既存のジャンルを超えた音楽作りを目指してきたドイツのECM(Edition of Contemporary Music)レーベルの設立55周年と、新旧のクラシック音楽を新たな視点で取り上げてきた同レーベルのNew Series発足40周年を記念して、〈Ambience of ECM〉と銘打った展示会が昨年の12月13日から21日にかけて行われた。会場は東京都千代田区九段北にある九段ハウスで、建物としては洋館仕立てでありながら和室や茶室も設えられた和洋折衷の内部空間は、ジャンルや国籍の壁を超えた〈現代の音楽(Contemporary Music)〉を打ち出すECMのコンセプトにふさわしい選択だったと言えるだろう。


展示会は〈Listening〉と〈Exhibition〉、〈Event〉の3部仕立てで、〈Listening〉の部では館内の部屋ごとに音楽ジャーナリスト/プロデューサーの原雅明、ミュージシャンの岸田繁と岡田拓郎、俳優の三浦透子、八王子のDJバーSHeLTeRでECM音源のリスニング・イベント〈ECM Field〉を主宰するYoshio + Keisei各氏の選曲によるECMの音源が、イベントのテーマでもある空間(Ambience)に合わせて選ばれた、ADAM AudioやGenelec、Taguchiなどのスピーカー、RMEのオーディオ・インターフェイスなど、ハイエンドの音響機器によって再生された。ジャズでよく使われる楽器以外の民族楽器やシンセサイザーなど、多種多様な楽器を網羅する選曲や、70~80年代という比較的初期の音源を中心にした選曲、風景を想起させる選曲など、曲そのものや演奏者といった通常の観点とはまた違う基準による選曲が楽しめるのも、ECMの大きな特徴のひとつと言えるかもしれない。


〈Exhibition〉の部では、キース・ジャレットやヤン・ガルバレク、ジョン・アバークロンビー、デイヴ・ホランド、ジャック・ディジョネット、エグベルト・ジスモンチ、ラルフ・タウナー、ノーマ・ウィンストン、ディノ・サルーシなど、ECMを代表する様々なアーティストやグループの姿を捉えた貴重な写真や、今回のイベントのためにドイツから取り寄せた、日本初公開となるアルバムやコンサートの宣伝ポスター、LPジャケットなどが会場の随所に、それぞれの区画の環境にマッチする形で展示された。録音スタジオの中や外で撮影されたスナップや、アルバム・カバー用の撮影中の一コマなど、往時のミュージシャンたちの自然な表情がうかがえる写真の数々は貴重である。とりわけ、プロデューサーのマンフレート・アイヒャーとキース・ジャレットがピンポンをしている写真などは、ふたりに対する一般的な印象とはかけ離れた親しみを感じさせるものだった。訪れたコアなECMファンの間では、これらの展示品を前にして、それぞれのアーティストにまつわる思い出話に花が咲く場面も多く見受けられた。