会場が暗転し、バンド・メンバーが出そろい、短い沈黙の後で“愛と笑いの夜”のイントロがゆっくりと奏でられたとき、その気迫に〈とんでもないライヴになりそうだ〉という予感がした――。

12月19日、東京・恵比寿 LIQUIDROOMでサニーデイ・サービスのワンマン・ライヴ〈サニーデイ・サービスの世界〉が行われた。会場は超満員、開演時間ギリギリまで入場の列が途切れず、フロアに降りてほどなくして演奏が始まった。

1曲目に続き、97年のアルバム『愛と笑いの夜』から“忘れてしまおう”。95年のデビュー作『若者たち』から、リズムボックスとスティール・ギターが導く“約束”(ライヴで演奏されるのは珍しい楽曲だ)。そして98年作『24時』から、激しいロック・ナンバー“さよなら!街の恋人たち”へ。まさしく〈サニーデイ・サービスの世界〉が眼前で展開されていく。

この日のサニーデイは9人編成の大所帯。曽我部恵一(ヴォーカル/ギター)と田中貴(ベース)に加え、新井仁(ギター)、中村ジョー(ギター)、高野勲(キーボード他)、細野しんいち(キーボード)、鈴木正敏(ドラムス)、岡山健二(ドラムス)、そしてバンドのアートワーク/デザインを長年担当する小田島等(シンセサイザー)も参加。バンド・メンバーもまさに〈サニーデイ・サービスの世界〉だと言えよう。

ステージにひしめく大量の楽器と9人のメンバーが発する音が、ひとつの塊となって押し寄せてくる。3月の〈DANCE TO THE POPCORN CITY #2〉を観たときにも感じたが、現在のサニーデイの演奏には張り詰めた緊張感がある。

しかし、曽我部が「年末の忙しいときにありがとう。みんな風邪引いてない?」と観客に投げかけ、バンジョーとアコーディオンが軽快に跳ねる“カーニバルの灯”が演奏されると、ふっと緊張感は霧散。“スロウライダー”では、タメの効いたビートが会場を心地良く揺らす。

曽我部がアコースティック・ギターに持ち替える。それを爪弾き、高野のエレクトリック・ピアノがユニゾン。どよめきと感動のため息が広がっていく。96年作『東京』から“東京”だ。ファンにとっては、このうえなく大切な楽曲だろう。

サニーデイは友達がいないバンドだった、数少ない例外が中村のザ・ハッピーズだったと曽我部が語り始める。そしてザ・ハッピーズの“スカッとさわやか”を中村のヴォーカルでカヴァーして観客を驚かせると、口笛が優しいメロディーを奏でる“恋はいつも”へ。

リラックスしたムードは、ブルージーでハードな“ぼくは死ぬのさ”で打ち切られた。演奏は次第に集団即興の様相を帯び、ノイズにまみれていく。ツイン・ドラムが暴風のようなビートで暴れ回る。曽我部は腕を振り上げ、鈴木は立ち上がってシンバルを殴るように叩く。数分続いたインプロは、やがてクライマックスへ。

メンバー紹介では、バンドにまつわる昔話を披露。〈細野のMagoo Swimとはほぼ同期〉〈新井と受けたライヴハウスのオーディションに落ちた〉〈中村は飲みに行くとつぶれていた〉などなど……。それらのエピソードを通して、〈愛と笑い〉がフロアに満ちていく。

“あじさい”ではイントロのストリングスを高野がメロトロンで再現。“雨の土曜日”に続いて、2000年作『LOVE ALBUM』から、またも珍しい楽曲“うぐいすないてる”を披露した。そして、97年作『サニーデイ・サービス』から“PINK MOON”を重たくブルージーに演奏。サニーデイのライヴでは基本的に曽我部がリード・ギターを弾くのだが、熱く艶めかしいそのプレイからは、ロック・バンドとしてのサニーデイの核のようなものが感じ取れる。

