Page 2 / 2 1ページ目から読む

頭の中を全部出した

 極度の人見知りで内向的、ヴィヴィッドで歪んだこの個性に松隈ケンタが提供したのは、BiSH以上にシンプルでソリッドなバンド・サウンド。暗い光を放つ“ゴミ屑ロンリネス”からキャッチーな“GALILEO”へ雪崩れ込む冒頭だけで、窮鼠の剥いた牙を音楽に変えたようなPEDROの魅力は明快です。印象的なのはラフな歌い口によってキレを増す言葉のキャッチーさで、「たぶん苦手」という作詞に全編で取り組んだ成果は、拭えない違和感や生きづらさを抱えたアユニのパーソナリティーを映し出しています。

 「メンヘラですか(笑)。今回は〈頭の中を全部出していいよ〉って感じだったので、全部出しました」。

 教室をモチーフにした山田健人(yahyel)監督によるMVも象徴的なリード曲“自律神経出張中”、刹那的な疾走感を痛快に纏った“甘くないトーキョー”、いずれの楽曲からも苛立ちや自虐、自己嫌悪、諦念などが溢れ返り、心に飼ってきた闇の昂りが一気に檻から放たれたかのよう。

 「別に暗さを売りにしようみたいに思ってないんですけど、元気な歌とかあんまり書けないし。やっぱこの根暗が全面的に出ちゃうので、もうそれを活かして。BiSHで作詞したのは2曲しかないんですけど〈この歌詞がいちばん好き〉とか反応してくれる方も多いので、だから孤独さとか、人間なら必ず誰にでもある感情を、私が歌うことによって救えたらいいなって思います」。

 もちろん単純に日記的なわけではなく、表題からも窺える言語感覚が個々の楽曲性に結び付いているのもPEDROらしさ。もともと“恥部”の名で書かれていた騒やかな“MAD DANCE”では作曲にも関わり、煽るようなメッセージを投げかけてきます。

 「バンドでやるってことで〈やっぱ勉強しなきゃダメだな〉って思っていろいろバンドを聴いてたら、何か〈踊れ〉系みたいなのが凄い多かったので、〈あ、こういうのがウケるのかな〉と思って(笑)。自分では絶対〈踊れ〉とかいう単語は出ないんですけど、これはがんばって演じました。こういう時こそ覚えた言葉とかいっぱい使おうと思って(笑)」。

 乱暴に歌い飛ばす“ハッピーに生きてくれ”を経てラストに置かれたのが、「自分が聴いて自分に響く曲にしたい」という意図で〈歌〉への思いを感傷的に綴った“うた”。素直じゃない部分も含めた彼女のシンプルな本音を感じてここでグッとくる人も多いのではないでしょうか。こうして幕を下ろす『zoozoosea』を本人はこう形容します。

 「裸を見られてる感っていうか、ちょっと恥ずかしいですけど、ホントに隅から隅まで私の考えとか意見を使っていただいたんで、〈私〉って感じです」。

 なお、9月25日には、PEDROとしての初ワンマン〈happy jamjam psyco〉も開催、MVにも出演しているレジェンドの田渕ひさ子(ギター)を含むスリーピースで初のライヴを披露しているはずです。BiSHも初のホール・ツアーからファイナルの幕張へ向かって慌ただしく動いていくわけですが、それと併せてPEDROの今後にも期待したくなるのは当然でしょう。

 「いままで一人だけ何かフィーチャーされるのって、ちょっと悪い言い方すると……嫌だったんですよ。そういうのはチッチやアイナちゃんがやってほしいって。けど、一人のお仕事を最近いただくようになったら、凄い全部おもしろくて、だから、やってみないとわかんないなって。こんなこと絶対できないと思ってたし、BiSHに入って、いまがいちばんおもしろいかもしれないです」。

 

文中に登場した作品を紹介。