ジャズピアニストであり、メタラーとしても知られる西山瞳さんのメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。2024年最後の回は、西山さん的に気になった今年のアルバムについて。年間ベストというわけではなく、何かが引っかかって聴きつづけている話題作の魅力に西山さんならではの視点から迫ります。今年も一年間〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉をお読みいただき、ありがとうございました! *Mikiki編集部
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今回は、2024年の話題作で、私が気になって聴いていた作品を取り上げます。
ベストかどうかと言われると、ちょっとよくわかりません。
というのは、下記4作品はよく聴いたものの、いまだに消化できていないところがあります。
でも、わかっちゃったらもう聴かないのかもしれないし、消化できない、わかりたいから聴き続けるのもいいかな、と思っています。
今年、多くの人がベストに挙げるアルバムではないでしょうか。
オーペスの音楽は、以前はダークで近寄りがたい印象を持っていましたが、近年ミュージシャンとして聴いていると、演奏は極めて明快と感じます。この新譜は話題になっていたので聴き、アルバムから発せられる厳粛な空気が気になって、何度となく聴きました。大作だと思います。なんとなく、体力がある時しか聴けないんですが。
第一次世界大戦後の時代をテーマにしたコンセプトアルバムですが、楽器編成とそのアレンジのスケールが大きく、それなのに曲の展開に冷徹な緊張感があって、たまらない。
曲名は“§1”などと数字が並びますが、最初から順番に、時間をかけてじっくり聴いて欲しいです。まるで映画を観ているように展開していく、ストーリーテリング的な構成になっています。ですので、単曲でお勧めすることが難しく、最初から全部聴いて下さいとしか言えません。
“§6”で、これで終わったかな?と思うんですけど、そこから“§7”に移り終幕に向かう時間がとても好き。フルートの音色が不穏で、アルバム全体でフルートの使い方がとても良いです。
最後に番号がつかない曲“A Story Never Told”が入るのですが、これがとても良い曲なんですよ。このエピローグが非常に味わい深く、こちらもフルートの音色が郷愁を誘い、とても良い読後感が残ります。
ちょっと懐かしさもある、サイケなプログレ風ジャケット、とても評判になっていましたが、まずこのジャケットの絵のパンチに魅かれて聴きました。
1曲目、デスメタルかと思ったら、あれ? 話が変わってきて、ジャケットどおりの昔のサイケな音もしているし、なんかブルージーなギターも入った、と思ったら、またデスボに戻った。全体はプログレ感。なんだこのバンド……? しかもフレットレスベースだし、なんか妙にスケールが大きいし、なんだこれ……?
ということで、1曲目の奇妙さから聴き進めていくと、2曲目はコズミックアンビエントからのサウダージ感。要素が多すぎますが、なんだか凄い勢いとパワーに圧倒される。ミュージシャンの想像力がはちきれて爆発してしまったような、爆風を感じるんですよ。
〈あ、やばいものを見てしまったかも〉っていう感覚を持つ時ってあるじゃないですか。呪術的すぎて、〈これは素人が手を出したらあかんやつや〉って。あれを感じました。
このアルバムは実質2曲。“The Stargate”と“The Message”なのですが、両方とも3部構成でトラックが分かれており、しかも1曲の中でめまぐるしく変化する。とにかくスケールがでかいです。少し懐かしいシンセの音が、どこか違う銀河系の話のようにも聞こえて、懐かしさに止まらない、まだ見ぬ世界を想起させるパワーが満ち満ちています。
これはできるだけ広いスペースで、大きな音で聴きたい作品です。来日したら、生で観てみたいですね。