過去作のディスコグラフィーから紐解く〈ヒプノシスマイク〉の世界観と音楽的な背景

イケブクロ・ディビジョン Buster Bros!!!

 イケブクロ・ディビジョン代表のBuster Bros!!!は、その名の通りMC.B.Bこと山田一郎(CV:木村昴)、MC.M.Bこと山田二郎(CV:石谷春貴)、MC.L.Bこと山田三郎(CV:天﨑滉平)の山田三兄弟から成る血の絆で結ばれたグループ。特にリーダーで長男の一郎は〈元不良の熱血漢で何でも屋〉という主人公的な設定の持ち主で、なおかつ担当声優の木村昴は以前から生粋のヒップホップ好きとして知られていたこともあって(2016年にはフリスクのCMでKEN THE 390らと共にガチンコのラップを披露)、4つのディビジョンのなかではもっとも王道らしいラップ・スタイルを有するのがイケブクロの特徴です。

イケブクロ・ディビジョン Buster Bros!!! Buster Bros!!! Generation EVIL LINE(2017)

 その持ち味が一番出ているのが、本シングルに収録された一郎のソロ曲“俺が一郎”。あまりにも直球すぎるタイトルからも彼の硬派ぶりが伝わりますが、月蝕會議が手掛けた重厚なトラックと男臭いラップの絡みには、AK-69“Flying B”あたりに通じるエモーショナルな熱さが。リリックの内容もいわゆるセルフ・ボースト系で、実はアニメ好きのオタクという設定に合わせてか、なかには某作品を想起させるようなトピックを織り交ぜるという巧みさも。しかも作詞したのは木村(好良瓶太郎というペンネームを使用)だというから驚きです。

 兄の影響で不良になったというやんちゃキャラの高校生・二郎は、ゴリゴリのミクスチャー・ロック“センセンフコク”でドスの効いたラップを展開。こちらも月蝕會議が作詞/作曲を担っていて、GEEKSのエンドウ.やTRUSTRICKのBillyらバンド畑の人材が揃うクリエイター集団らしい威勢のいいサウンドで、二郎のやたらと〈宣戦布告〉する喧嘩っ早い一面を上手く引き出しています。

 直情系の長男や次男と違って、何でもそつなくこなす天才肌の中学生・三郎は、楽曲面でも一風変わった作風のものを担当。□□□の三浦康嗣が提供した彼のソロ曲“New star”はバッハ〈G線上のアリア〉をベタ敷きしつつ、細かく刻んだTR-808のスネアとハイハットに歌ともラップともつかないフワフワしたフロウが乗るアヴァンギャルドな作りに。みずからを〈一番星の輝き〉に例える自信家ぶりも彼らしい、浮世離れした一曲に仕上がっています。

右から、AK-69の2016年作『DAWN』(ユニバーサル)、GEEKSの2016年作『GEEKEST』(OVERLAP)、TRUSTRICKの2016年作『TRICK』(コロムビア)