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ホラー映画の金字塔「サスペリア」リメイク版の音楽を手がけたトム・ヨーク最新盤!

 トム・ヨークが手掛ける「サスペリア (原題)」リメイク版のサウンドトラックはCD/LP共に2枚組、計90分で構成されている。ほとんどの楽曲が実際の映画で使われているそうで、インストゥルメンタルや曲の断片を拾ったような1分にも満たない楽曲(効果音?)も織り交ぜており、そういった意味ではサウンドトラックらしい作品といえるだろうが、トムのヴォーカルをフィーチャーした曲が収録されていることに加え、多層からなるヴォーカリゼーション、聖歌隊の神々しい歌声、優しさから不安定な気分まであらゆる感情を表現するピアノ、クラウトロック風な14分に及ぶ不気味なシンセ曲など、レディオヘッドや普段のソロ・アルバムではこれまで聴くことのできなかった要素がふんだん盛り込まれていることは興味深く、トムの秘めたアイディアを覗き見るようであり、純粋なソロ・アルバムとして楽しめる面も併せ持っている。

THOM YORKE Suspiria (Music For The Luca Guadagnino Film) BEAT(2018)

 特に先行で公開された、ピアノをバックに物悲しく儚いトーンのヴォーカルをフィーチャーしたタイトル曲や、ヨレるようなビートに合わせ幽玄な歌が乗る“Has Ended”(トムの息子であるノア・ヨークがドラムを担当)、切ないムードを漂わす“Unmade”他、トムが印象的なヴォーカルを要所で聴かせる楽曲の高いクオリティが、よりそういった感覚に拍車をかけるようだ。

 またホラー映画のサウンドトラックであることを忘れてしまうもうひとつの理由が、77年のゴブリンによる傑作オリジナル版と異なる洗練度だ。ゴブリン作ではダリオ・アルジェントの映像と共鳴するB級的な雰囲気や、やたら恐怖感を煽るようなアレンジが施され、問答無用に禍々しい世界に引きずり込まれたが、トムの場合は多彩な要素を詰め込んで混沌としながらも、曲や音が非常に整ったフォルムにまとめられており、しばしばトム・ヨークや「サスペリア」ということすらも忘れてしまう程の洗練美を誇り、ゴブリンとはまた違った意味で音に魅入られてしまう。