学生時代より様々なコンテストで表彰され、第26回日本ジャズ・ヴォーカル賞で新人賞を受けたのを機に日本からアメリカ、そして韓国へと活動の場も飛躍させた。そんな3年前に発表したデビュー作が好評で、スタンダード歌手の若き旗手として身を捧げ同時にスタンダード1本で歌い続けると公言をした。そんな飯田さつきが2つの新譜を連続リリースする。驚くことに2 つは録音環境も、メンバーからサウンド思想に至るまで、あらゆるネックで対極を成している。たまたま収録時期が重なったことと、発売日もそれに倣い設定されたことで、はからずも飯田のこの時期の心裡状態までそこへ鮮明に定着させ得たように思われた。

飯田さつき Moon River T-TOC RECORD(2014)

※試聴はこちら

 「この3年間は充実して過ごせた実感があり、アメリカで本場のブルース感覚も吸収できたし、あらゆる歌唱行為でレヴェル・アップがはかられた感じです。でも“上手い”のじゃなく、お客さんに“良かった”って言ってもらいたいの。同じ曲を歌うにも3年前とでは表現に用いられる集中力が変わってきたし、その分、余計に私のスタンダード志向は強くなったみたい」

飯田さつき 記念日 T-TOC RECORDS(2014)

 確かに先行したセカンド・アルバムの『ムーン・リヴァー』は、紛うかたなきスタンダード集だ。枯葉舞う初秋のニューヨークで、ニューヨークにちなんだ有名曲を、現地ミュージシャン(ピアノ&プロデュースには世界を股にかける宮本貴奈を起用)とライヴ感覚そのままに録音してきた、グルーヴ感溢れるこれぞ名品といった仕上がり。しかしもう一方は有名でこそあれスタンダードとは言い難い、またセッション感覚でスウィングさせるのとも違う、年間を通じた12種の“記念日”にまつわる曲が愛らしくも深刻に歌われる。

 「とことんスタンダードを極めたことで、反対側に浮き出てきた新たな光源というか、正色に対する補色のような関係。活動のヴァリエーションが広がったこともあって、そこで見えかけていたものを手繰り寄せたのがこれだったと。人はどう判断されるか分かりませんが、私の中ではどちらも正統的ジャズ・スタイルで有名曲を歌ったものであることに変わりないんです」

【参考動画】飯田さつきによる “You'd Be So Nice To Come Home To” ライヴ映像

 

 サード・アルバムはそのまま『記念日』と銘打たれた。原曲をあざ嗤うような諧謔的編曲が各曲に仕込まれ(こちらのピアノ&プロデュースは定評ある青木弘武)、レーベルが心血注いだ高音質とも相俟って伴奏陣とのコンビネーションが立ち昇ってくる。ただ発売直前にトラブルに見舞われた。詳細はいずれ明かされようが本誌刊行時には無事にリリースは適っているはずであり、ともあれこの非相似型双子アルバムのどちらも相変わらぬダークでブルージーなさつき節が全開にされているし、そこに何ら背徳感は持ち得ない。


LIVE INFORMATION

飯田さつき with 宮本貴奈トリオ
『Moon River』発売記念LIVE

○6/20(金)東京・秋葉原 Akiba TokyoTuc
○7/1(火)仙台 KABO会場:コットンクラブ
○7/2(水)秋田 THE CAT WALK
○7/3(木)山形 Noisy Duck
○7/4(金)茨城・古河 Up's
○7/5(土)名古屋 jazz inn LOVELY
○7/6(日)大阪 Mister Kelly's
○7/7(月)熊本・八代 jazzBar FIRST
○7/8(火)鹿児島 Jazz Spot Lileth