屈指の名曲“白い恋人”で、ライヴはひとつのハイライトを迎えた。穏やかなAメロからサビへと高揚していくなか、曽我部はエモーショナルに歌い上げ、高野のオルガン・プレイが熱を帯びていく。一瞬の沈黙の後、“若者たち”へ。〈僕らはと言えば遠くを眺めていた/陽だまりに座り 若さをもてあそび/ずっと泣いていた〉。ハーモニカを取り出して勢いよく吹く曽我部。演奏を終えると、この日最大の歓声と拍手が巻き起こる。

ラストは1曲目の“愛と笑いの夜”をインストゥルメンタルで再演。テンポを落とし、2本のギターがユニゾンでメロディーを奏でるさまに、どことなくクイーンの“God Save The Queen”を思い出す。言うなればこの曲は、9人のメンバーがサニーデイ・サービスというバンドにみずから贈る賛歌。荘厳な雰囲気を残して〈サニーデイ・サービスの世界〉は幕を閉じた。

もちろん、アンコールを求める声と拍手は鳴り止まない。それに応えて再びステージに現れた9人。デビューから2000年の解散までの楽曲だけを演奏してきたバンドだったが、ここにきて最新曲“Christmas of Love”を披露。過去と現在が繋がった瞬間だった。

“Christmas of Love”の後に聴こえてきた、どこかさびしげなギターのフレーズに思わず息をのむ。97年のヒット・シングル“NOW”だ。曽我部が歌う。〈なんとなく会いたくなって/風の便りあの娘へと〉。歌詞の意味が特別な意味を持って聞こえてしまうのは、考えすぎだろうか。最後に、サニーデイ・サービスというバンドそのもののような楽曲“青春狂走曲”を怒涛の勢いで演奏。約2時間半の濃厚で濃密なショーは、大きな歓声が響くなかで終わった。

アルバム『愛と笑いの夜』からの楽曲を多く聴くことができたが、まさにこの日のライヴは〈愛と笑いの夜〉と呼ぶにふさわしい。終演後、ファンの会話に耳を澄ましてみる。「“白い恋人”から“若者たち”の流れで泣いちゃった」。彼女のように、多くの人がサニーデイ・サービスの過去と現在に思いを馳せたことだろう。〈愛と笑い〉だけではない。きっと〈涙の夜〉でもあったはずだ。

なお、12月28日(金)には〈サニーデイ・サービスの世界 追加公演 “1994”〉が開催される。同公演は今年5月に逝去したドラマーの丸山晴茂に哀悼の意を表して、曽我部と田中の2人だけで行われるという。Mikikiではその日の模様もお伝えする予定だ。そちらもぜひ楽しみにしていてほしい。

 


〈サニーデイ・サービスの世界〉
2018年12月19日 東京・恵比寿 LIQUIDROOM

メンバー
曽我部恵一(ヴォーカル/ギター)
田中貴(ベース)
新井仁(ギター)
岡山健二(ドラムス)
小田島等(シンセサイザー)
鈴木正敏(ドラムス)
高野勲(キーボード他)
中村ジョー(アコースティック・ギター)
細野しんいち(キーボード)

セットリスト
1. 愛と笑いの夜
2. 忘れてしまおう
3. 約束
4. さよなら!街の恋人たち
5. 知らない街にふたりぼっち
6. カーニバルの灯
7. スロウライダー
8. テーマ
9. 経験
10. 東京
11. スカッとさわやか(ザ・ハッピーズ/ヴォーカル 中村ジョー)
12. 街へ出ようよ
13. 恋はいつも
14. ぼくは死ぬのさ
15. シルバー・スター
16. あじさい
17. 雨の土曜日
18. うぐいすないてる
19. PINK MOON
20. 果実
21. 白い恋人
22. 若者たち
23. 愛と笑いの夜(inst.)

アンコール
24. Christmas of Love
25. NOW
26. 青春狂走曲