シンガーソングライターとしてはもちろん、役者としても精力的に活動している、藤原さくら。2022年10月スタートのシンドラ「束の間の一花」では、2年の余命宣告期間を超え、いつ終わるかはわからない命を抱えて生きる女子大生・千田原一花を好演。音楽だけに固執せず、着実に表現の幅を広げてきた。
そんな彼女が、約2年ぶりにフィジカルリリースをする。今作の『まばたき』は、リードトラックの“まばたき”と、2017年にパラスポーツアニメ陸上競技編のテーマ曲として書き下ろされた“Just the way we are”に加えて、既存曲4曲のアコースティックアレンジを収録した、藤原にとって自己紹介となるような作品。シンガーソングライターとして全部を自己完結できるようになりたいという憧れは変わらずも、そこへ向かうマインドは変化してきたと話す。
今回のインタビューでは、前作『SUPERMARKET』(2020年)からの2年間を振り返ってもらうとともに、現在進行中の〈弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”〉や今作『まばたき』について語ってもらった。
〈全部を自分でやりたい〉から〈いい音楽を作りたい〉へ
――前作『SUPERMARKET』から2年経ちましたが、この期間はどのようにお過ごしでしたか。
「フィジカルのリリースは『SUPERMARKET』ぶりなんですけど、新曲の配信はしていたし映像作品にも取り組んでいたので、ずっと何かをやっていた気がします。なかでも、誰かとコラボレーションして一緒に曲を制作することが、この2年間は多かったですね。
ちょうど同じタイミングでMichael KanekoさんやReiちゃん、maco maretsさんから〈一緒に曲を作りましょう〉というお話を持ち掛けてもらったのが、去年の年末から今年にかけて。この期間のインパクトが、制作においては大きかったです」
――その期間を経て、何か変化は現れましたか。
「今までだと作詞作曲はもちろん、楽器の演奏やアレンジも全部自分でやりたいという欲求がすごく強かったんですけど、いい意味で〈いい音楽を作りたい〉と思えるようになりました。
小学生のころからの夢がシンガーソングライターだったり、初めてのシングル(“Soup”)が福山雅治さんの書き下ろしだったり、カバー曲を歌うことが多かったり。いろいろなことが重なって、〈全部を自分でやりたい〉と意固地になっていた気がして。
もちろん、今でもmabanuaさんのように全部をご自身でやっている方を尊敬してますし、そういうふうになりたい気持ちもあります。でも、最近は人のアドバイスや意見を柔軟に取り入れたいと思えるようになりました」
――いろんな人とのコラボレーションを経験し、周りの意見を取り入れることで楽曲がブラッシュアップされていく感覚があったと。
「化学反応というか。自分では到達できないところに手が届くような気がしましたし、なによりも人と一緒に制作することは楽しい。ちょっとだけ大人になったから、そう思えるようになったのかな(笑)」
辛い経験も悩むことも試されている瞬間
――ほかにも〈大人になった〉と感じることはありますか。
「〈辛い経験が人を成長させるんだ〉と思えるようになったことですかね。出来事自体は変わらなくても、自分の考えかた次第でそれがプラスにもマイナスにもなると気づいたというか。
例えば、仕事が上手くいかなかったとき〈やらなきゃよかった〉で終わらせることもできるけど、〈これで見えた景色があるから次はこうしよう〉と未来へ繋げることもできる。辛かった出来事を振り返ったとき、〈あれは無駄だった〉とは思いたくないじゃないですか。もちろん、すごく大変なことも〈どうしよう〉って悩むこともあるけど、それは試されている瞬間。
〈どんな物事にも全部何か理由がある〉という考え方に変わってからは、視野も広がりましたし生きやすくなりました。けっこうポジティブになってきてるかもしれません」
――藤原さんは、もともとネガティブなんですか。
「わからないんですけど、ネガティブな部分から歌詞を書いているような気もします(笑)」
――となると、マインドが変化した影響が歌詞に出ていそうですね。
「ハッキリと言葉にはできないんですが、考え方が変わったことによって、書く歌詞も変わったと思います。
『SUPERMARKET』以降はポジティブになった分、〈どういう歌詞を書けばいいのかな〉と悩んだこともありました。それこそ10代のころなんて、鬱憤も溜まっていたし初期衝動に身を委ねて、殴り書きするような感じで歌詞を書いていましたし。
でも、今はちょっと冷静になっている気がしますね。何かを吐き出さなきゃやってられないというより、〈こういうことが書きたい〉って感覚」
――歌詞が浮かんでくるタイミングは変わりましたか。
「自分から出てくるタイミングは、相変わらずバラバラかも。曲やメロディー、締め切りがあって〈こういう歌詞を書かなきゃ〉っていうこともあるんですけど、基本的にはパッと思いついたときにメモしています」