インタビュー

ベイルートはどこから来てどこへ行くのか? ROTH BART BARON三船雅也&岡田拓郎と考える

ベイルート『Gallipoli』

Page 2 / 2 1ページ目から読む

またしても骨折

――では、いよいよ新作『Gallipoli』の話になるんですが、ザックがアルバムの制作背景を綴った文章を読むと、彼は一昨年にドイツに引っ越したそう。その理由が、NYの自宅の前にある公園でスケボーをしているときに骨折したからだという(笑)。

三船「また骨折したんだ(笑)。骨折が彼のターニング・ポイントですね」

――人生で4回ぐらい骨折しているらしいんですけど、やっぱり近所のキッズとかに見られると、恥ずかしいじゃないですか(笑)。

三船「ベイルート、骨折してるぞって(笑)。最近はすぐにインスタのストーリーとかに上げられちゃいますからね」

――それで雲隠れしたのかな(笑)。でも、ドイツに渡る前に、昔働いていたニュー・メキシコの映画館に置いてあったオルガンをNYに運んでもらって、それで新作の曲作りを始めたらしいです。『The Flying Club Cup』収録曲“Sunday Smile”とかもそれで書いたらしくて、だから新作には初期の作品に通じる雰囲気もあります。

三船「優しくて良い音がするオルガンを使ってるんですよね。イタリアのファルフィッサって種類じゃなかったかな」

――そうそう。でもオルガンはNYに置いたままドイツに行ってしまったらしい(笑)。ちなみにいまはアーケイド・ファイアのウィル・バトラーがそのオルガンを管理しているらしいんだけど、あんなに乱暴に楽器を扱う人に預けて大丈夫なのかな……。

三船「確かに(笑)。ベイルートは、だいたい行った国や影響を受けた地名が作品中に出てきますよね。今回もドイツ語の曲があるし」

 

88ライジングのことを忘れて聴ける音楽

――今回もインストの曲のタイトルが地名だから、実際に行ったの?って質問したんですけど、別に行ったことはないらしいです。というかインスト曲を書くときは、行ったことのない場所をタイトルにして、そこからイメージを膨らませて書くみたい。

岡田「インストの曲、良かったなぁ」

――岡田くんが好きなのは“Corfu”っていう曲かな? (聴いてみる)ギリシアの島の名前からタイトルをとったみたいです。 

三船「ちょっとグリズリー・ベアっぽいね」

岡田「確かにギターの音とかそんな感じだね」

三船「アルバムは、ドイツとイタリアのスタジオで録ったんですよね。タイトル曲の“Gallipoli”はイタリアのガッリーポリで見た光景に影響されているんでしたっけ?」

――牧師に先導されたブラス・バンドが、聖人像を持って街中を練り歩く光景に遭遇したことでインスピレーションを得たようです。

三船「映画のワンシーンみたいですね」

――字面だけ見てもイメージしづらいじゃないですか? でもこの前、「君の名前で僕を呼んで」(2017年)とかリメイク版の「サスペリア」(2018年)を撮ったイタリアのルカ・グァダニーノ監督の「胸騒ぎのシチリア」(2015年)という映画を観ていたら、似たようなシーンがあって、実際にそういう行事があるんだと納得しました。三船くんが新作を聴いた感想は?

三船「前作から、 ウォー・オン・ドラッグスとかも手掛けているガブ・ワックスっていうプロデューサーが参加していますよね」

――その人とバンド・メンバーを、わざわざイタリアまで呼び寄せたらしいですね。

三船「こっちに来いと(笑)。フリート・フォクシーズの『Crack-Up』(2017年)にもエンジニアとして参加していて、最近よく名前を見ますし、本人もソロの作品をSoundCloudでこっそり出しているんですよ。それが緩い打ち込みを使ったチルアウト系のシンセ・ポップで、ベイルートの新譜と通じる感もあるんですよ。“Family Curse”などの管弦楽器にリズム・マシーンが重なっている箇所とか、そのフィーリングが入ってるのかなと思ったんですよね」

