2024年はザ・スマイルとして『Wall Of Eyes』『Cutouts』という2作を連続リリース、ソロでサウンドトラック『Confidenza』も発表し、いつになく精力的に活動しているトム・ヨーク。さらにツアー〈Thom Yorke: everything playing work solo from across his career〉を突如開始、2019年のフジロック以来5年ぶりになる待望の来日ライブが本日11月12日から大阪でスタートする。Mikikiはこれを記念して、音楽ライター9名に今回の日本公演で聴きたい1曲とコメントを募った。読者のみなさんも〈あの曲が生で聴けたら嬉しい〉と考えながら、それぞれの選曲をぜひ楽しんでほしい。 *Mikiki編集部
The Smile “Tiptoe”
by 小野島 大
キャリア総括を謳った完全ソロライブ。海外の演奏曲を見ると、公演ごとに曲目も曲順も異なるのでどんな曲をやるかは事前に予想できない。極端なことを言えばトムがメロディとコードと歌詞さえ記憶していれば、思いついた曲はすべてできてしまうからだ。レディオヘッドの曲もこだわりなく歌っており、11月8日現在のべ24曲が演奏されている。ソロライブでやるのは初めて、みたいな曲も多いので、これまでやってなかった曲を突発的にやる可能性も高い。バンドで表現されていたものがソロでどうアレンジされるのかは興味深いところだ。“Creep”とかやったら大受け間違いなしだろう。
その一方でアトムス・フォー・ピースやザ・スマイルの曲は1日1曲やればいいほうで、ほとんど演奏されていない。どちらもレディオヘッド以上にバンドならでの表現という面が強く、メンバーが揃わないとできない、やりたくないということかもしれない。そうは言ってもザ・スマイルは新作も出たばかりだし、バンドとしての来日がいつになるのかもわからないので、いい機会だからぜひやってもらいたいところ。今のところ“Bodies Laughing”は1回だけやっている。ポストロック〜マスロック的な曲は難しいだろうから、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラとコラボした“Tiptoe”などどうだろう。ピアノの弾き語りで、オーケストラ部分はなにかで代用して。生オーケストラじゃなきゃ意味ねえんだよ、と怒られそうだが、そこはひとつ、伏してお願いします。ちなみに私、東京公演の初日と2日目を見る予定であります。
Radiohead “All I Need”
by 木津 毅
レディオヘッドはライブのセットリストを毎回変えてくることで知られており、そのため複雑なバンドアンサンブルが演奏されるたびに組み直されるようなスリリングさがある。そのダイナミックな瞬間を味わうことが彼らのライブの醍醐味だと自分は考えているが、だからこそ、要所に挟まれるシンプルなバラードがよく染みるのだ。
“All I Need”はまさにそんな一曲だと思う。今回のソロツアーのセットリストを見ていると重要なポイントで演奏されているようで、バンドにとって、あるいはトム・ヨークにとってもレディオヘッドの多彩な音楽性をどのように簡潔にまとめるか腐心した『In Rainbows』(2007年)のなかでもキーになった曲として記憶されているのだろう。それに、何よりも切なくて美しいラブソングだ。〈ぼくに必要なのはきみだけ〉……そんな、飾らない感情がこぼれ落ちるのを味わいたい。
Radiohead “Fake Plastic Trees”
by 小林祥晴
ビートルズが時代によって評価の高いアルバムが変わるように、レディオヘッドも時代によって脚光を浴びるアルバムが変わる傾向にある。ゼロ年代は『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の如く『Kid A』が神格化されていたが、2010年代は新世代のジャズアーティストたちからの再評価をきっかけに『Amnesiac』が見直された。
さて2020年代はと言うと、リアン・ラ・ハヴァスやケリー・リー・オーウェンスやフリコといった様々なジャンルのアーティストから“Weird Fishes/Arpeggi”がカバーされたという一例が示すように、『In Rainbows』の人気が高い。ただ私としては、今後、『The Bends』にも一定の再評価の波が訪れるのではないか?と感じている。
ストレートでエモーショナルなロックアルバムである『The Bends』は、『Kid A』以降のレディオヘッド自身によって否定されてきたので、長らく評価が芳しくなかった(少なくとも、『Kid A』や『Amnesiac』を好きと言う方が格好良く見えた)。しかし、近年は90年代の再評価が進み、ラウドでエモーショナルなロック表現が見直されている傾向を鑑みるに(スマッシング・パンプキンズやホールなどが若手アーティストから支持を集めている)、『The Bends』に再び光が当たったとしても決しておかしくはないと思う。
既にビーン・ステラーやフリコといった気鋭のインディバンドは『The Bends』をインスピレーションに挙げており、ホリー・ハンバーストーンは“Fake Plastic Trees”をカバーしている。ザ・スマイル『Wall Of Eyes』収録の“Bending Hectic”でジョニー・グリーンウッドが『The Bends』時代を彷彿とさせる轟音ギターを久しぶりに解禁したのも象徴的だ。
というわけで、トム・ヨークのソロツアーで聴きたい曲をひとつだけ選ぶとすれば、私は『The Bends』収録の“Fake Plastic Trees”を挙げたい。いまのところ、この曲は2日に1回のペースで演奏しているので、聴ける確率は2分の1。外れたら泣きます。