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笑いが止まらない――ザ・スマイルが誕生したとき、誰がこのペースを予想しただろう?
前作からわずか9か月でサード・アルバムが完成。いまの3人を誰も止められやしない!!!

どこまでも軽やか

 ザ・スマイルが世に現れたとき、誰もが驚いたのがそのフレッシュさだった。もはや説明は不要だろうが、レディオヘッドの中核であるトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、サンズ・オブ・ケメットなどで活躍してきた現代のUKジャズ・シーンを代表するドラマーであるトム・スキナーで組んだ〈スーパー・バンド〉は、アルバムの前にリード曲を多く発表したり、アルバム・リリース後も公演数の多いワールド・ツアーを敢行したりするなど、大御所ぶったところを見せずにフットワークの軽さを示していた。だから『A Light For Attracting Attention』(2022年)から2年足らずでセカンド・アルバム『Wall Of Eyes』(2024年)を発表したこともバンドの好調ぶりを印象づけていたが、なんと今年アルバムをもう1枚リリースする。本当に新人バンドのような勢いだ。

THE SMILE 『Cutouts』 XL/BEAT(2024)

 ただ、サード・アルバムとなる『Cutouts』は『Wall Of Eyes』と同時期に録音されていた楽曲を収録したアルバムであるため、これら2作は双子作として捉えることができるだろう。レディオヘッドでいうなら『Kid A』と『Amnesiac』のあり方に近いと言えるが、もちろん音楽的にも意味合い的にもそれらとは異なるものだ。

 その活動のあり方にも表れているように、ザ・スマイルの音楽は常に軽やかさを感じさせる。そこがレディオヘッドとの最大の違いではないか。たとえばアトムス・フォー・ピースのようにヨークは別のプロジェクトではレディオヘッドとは異なるリズムの実験をする傾向があり、優れた柔軟性を備えたスキナーを迎えたザ・スマイルでもそうした側面はもちろん強い。が、『A Light For Attracting Attention』にはポリリズムを駆使した複雑なリズムとグルーヴの楽曲が並ぶと同時にニューウェイヴ/ポスト・パンク調の荒々しい勢い持ったロック・チューンも存在し、何やら若々しい感覚をもたらしていた。グリーンウッドが先導しているであろうオーケストラのアレンジも、レディオヘッドの『A Moon Shaped Pool』を貫いていた緻密さや複雑さに比べるとやや控えめだ。さまざまなアイデアをカジュアルに、考えすぎずに試してみる。そんな風通しのよさがあったのだ。

 〈モントルー・ジャズ・フェスティヴァル〉での演奏を記録したライヴ盤を挟んで発表した『Wall Of Eyes』は、初作のナイジェル・ゴッドリッチに代わってプロデューサーにサム・ペッツ・デイヴィスを迎えて制作された。おそらくアルバムとツアーでバンドとしての基盤が固まったことに自信を持てたのだろう。スピリチュアル・ジャズ、プログレ、クラウトロックといったジャンルのイディオムを率直に導入し、煮詰めすぎずに多彩なアイデアとして混在させる一枚に仕上げていた。そこでもっとも活き活きしていたのはグリーンウッドだったかもしれない。アルバムを厳格に統一するモードがないぶん、ギターの演奏もストリングスのアレンジも型にはまることなく、ほとんど無秩序と言っていいほどの闊達ぶりを見せていた。タイプの異なる楽曲に対応できるスキナーがいるからこそできることだし、一方のヨークは思いがけずこれまで以上に柔らかい歌声も聴かせる。ザ・スマイルとはつまり、レディオヘッドにおいてヨークとグリーンウッドがみずからに課してきた厳密さから離れてみる実践である、ということが2作目でより強調されたのだ。