後もディランの曲を多くカヴァーし、そのうち20曲が『The Byrds Play Dylan』というアルバムにまとめられた。

 

ブライアン・フェリーPositively Fourth Street”

ブライアン・フェリー。この曲はディランの曲の中でも特に怒りに満ち溢れた、道を違えた友人のことを歌った曲だ。曲の構造はシンプルで、コーラスやリフレインもなく、ニルヴァーナが曲名も歌詞の中には出さないスタイルを流行らせる以前から、同じことをしている。ディランのヴァージョンではアル・クーパーが渦巻いて踊っているようなオルガンを歌詞との対比で聴かせているが、ブライアン・フェリーは深く沈むような歌声と、前半部分のソロピアノが荒涼として不吉な印象を与えている。フェリーはディランの曲のカヴァーのみのアルバム『Dylannesque』を上梓している。