Photo by Gene Kirkland

スラッシュと豪華メンバーのゴキゲンすぎるブルース・セッション!

 スラッシュの全力投球ブルース・ロック・アルバム。ずっとこういうのを待っていた気がする。ガンズ・アンド・ローゼズへの復帰も話題となった彼が久しぶりに個人名義で発表した新作『Orgy Of The Damned』。痛快にして爽快なタイトルが付けられた本作は、彼がこよなく愛するブルースやソウルの名曲をカヴァーした趣味性の高い内容であるが、〈オールディーズ・バット・グッディーズ〉の精神を高らかに掲げながら本能の赴くままに音楽と戯れる姿がやけにエモくて、誰でも無条件に楽しめるようなアルバムに仕上がっている。古くからのファンにとっては、大好きなクラシック・ロックを自由気ままにカヴァーするバンド、スラッシュズ・ブルース・ボールを蘇らせたという印象を抱くだろうし、曲ごとに合ったヴォーカリストをフィーチャーする作りには、初ソロ作『Slash』を思い出すかもしれない。

SLASH 『Orgy Of The Damned』 Gibson/ソニー(2024)

 そう、今回はスラッシュと共に底抜け騒ぎに興じる面々が実に豪華であることも見逃せない点で、渋い色気を振りまくポール・ロジャースと“Born Under A Bad Sign”(アルバート・キング)をブルージーにキメてみせたり、“Hoochie Coochie Man”(マディ・ウォーターズ)で荒々しいスライド・プレイを聴かせるZZトップのビリー・ギボンズと熱っぽいソロ合戦を披露したりもする。ジミ・ヘンドリックスやエレクトリック・フラッグのカヴァーでも知られる先行曲の“Killing Floor”(ハウリン・ウルフ)を聴いたときから、アルバム全体の熱量の高さをある程度予想できていたかもしれない。ここではAC/DCのブライアン・ジョンソンが嬉々とした表情で吠えまくり、エアロスミスのスティーヴン・タイラーがブルースハープをガツガツ吹き散らかす様子が記録されているのだが、その両者の間を泳ぐように駆け抜けていくスラッシュのギターが自由闊達にして雄弁な響きを湛えているのが印象的で、今回行ったセッションが彼に良きインスピレーションとヴァイブレーションを与えたであろうことは手に取るようにわかったのだ。

 その印象は他の曲においても変わらず、ブラック・クロウズのクリス・ロビンソンを迎えた“The Pusher”(ステッペンウルフ)のようなロック・ナンバーや、デミ・ロヴァートと組んだ“Papa Was A Rolling Stone”(テンプテーションズ他)といったソウル・チューンなどにおいても、ブルース・フィーリングを追求しながら同時に想像力を縦横無尽に広げていこうとする積極的な姿勢が確認できよう。

 もうひとつ興味深いのは、ルーツ探求の作業のなかに自身の端緒を成すUKブルース・ロックへの果敢なアプローチが垣間見える点。クリス・ステイプルトン参加の“Oh Well”(フリートウッド・マック)はモロにそうだし、ゲイリー・クラークJrとのギター・バトルも聴きものの“Crossroads”(ロバート・ジョンソン)なんかも、クリームへのリスペクトが透けて見えておもしろい。ちなみに個人的ハイライトは、前ソロ作に続いてのゲストとなるイギー・ポップ参加の“Awful Dream”(ライトニン・ホプキンス)だ。濁った太い歌声とざらついたアコギの絡みっぷりは、面妖という表現があまりに似合いすぎるもの。

 スラッシュが描いたブルースを巡る可笑しくも不思議なロード・ムーヴィー。そのイメージを揺るぎないものにするかのようにエンディングではオリジナルのインスト曲“Metal Chestnut”がめっぽうドラマティックに鳴り響く。これが実に気が利いていて、アレコレ感動シーンがフラッシュバックしてきては自然と胸が熱くなってしまうのだ。もしも参加メンバーが勢揃いするライヴが実現したらどんな楽しい宴になるだろう? そんな無謀な夢を膨らませながらニヤニヤが止まらなくなってしまうあたりがこのアルバムの罪なところでもある。

左から、スラッシュ feat. マイルス・ケネディ&コンスピレターズの2022年作『4』(Gibson/BMG)、ガンズ・アンド・ローゼズの2023年のシングル“Perhaps”(ユニバーサル)

客演アーティストの作品。
左から、ブラック・クロウズの2024年作『Happiness Bastards』(Silver Arrow)、ゲイリー・クラークJrの2024年作『Jpeg Raw』(Warner)、ビリーF・ギボンズの2021年作『Hardware』(Concord)、クリス・ステイプルトンの2023年作『Higher』(Mercury Nashville)、ドロシーの2022年作『Gifts From The Holy Ghost』(Roc Nation)、イギー・ポップの2023年作『Every Loser』(Gold Tooth/Atlantic)、ポール・ロジャースの2023年作『Midnight Rose』(Sun)、デミ・ロヴァートの2023年作『Revamped』(Island)、AC/DCの2020年作『Power Up』(Columbia)、スティーヴン・タイラーの2016年作『We're All Somebody From Somewhere』(Dot)、ベス・ハートの2022年作『A Tribute To Led Zeppelin』(Provogue)

原曲や著名なヴァージョンを収めた作品。
左から、ステッペンウルフの68年作『Steppenwolf』(Dunhill)、ロバート・ジョンソンの編集盤『The Complete Recordings』(Columbia)、マディ・ウォーターズのベスト盤『The Best Of Muddy Waters』(Chess)、フリートウッド・マックのベスト盤『The Best Of Peter Green's Fleetwood Mac』(Columbia)、デレク・アンド・ザ・ドミノスの70年作『Layla And Other Assorted Love Songs』(Polydor)、ライトニン・ホプキンスの62年作『Mojo Hand』(Fire)、アルバート・キングの67年作『Born Under A Bad Sign』(Stax)、テンプテーションズの72年作『All Directions』(Motown)、ハウリン・ウルフの65年作『The Real Folk Blues』(Chess)、スティーヴィー・ワンダーの73年作『Innervisions』(Motown)、T・ボーン・ウォーカーのベスト盤『T-Bone Jumps Again: More Singles A's & B's』(Jasmine)