天野龍太郎「あけましておめでとうございます! Mikiki編集部の田中と天野が毎週月曜日にお送りしている〈Pop Style Now〉。今年もよろしくお願いいたします」

田中亮太「年明けの話題といえば、やはり〈コーチェラ〉のラインナップが発表されたことでしょうか」

天野「チャイルディッシュ・ガンビーノ、テーム・インパラ、アリアナ・グランデが各日のヘッドライナー。行きたすぎる……! 〈PSN〉で取り上げたアーティストでは、キング・プリンセスFKJメン・アイ・トラストなども。しかも、日本からはPerfumeが出演!」

田中「今年は2週ともライヴ・ストリーミングされるようなので、例年以上にいろんなアクトを観られそう。あと、昨年は会場内でセクハラ被害が多発していると報じられたんですが、先日フェスでの暴力やハラスメントを防いでいくというポリシーが出されました

天野「こういう動きは日本のフェスにも波及するといいですね。それでは、〈Song Of The Week〉から!」

 

Future “Crushed Up”
Song Of The Week

天野「2019年初の〈SOTW〉はフューチャーの“Crushed Up”です! 紹介するまでもないかもしれませんが、フューチャーはアトランタのラッパーで、もはや2010年代を代表するアーティストですね。彼なしにトラップは語れません」

田中「2017年は『FUTURE』と『HNDRXX』という2作を立て続けにリリースして話題をかっさらってましたね。“Mask Off”の大ヒットもあったりと」

天野「昨年は映画『Superfly』のサントラを手掛けたり、ミックステープ『BEASTMODE 2』を発表したり、ジュース・ワールドとの『WRLD On Drugs』をリリースしたり、客演もいっぱいやったりと大活躍でした。実は年末にフレンチ・モンタナとの新曲“NASA”も出ていたんですが、聴けなくなっちゃいましたね」

田中「新年初の楽曲“Crushed Up”は1月18日(金)にリリースされる新作からのシングルだとか。すごいスピード感ですね」

天野「そうなんですよ。この曲はダイアモンドだらけの時計が大好きなフューチャーらしいリリックですね。アウトロでスクラッチが入ってるのがカッコイイ。ちなみにクリスマスに5人目の子ども、ヘンドリックスくんが生まれたんですって。おめでとう!」

田中「5人目かー、すごいなあ。ミュージック・ビデオは〈フューチャーと雪の王さま〉みたいな世界観ですね。まったく子ども向けではないですが……。なお、アルバムに先駆けて、1月11日(金)にはドキュメンタリー『The WIZRD』がApple Musicで観られるようになるとか。こちらも楽しみですね」

 

 Noname feat. Phoelix “Song 31”

天野「2曲目は、ノーネームの新曲“Song 31”です」

田中「彼女についても説明不要かもですが、チャンス・ザ・ラッパー周辺のシカゴ新世代を代表する詩人/ラッパーですね。昨年リリースのアルバム『Room 25』も傑作でした!」

天野「この“Song 31”はそれ以来の新曲。元日に発表されて話題になってましたね」

田中「優美なムードのジャジー・トラックは、『Room 25』に入っていてもおかしくなかった印象。耳の奥をくすぐられるような彼女のラップも、相変わらずめちゃくちゃ気持ち良いです」

天野「この曲でフィーチャーされているフェリックスは、彼女の作品にたびたび参加していたシンガーですね。粘り気のあるヴォーカルが独特の柔らかさを与えています。ブワッと広がっていくような多重録音のコーラスがすばらしい!」

田中「リリックについては、なかなかすべてを理解できないんですが、発表したタイミングもふまえるとマニフェスト的な趣もあるのかな。〈私を裏付けるレーベルはないけど/チケットはソールドアウト〉と言い放っているのがカッコイイです」

 

Lil Xan “Watch Me Fall”

天野「続いてはリル・ザンの“Watch Me Fall”。カリフォルニア、レッドランズ出身の22歳で、いわゆるエモ・ラップの新鋭です」

田中「昨年のデビュー・アルバム『Total Xanarchy』はけっこう話題になってましたね。独特のステージ・ネームは、ドラッグとして乱用されている抗うつ薬のザナックスから取られているとか」