ガブ・ワックスの2018年のEP『The Ordeal Of The Orb』
 

――うんうん。

三船「でもタイトル曲なんかはちょっと昔に戻ってきているというか、行ったことのない場所に憧れて、音楽を作っている感じ。イントロはモジュラー・シンセみたいな音から始まるし、それはベルリンに行ったからなのかなと思ったけど、実はそうでもなくて、プロデューサーの影響なのかなって気はした。3作目の『The Rip Tide』とか次の『No No No』の延長というか、今回も〈素直に来たな〉って思いましたね。あと管楽器のミニマルなレイヤーやアレンジが、いま逆に新鮮だなって。最近は打ち込みっぽいサウンドが主流で、ホーンがここまで出ている音楽は目立たないし、2019年にこれが出たのは良いタイミングだなって思う。88ライジングのことを忘れて聴けるっていうか(笑)」

 

〈どこか〉を探し続ける流浪の人

――そういえば、シンセのループを管楽器に置き換えたような“We Never Lived Here”っていう曲もあって……。

三船「これ、すっげえ新鮮だった。久石譲感があって(笑)。こういうの好きですね、僕。〈あ、これやろう〉って思ったもん。ライヴだとやるの難しいですからね」

――〈僕たちはここに住んだことがない〉というタイトルや歌詞も、アメリカ人の旅行者としての、ザックの心境を反映しているのかなって。

三船「まだ見ぬどこかに憧れていて、ここじゃないどこかを探す感覚は、ベイルートにずっとありますよね。フランスでもなければ、ベルリンでもイタリアでもバルカンでもない、みたいな。そうやって探し続け、その道すがら骨を折って……という(笑)」

――スケボーにも挑戦するし(笑)。ちなみに、おふたりは海外旅行の経験はどのぐらいありますか?

岡田「僕は一回しかないです。台湾だけ」

――台湾といえば、両者とも親交のあるシャムキャッツには“台北”っていう曲がありますけど、やっぱり異国に行くと影響を受けたりしますか?

三船「自分はモロに受けたりは……。ただ、日本人ってアイデンティティーには事欠かないというか、歴史もあるし、日本に生まれると否応なく日本人みたいになれるのに対し、アメリカにいると、自分のアイデンティティーを作らないといけないんだろうなとは思います。(元ヴァンパイア・ウィークエンドの)ロスタムとかも、ソロ・アルバムではイランとアメリカのダブルという自分の出自と向き合っていたし。ルーツとかそんなものはとっくに無いのかもしれないのに、幻想として纏おうとするみたいな。

そういう感覚って、日本にいると体験しづらいなって思うけど、アメリカ、特にNYなんかに行くとみんなバラバラすぎて、変わっている人間でも、普通でいられるような感覚がすごくある。全員違うから、東京で生まれたことが何のアイデンティティーにもならなくて。タイとかに行くと、日本が好きな人も多いから〈日本から来たの?〉って喜んでくれるけど、アメリカだとそれがないっていうか。それが〈ここではないどこか〉に想いを馳せてしまう理由なのかな。

旅に行くと、どうしても日本人であることを意識せざるをえないし、たとえば僕がロシアに行って現地の人と会ったら、彼にとって初めて見る日本人が僕なのかもしれない。そうすると僕の振る舞いひとつが、日本人のイメージに繋がるのかなって感じることもあります。旅に出ると、そういうことは起きます。あ、でも〈この景色知ってるかも?〉ってなったときは楽しいですね。行ったことないのに、〈心のなかでずっとこの景色を見たかったのかも〉という発見をすることもある」

――具体的にどんなことがありました?

三船「フィンランドの国境に行ったんですよ。そこで昔あったお城の石垣の残骸を見たときに、〈あ、これ見たことある〉みたいな感じがした。その石の壁にときめく自分がいて。そういうのは忘れないんですよ。だけど、それが曲には……いや、曲にも出てきますね。そこで鳴っていた音を思い起こして、入れることはあります。歌詞とかに露骨に入れたりはしないけど」

――岡田くんは憧れの国とかありますか?

