全国で高温注意報が発令され、この東京もまるで例外じゃなかった7月15日の午後。藤原さくらの初となる日比谷野外大音楽堂でのワンマン・ライヴが行われた。開演を迎えた17時半過ぎには陽はすこし傾いてきていたし、周囲をビル街に囲まれた野音はすくすくと伸びた緑も多く、木立が揺れてささやかに風をくれる。このライヴが、彼女の最新EP『green』のリリース・パーティーも兼ねているとしたら、このシチュエーションは絶妙にぴったりだと思った。梅雨明けの頃にはまだあまり聴こえなかった蝉の声が、今日はジージーと目一杯鳴いているのが否応がなくわかり、始まる前から喝采しているみたいでもあった。
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やがてステージにメンバーが現れた。『green』の全面プロデュースと、演奏もほぼすべてを手がけたmabanuaがバンド・リーダー/ドラマーとして先頭を切り、Ovallの同僚であるShingo Suzuki(ベース)、別所和洋(キーボード/Yasei Collective)、村中慧慈(ギター/wacci)の男性陣。そして、藤原バンドでは初の試みとなる女性コーラスを務めるのは、Meg(コーラス)。彼女とは藤原も参加した冨田ラボのアルバム『SUPERFINE』(2016年)のリリース・ライヴ(2017年2月21日、恵比寿LIQUIDROOM)での出会いがきっかけとなり、声をかけたそうだ。
バンドのオープニング・ジャムの音に誘われるように、若草色のワンピースを着た主役の藤原さくらが中央へ。アコースティック・ギターを手にし、『green』の1曲目である“Dance”からライヴは始まった。続いて、“Walking on the clouds”へ。こちらはメジャー・デビューを飾ったミニ・アルバム『a la carte』(2015年)のオープニング・ナンバー。〈最新のわたし〉と〈最初のわたし〉を冒頭に並べて見せることで、この3年のスパンと、彼女が今踏み出そうとしているステップの両方を表現しているような流れだった。
最新作『green』で、プロデュースを熱望したmabanuaとの本格的なコラボレーションに踏み出した彼女。同作から感じたのは、mabanuaのバンドであるOvallのスリリングでダンサブルなサウンドに彼女が接近していったわけではなく、むしろmabanuaが両者での共同作業から生まれる感覚をつかんで、彼女のフォーキーなポップスの領域を広げることを楽しんでいるような魅力だった。
そのせいだろうか。たとえば、前半で歌われた“How do I look?”(2016年作『good morning』収録)は〈初めてライヴでやった曲かもしれない〉と、演奏したあとで彼女はMCしていたが、このコンビでなら既存の曲にも自然と新しい風が吹くということなのだろう。そんなのびのびとした楽しさがよりはっきりとしたのは、インターミッションを挟んで行われたアコースティック・セットだった。最初は藤原とmabanuaの2人で“Soup”を演奏し、続く“1995”でShingo Suzukiが、“Ellie”でMegが、“Baby”で別所と村中がと、順々にメンバーが加わり、全員が揃っていく。必要な音が必要な分だけ加わっていく、広い野音で小さな音のセッションからだんだん大きな音楽ができていく様子は、彼女にとっても、観客にとっても、〈音楽が生まれる場所〉がそこにあることを順序立てて教えてくれるような発見があったはずだ。
また、このセットではセッティングの都合上、一曲ごとにウクレレを持ち替えなければいけない状況で、当初は彼女自身で持ち替えていたのだが、途中からスタッフがスムーズに進むように手伝いに入るような場面も。だが、その様子をも彼女はライヴの楽しさとして言葉にしていた(そのスタッフは自分と同い年だということも)。もっとプロっぽくやろうと思えば、そういったハプニングとも言える状況はその場にはないものとして処理することもできる。でも、彼女はそうやってみんなの力で音楽が出来上がっていくことが大好きなんだろうし、信じてもいるんだろう。そして、mabanuaとのコラボレーションで両者が響き合っている根本も、それなのではないか。同じように〈音楽が生まれる場所〉が見えている2人だから、ジャンルもスタイルもあっさり飛び越えられるのではないだろうか。