天野「ですね。いまにも壊れそうな繊細さや痛々しさを感じる曲です。亡くなってしまったXXXテンタシオンやリル・ピープもそうなのですが、こういったラップはちょっと気が滅入っちゃいますね……。実はXの死をきっかけに、やっとエモ・ラップに向き合えるようになったのですが」

田中「僕はエモ・ラップについては、2000年代中盤にマイ・ケミカル・ロマンスなんかが担っていたゴス・エモのアップデート版みたいな位置づけですね。リル・ザンも、見た目がグッド・シャーロットのメンバーみたいだし。嫌いじゃないですが、少し白々しさを感じたりも……。この曲名もすごいですね、〈落ちるところを見ていて〉という」

天野「でもリリックは〈don't watch me fall down〉、つまり〈(ドラッグなどで)落ちていくところを見ないで〉と言っているんです。そしてこの曲は、元恋人のノア・サイラスに向けたものと言われています」

田中「どんどんダウナーになっていくアメリカのラップ・ミュージックそのものみたいな曲ですね……」

天野「つらっ……。自分で選んでおいでなんですが、もうちょっと楽しい曲を聴きたい……」

 

Ozuna “Baila Baila Baila”

天野「というわけで、次は楽しい曲です! オスナの新曲“Baila Baila Baila”!!」

田中「イェーイ。やっぱりまずはブチ上がりたい! えーっと、オスナはこの〈PSN〉でも頻繁に取り上げているラテン・トラップ/レゲトンのアーティストですね」

天野「そうです。プエルトリコ出身、26歳のシンガーです」

田中「昨年はビルボード・ミュージック・アワードのラテン音楽部門で2冠。まさにラテン界の新たな星ですね」

天野「僕が知ったのはDJスネイクのシングル“Taki Taki”でしたが、オスナは2017年末にカーディ・Bと“La Modelo”という曲も発表してて、アメリカ進出の足掛かりにもしていました。現在のラテン音楽界とアメリカ音楽界の密接な関係性を、ちょっと先取りしていたんですね。もはやこの〈ドンッツ、ドンツ〉というリズムも聴き馴染んだものになりました」

田中「Pitchforkには〈ラテン・アーバンがクリティカル・マスに達した2018年。もはや普通のことに?〉なんてコラムも載っていましたね」

天野「ありましたね。でもこの曲、オスナの歌がホットでセクシーで最高ですよ。つらいことを忘れられるような気がして……。ちなみに〈baila〉っていうのはスペイン語で〈踊れ〉っていう意味だとか。ラテン音楽の勢いは2019年も止まらなさそう。新しい才能がどんどん登場するのにもワクワクします」

田中「ソレソレ!!」

 

Bring Me The Horizon “medicine”

天野「ラストはブリング・ミー・ザ・ホライズンの“medicine”。彼らはシェフィールド出身のメタルコア・バンドで、本国イギリスではフェスのヘッドライナーを任されるくらいのビッグ・アクトです」

田中「最初のアルバムが2006年リリースなので、もう10年選手ですね。メタルコアを出自に持ちつつ、大胆にエレクトロニクスを導入したり、ポスト・ハードコアに接近したりと、音楽性を拡張しながらキャリアを重ねてきました」

天野「この曲は1月25日(金)にリリースされる新作『Amo』の収録曲。ちなみに、日本盤は1月30日(水)に初回仕様で発売。彼らは昨年の夏からいくつか新曲を発表してましたが、どれもカッコイイんですよね」

田中「そうなんです。エレクトロニックな下敷きを感じさせつつも、バンド・サウンドがグッと端正になっています。その結果、持ち前のアンセミックなメロディー・センスがより力強さを増した印象で」

天野「この曲も跳ねたビートが印象的なヴァースからはじまり、タメるブリッジ、そして一気に爆発するコーラスと、王道の構成。迷いを感じさせないアゲアゲな演奏とプロダクションが超パワフルです」

田中「新作を経て、日本でもさらに2ステップくらいステイタスが上がりそうな予感。フェスのビッグ・ステージで観たいですね~。クリマンさん、期待してますよ!」

天野「〈フジロック〉や〈サマソニ〉……国内フェスのラインナップも楽しみです!」