岡田「僕ですか? アメリカ行きたいなあ……ぐらいかな。たぶんあんまり、土地とかに限定されない性質で、それこそジム・オルークがアメリカーナをアメリカじゃなくてレコードや映画で学んだみたいなことと近いと思う。あんまり行ったことがないからかもしれないけど、どこかに行って感動するってことがないんです。そういう意味では僕のエキゾチシズムみたいなものは、脳内にあるんだと思う。ザックみたいにあちこち行ってインスピレーションを沸かすというよりは、おうちで『るるぶ』とか読みながら(笑)」

三船「僕は岡田くんをナッシュヴィルに連れて行きたいんですよね。カントリー・ミュージックの本場に」

岡田「だったら西海岸のほうがいいなあ(笑)」

――西海岸といえば、先行して公開された“Landslide”っていう曲がビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』(66年)に入っている“I Know There’s An Answer”っぽいと思って本人に尋ねてみたら、〈その通り〉って返されました。

三船「結構、露骨ですよね(笑)」

岡田「オルガンがこの音色だと、やっぱりビーチ・ボーイズ感が出る」

――出だしの〈There’s A Landslide〉っていう歌詞も歌では〈There’s An Answer〉と聴こえるし、やっぱり狙っていたのかなって(笑)。でも、いま露骨にビーチ・ボーイズっぽいことをやるのは結構抵抗があるんじゃないですか?

三船「確かに。グリズリー・ベア以降、誰もやってないかも」

岡田「グリズリーもここまで露骨じゃないしね(笑)」

三船「いまちょっとビーチ・ボーイズっていうか、チェンバー・ポップな感じはやりづらい空気があるけど、それを打ち破ってきたよね。そこもすごく良いな」

――そういえば、ベイルートのいまのキーボード(アーロン・アーンツ)は、グリズリー・ベアのサポートをしていた人なんですよ。岡田くんのベイルートの新作を聴いての感想は?

岡田「一周回ったっていうか、アレンジにはバルカンとかワールドっぽい雰囲気がまた入ってきていると思うけど、昔の取り入れ方がモノクロ・ジャケットみたいな纏い方だったとしたら、新しいのはちゃんとカラフルなアルバムになっている。モノクロのいつか見た風景を描くというよりは、やっぱりもっと地に足の着いた質感になっていると思いました。そういう意味では、いまっぽいアルバム。エキゾチシズムを纏いすぎるとエキゾチカになっちゃいますけど、良い意味でさらっとしてるのが、いまっぽさだと思うな。このアルバムは良い塩梅のところに落とせているなって感じましたね」

 

セピアから鮮やかな色彩へ

――そういえば森は生きているの作品とか、岡田くんのファースト・ソロ・アルバム『ノスタルジア』のジャケットも、モノクロのどこかで見たような風景の写真でしたけど、去年出たEP『The Beach EP』ではヴィヴィッドな色彩になっていましたよね。そういうモードの変化もあったんでしょうか?

岡田「それは……色がついていたほうがSpotifyで再生されやすいので(笑)」

――(笑)。ベイルートもそこに気づいたのかもしれないね。

岡田「それはあると思いますよ、マジで」

三船「岡田くんもそうだけど、色を取り戻したよね」

岡田「世の中的にも、いまってあんまりセピアっぽい感じはしないもんね。でも2012年頃って、セピアっぽい雰囲気があってもよかったような気がするし」

三船「確かに、いまは車もカラフルになってきたし、下品じゃない派手さがアリになってきているよね。『Gallipoli』は音がきれいになったし、オリジナルだと思うな。エキゾチカではない、でも〈ここではないどこか〉をめざすアルバム」

岡田「青臭い感じもしないよね。初期はナイーヴな感じもあったけど、超ざっくり言うと〈開かれた〉というか」

三船「さっきも言ったように、いまはコンピューターで完結する音楽が多いなかで、人間が鳴らしている音だよね。エレクトロニックな音も使っているけど、アナログなエレクトロニック・サウンド。過去の作品には、コンピューターのシンセを使ったちょっと懐かしい……アウル・シティーみたいなエレ・ポップも入っていましたけど、今回はそっちじゃなくて、そのバランス感覚が良い」

岡田「プロデューサーの手腕かどうかはわからないけど、フリート・フォクシーズの新作とかと同じで、ドラムに結構コンプレッサーがかかっていて、ダイナミクスを一定に抑えているんですよね。昔のベイルートって全体的にバンドが躍動している感じだったけど、ドラムをある程度一定にした音作りっていうのは、iPhone映えというか、Spotify時代には向いているんですよ。そのなかで上の音の動かし方や躍動感をどう付けていくか。

