ほうろうする心の機関庫的名盤の強靭な新装版!!

 昨夏の癌発覚と10時間にも及ぶ大手術からの生還劇は正直、今回の原稿依頼を受けるまで知らなかった。「入院中、ずぅーっと考えてたの。元気になったらどうしようかって。やっぱり俺は歌いたい、早く退院して、少しでも早く歌いたい。じゃあ、どんなコンサートをやろうか!? その時に〈『HORO』をやろう!〉と思ったわけ。そこがシンガーとしてのじぶんの再出発点だったし、元気になって還るのだったらやっぱHOROだな、と。それもアルバムの順番でやろうってね」。

小坂忠 HORO 2018 SPECIAL LIVE コロムビア(2018)

 眼前の忠さんに病み上がり感は皆無だ。生還者らしからぬ弁舌の滑りは、件の全曲再現ライブ盤『HORO 2018 SPECIAL LIVE』の聴きどころの一つだ。そう、全貌収録(@ビルボードライブ東京)のMC部分で忠さん、1975年の名盤『ほうろう』の全曲解説から参加陣との交流、制作秘話などを朗らかに語り、これ以上ない程の新譜案内役を自らこなしているのだ(必聴!)。

 なので紙幅の都合上、今回は彼の半生を象徴する一曲にして、不朽の名曲“機関車”に関する創作秘話を活字にしておこう。聴く側の折々の事情や心理状態で詞の解釈が違って響く不思議さもさることながら、そもそも冒頭で描かれる〈忘れ物〉って何なのだろう?

 「ボクの高校大学時代の友達らは皆、当時の体制に抵抗し、ヘルメットにゲバ棒を持って、デモへ行ったわけですよ。ノンポリと言われても、あの時代を生きた連中はね。が、そんな彼らが大学卒業を迎えたら、それまで対峙していた社会体制に取り込まれちゃう時代が来ちゃった。これがもの凄くショック、でね……」。収録LP『ありがとう』のリリースが1971年10月25日。明けて11月の5日には、連合赤軍のメンバー10名(うち女性2名)が全国特別手配をされている。

 「本当にじぶんたちがやれる事をやってきたのだろうか!? 〈忘れもの〉はないのか、と……それでも過去に向かっては進めないからね、前に進むしかないんだ、ボクらはね。そんな想いから創った曲なんですよ、実は。ある時は“うそのような煙”を吐きながらも、それでも前に進むしかない。目がつぶれ、自由が奪われて、これがじぶんか!?と疑うような状況の中にも入っていかざるを得ないというね。それはボクらの世代の誰もが皆、味わった事なんじゃないかと思うんだ」。

 連赤のリンチ殺人発覚が1972年3月。同月収録(郵便貯金ホール)のライヴ盤『もっと もっと』の2曲めも“機関車”だ。当時の拭えない諦観的歌唱や寡黙気味のMCと、本作の生命力に溢れた2018版のそれらを聴き比べてみるのも一考だ。今は「ある意味の、応援歌」と語る小坂詞の、言葉の深みが了解できる。洒落ではなく〈帰還者〉忠さんの復活と健康を祝したい。

 


LIVE INFORMATION

小坂忠 Chu's 70th Session with 鈴木茂・林立夫・小原礼・Dr.kyOn
○10/16(火)19:45開演 会場:Gate's7(福岡)

CHU-KOSAKA  LIVE with OLD FRIENDs Vol.1
茂忠(小坂忠×鈴木茂)

○11/7(水)19:00開演 会場:京都 磔磔

新日本製薬 presents SONGS & FRIENDS 小坂忠「ほうろう」
○11/26(月)19:00開演 会場:東京国際フォーラム ホールA

www.chu-kosaka.com/