五十嵐夢羽さん、宇野友恵さん、横山実郁さんのアイドルユニット、RYUTist。〈劇団ムー〉の公演をはじめ、新たな活動やライブに勤しんでいる3⼈です。〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉は、そのRYUTistの友恵さんが毎回一冊の本について綴っている連載。今回は獅子文六さんによる、昭和が薫る恋愛小説「コーヒーと恋愛」に、思い悩む秋の心模様と心中の〈余白〉を重ねたようで……。 *Mikiki編集部

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この頃、余白のある生活を送っています。

もちろんお仕事はしていて、先日も〈劇団ムー〉の旗揚げ公演で初めての舞台を経験したばかり。
この余白を説明しようとすると難しいのですが、その隙間に良いことも悪いことも入ってくる状態で、〈みんなが元気で笑って暮らしていけたら私は十分なのにな〉とのんきに、いや、かなり必死に日記に書くなどをして過ごしています。

 

天気のいい秋の日、お仕事の前に寄った北書店で獅子文六さんの「コーヒーと恋愛」を見つけました。
〈RYUTist宇野友恵の「好き」よファルセットで届け!〉第27回はこの獅子文六さんの「コーヒーと恋愛」をご紹介したいと思います。

獅子文六 『コーヒーと恋愛』 筑摩書房(2013)

 

前回、前々回とサニーデイ・サービスさんにまつわる夏の旅をしていた私ですが、このタイトルと表紙を一目見てすぐに購入。
今まで何度も北書店さんに通っていて、この本を目にしていたはずなのに何にも引っ掛からなかった自分を悔やみます。本を読むきっかけというのは本当に様々ですね。

 

サニーデイ・サービスさんの『東京』に収録されている“コーヒーと恋愛”という曲は曽我部恵一さんがこの本にインスピレーションを受けて作った歌だったのだそうです。

サニーデイ・サービス 『東京』 ミディ(1996)

獅子さんのこの作品は1969年に刊行されており、それが2013年に文庫化される際に、ジャケットはサニーデイ・サービスさんの作品でおなじみの小田島等さんが手がけ、解説を曽我部さんが担当されるという経緯に至ったとのことでした。

 

曽我部さんによるあらすじを拝借させていただくと
〈まだテレビが新しかった頃、お茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然"生活革命"を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。悲嘆に暮れるモエ子はコーヒー愛好家の友人に相談……ドタバタ劇が始まる。人間味溢れる人々が織りなす軽妙な恋愛ユーモア小説。〉

 

なんとも個性豊かな登場人物たちが繰り広げる物語で、怒ったり泣いたりと恋愛に振り回される主人公・モエ子に、他人に影響されやすい自分を投影せざるを得ず、今の私の状況を思わず重ねてしまいました。

現代の人々はとても疲れていて、忙殺されている。
心ない言葉に傷つき、囚われていく。多くの仕事の中でお互いを理解し繋がろうとする余裕もなさそうだ。
そんな日常が連鎖し、さらに疲れていく。
今となっては何が原因でいつはじまったことなのか誰もわからない。
臆病者の私は何もないフリをして、また隠れてしまう。

人々が論争したりせわしなく動いたりしているのを私は遠くからただながめるしか無くなってしまいました。
誰も入ってくることのなくなった心の余白。

この空いた余白を自覚したときに、ふと自由を感じました。
自由とは、突然恐さに変容します。
誰にでもある権利のはずが、中学生の頃からずっとRYUTistの中で守られてきた私にとって、恐いものでしかない。
どんな言葉を選んで、誰を信じて、 何を大切にするか。
本当に難しすぎて人間をやめたくなります。

ひとり喫茶店でいただく一杯のコーヒーは癒し効果抜群。現実逃避のひととき。
そしてまた、〈みんなが元気で笑って暮らしていけたら……〉と、コミュ障のくせに大真面目に慈悲深くも気持ち悪い思考へと辿り着くのです。

 

解説で曽我部さんは〈いつでも大事なのは「何かにこったり狂ったりした事」(©︎ムッシュかまやつ「ゴロワーズを吸ったことがあるかい?」)です。それこそが青春なのだと思います。この本の登場人物たちは、生き生きとコーヒーと恋愛に夢中で、いつの時代に本をひらいたとしても、かわらず青春のまっただなかにいてくれることでしょう〉と締めています。
曽我部さんの言葉には説得力がありますね。

私はよく、お手紙を読みます。
ファンの方からいただいた、お手紙たち。
そのやさしく、あたたかい言葉たちが、時には闇を照らす道標となって支えてくれています。

私が〈何かにこったり狂ったりした事〉は、きっとファンの方が知っている。
でも、その記憶は更新されなければ持続することはなく、いつまでもそばにいてくれるなんて、甘ったれたことを思ってはいけないのは当たり前のこと。

青春っていうと少し恥ずかしいけれど、〈何かにこったり狂ったりした事〉で頭をいっぱいにしているときが一番みずみずしく、大好きです。いまだ何者でもない私を応援してくれる人たちの為にも、楽しみを届け続けていきたいのです。

 

「コーヒーと恋愛」の主人公・モエ子は、周りの登場人物たちに散々振り回されたのち、一人で自分の人生を歩んでいくことを選びます。
潔く、かっこよく、たくましかった。読んでいる途中まではなんだか親近感があったのに、最後のそのシーンを読んで、強くなりきれない自分に敗北感を感じ、とても情けなかったです。

本当は余白なんてなかった。空いた隙間を埋めるように毎日心が忙しい。
帰宅したらメイクを落とすだけで寝て、現実と真逆の逆夢にうなされて起きる日々。
殺されていたのは自分の方だったのかもしれない。

秋のいたずらが惑わすようです。冬になったら少しは落ち着くかしら。
朝ごはんにあたためた味噌汁の塩分が喉の奥まで沁みわたりました。