テディ・ライリーと再会した話題のニュー・アルバム
もし、いつもと違うところがあるのだとしたら、それはハットやシガーという小道具(?)を使っているところだろうか……というのはジャケの話。キース・スウェットのニュー・アルバム『Playing For Keeps』を手に取っての最初の感想はそんなものだ。もう少しジャケの話をしておくと、一時のキースはフォーマルな装いとカジュアルなストリート風ファッションを交互にアルバム・カヴァーに選んでおり、好事家の間では〈スーツでビシッとキメたジャケの作品のほうが内容が良い〉という定説もあった。つまり、すっかりオトナの装いオンリーになったこの10年のキースは良作しか発表していないことになる。まあ、そんな定説は嘘だし単純に好みの問題だが、それぐらい変わらない音楽性をキープし続けている男、それがキース・スウェットなのである。
前作『Dress To Impress』からは2年ぶり。そこではデレク“DOA”アレンやジェイソン“Jホット”スコット、ワーリー・モリスらによるプロデュース体制を敷き、かつての弟子にあたるシルクやドゥルー・ヒルといったヴォーカル・グループも従えていた。さらに遡った前々作『'Til The Morning』(2011年)にはジョニー・ギルと故ジェラルド・リヴァートを交えたLSGの再臨やT・ペインとのコラボがあった。ツボを外すことはないが、そのように作品ごとの説明しやすいトピックがある場合もある。今回の新作で言うなら、それはテディ・ライリーとロイ“チップ”アンソニーをメインのプロデューサーに迎え、それぞれと興味深い手合わせを実現させていることだ。
まずテディ・ライリーは言うまでもなくキースの初作『Make It Last Forever』(87年)を手掛けた旧知の間柄。テディにとっても同作やそこに収められた“I Want Her”は、彼のビート・スタイルが〈ニュー・ジャック・スウィング〉と呼ばれるきっかけにもなった金字塔である。そこから作品でガッチリ組むことがなかったのも不思議だが(ライヴなどではたびたび共演)、もちろんここでキースがブルーノ・マーズの向こうを張って往年のニュー・ジャック・スウィングをやっている、なんてわけはない。ここ20年ほどのキース世界を彩り続けているスロウ・ジャムにテディも数曲のプロデュースや大半のミックスを通じて奉仕している格好だ(近年のテディはナイル・ロジャーズ&シックとの仕事でニュー・ジャック感覚を全開にしてもいるが)。地元の新進ラッパーであるレイフェイドを迎えたアトランタ住まいのキースらしいトラップ風味の“Eney Meeny Miny Moe”もテディの作だし、タンクを交えてテディ自身が前に出てきた“Who's Ya Daddy”なんて曲もある。
もうひとりのロイ“チップ”アンソニーは、ヴォーカル・グループのレジットでも知られるルイジアナのシンガー/プロデューサー。このロイ自身がシンガーとしては相当な実力者なわけで、全編のバック・ヴォーカルでも活躍しているのが頼もしい。彼が共同プロデュースを担当したなかでは、ジョデシィからK-Ciを招いた先行シングル“How Many Ways”が群を抜いて素晴らしい成果を上げている。エイコンとレゲエDJのアルカライン、先述のレイフェイドを迎えたダンスホール調の“Fuego”や、サウスっぽいスクリュー気味のスロウ“Get Up In It”から、クラシック・ソウル的な風合いもある“Bae Bae”や“Cloud 9”まで、予想以上に幅のある曲調もロイのソウルフルなセンスが活きた賜物ではないだろうか。
なお、アルバムの終盤には女性とのデュエットが固められ、“Boomerang”にはキャンディス・プライス、ラストの“All About You”にはアニヤ・シモーンという艶っぽい面々がパートナーを務めている。これまでも女声との絡みで力を発揮してきたキースだけに、このあたりは特にマチュアなリスナーにとっての大きなハイライトと言えるのかもしれない。
表題に掲げられた〈Playing For Keeps〉を〈真剣勝負する〉と捉えてもっともらしいことを書いておけば、この男は常にR&Bファンのために本気で作品に向き合ってきた。変化があろうとなかろうと、惰性でプレイしたりはしない。キース・スウェットとはそんな男だ。たぶん。
キース・スウェットの近作。