たとえばフリート・フォクシーズの新作はストリングスが舞っているなと思ったし、このアルバムもそういうレンジごとのダイナミクスの付け方が上手い。ウォー・オン・ドラッグスとかもビートはボーッとしているんだけど、上モノの躍らせ方はこのへんの人たちと近い雰囲気がある」

三船「確かに、ベイルートの今回のアルバムは、ドラムを打ち込みっぽく加工してるというか、コンプをかけて潰して、サスティーンが短い。サウンドの分離の良さには、それも関係していると思う。以前は1本のマイクで録ったみたいな感じだったけど、それとは明らかに違うし、解釈としてはいま風なんだよね。打ち込みを通った耳ならではの解釈だと思う。打ち込みの耳でインディー・ロックを通って、またアナログに再翻訳していくという作業。それは自分が取り入れたいっていうよりは、ひとつのヒントだなと思った。僕らの新しいアルバム『HEX』も、そのへんのバランスを自分で考えながら作っていたので」

――『HEX』と『Gallipoli』を聴き比べるのもおもしろいでしょうね。では、最後にベイルートの新作をふまえて、おふたりの今後の展望を訊かせてください。

岡田「ふまえると、やっぱりジャケットはカラーがいいのかなってことかな(笑)」

三船「とりあえず僕らも骨折するところから始めないと!」

 

三船雅也(ROTH BART BARON)
87年、東京世田谷区生まれ。
2009年に ROTH BART BARON を結成。自主制作にて3枚のEPをリリースしたあと、felicityより3作のフル・アルバムを発表。バンドは〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈SUMMER SONIC〉など大型フェスにも出演。また、中国・台湾・モンゴルを回るアジア・ツアーや、NYやボストンなど北米7都市を回るUSツアーなど、海外でのツアーも精力的に展開。2017年2月には、故デヴィッド・ボウイ生誕70年を記念する〈CELEBRATING DAVID BOWIE JAPAN〉に日本人ソロ・ゲストとして、田島貴男、吉井和哉と共に出演、エイドリアン・ブリュー、マイク・ガーソンらが務めるボウイ・バンドの演奏のもと“All The Young Dude”を披露。趣味は写真。

 

岡田拓郎
東京を拠点にギター、ペダル・スティール、マンドリン、エレクトロニクスなどを扱うマルチ楽器奏者/作曲家。2012年にバンド、森は生きているを結成。P-VINEより『森は生きている』『グッド・ナイト』をリリース。2015年に解散。個人活動として、ダニエル・クオン、ジェームス・ブラックショウなどのレコーディング、ライヴに参加。2015年には菊地健雄監督の映画「ディアーディアー」の音楽を担当、また映画「PARKS パークス」への楽曲提供やSouth Penguinの作品プロデュース、okada takuro+duennとしてコラボ盤リリースを行う一方、「Music Magazine」を始め多くのメディアにて執筆も行う。
2017年ソロ名義Okada TakuroとしてHostessからデビュー・アルバム『ノスタルジア』、2018年に『The Beach EP』をリリース。

 


ROTH BART BARON Live Information
〈"Strings" 〜tuLaLa presents ROTH BART BARON + 成山剛 with 弦楽四重奏〜〉
2019年2月13日(水)東京・渋谷WWW
開場/開演:18:30/19:30
料金:前売り 4,000円(別途ドリンク代)(e+/LAWSON/ぴあ/Peatix)
学生割引*学生証提示にて1,000円キャッシュバック
出演:ROTH BART BARON
主催:ROTH BART BARON・tulala
問合せ:info@rothbartbaron.com
特設サイト:https://www.rothbartbaron.com/strings

〈演奏者〉
三船雅也(ヴォーカル/ギター)
成山剛(ヴォーカル/ギター)
須原杏(ヴァイオリン)
銘苅麻野(ヴァイオリン)
梶谷裕子(ヴィオラ)
林田順平(チェロ)
エミリオ(パーカッション)
中原鉄也(ドラムス)
tuLaLa(ピアノ/ストリングス・アレンジメント)
Shizuka Kanata(キーボード/ストリングス・アレンジメント)
西池達也(キーボード/ストリングス・アレンジメント)

関連アーティスト