魔法バンドと作り上げた内省のアルバムを経て、次に彼女が向かったのは〈根暗でも踊れる音楽〉。身体性に溢れた『Love Deluxe』には、語り、笑い、愛し合うシンガーの現在が映されている!

陽の部分を表現できそうだなって

 日本語にこだわった唯一無二の歌を歌い続けてきたシンガー・ソングライター、優河。近年活動を共にしている魔法バンドの面々――岡田拓郎(ギター)、千葉広樹(ベース)、谷口雄(キーボード)、神谷洵平(ドラムス)と作り上げた2022年作『言葉のない夜に』は、コロナ禍で気持ちが沈み込みがちだった優河が再生への道を歩みはじめたことを宣言する作品でもあった。新作『Love Deluxe』は、それ以来のアルバムとなる4作目。どこか内省的だった前作『言葉のない夜に』に対し、『Love Deluxe』には彼女の〈陽〉の部分が前面に出ている。

 「私ってもともとそんなに静かな人間でもないのに、なんで静かな曲ばかり歌ってるんだろう?という気持ちにふとなったんです。前作以降に魔法バンドとの演奏を続けていった結果、構えなくても普段の私をそのまま出せるんじゃないか、私の〈陽〉な部分を表現できるんじゃないかと思えるようになりました」。

優河 『Love Deluxe』 ポニーキャニオン(2024)

 昨年のシングル“遠い朝”にはそうした心境の変化がはっきりと表れていた。ヒップホップ的ともいえるシャープなビート感覚と、優河のクールな歌が独特のコントラストを描くこの曲は、これまでの彼女の作品にはないタイプのものだ。

 「ビートがある曲を中心に、そこから広がっていくようなアルバムが出来たらいいねと岡田くんとも話していて。ただ、ビートに合わせて熱く歌うのではなくて、自分なりの温度感を保ったまま歌うのが私には合っているのではないかと思いました。“遠い朝”は新作を作るうえでの指標になったと思います」。

 具体的に制作が始まったのは昨年の12月半ば。魔法バンドの面々とじっくり作り上げた前作に対し、今回はバンド・メンバーでもある岡田拓郎がプロデューサーとなり、彼の陣頭指揮のもと制作は進められた。岡田は全面プロデュースした柴田聡子のアルバム『Your Favorite Things』が話題を集めるなど、プレイヤーのみならずプロデューサーとしても多忙を極めている。

 「今回のアルバムは〈ビートが効いて少し踊れるような〉というテーマがあったので、岡田くんがある程度アレンジを組んでくれた状態から、バンドで音作りを詰めていく、という方法がいいのではないかという話になったんです」。

 収録曲中の半数は岡田がトラックを作り、バンドで肉付けしていくというやり方で進められた。そのため、これまでの優河の作品にはなかったテイストが散りばめられているのも本作の特徴だ。なかでも衝撃的なのがニューウェイヴ・ディスコ調の“Love Deluxe”。優河も「岡田くんからのこの曲のトラックが送られてきたとき、えっ、どうしようと思いました(笑)」と当初の戸惑いを語る。

 「他の曲が揃ってきた段階で〈もう少しアッパーなものがあってもいいかもね〉という話になったあと岡田くんがこの曲を送ってくれて。でも私はディスコを全然通ってこなかったので、千葉さんに〈ディスコってどんなものがある?〉って訊いたところ、〈いろいろあるけど、優河なりのメロディーでいいんじゃない?〉と言ってくれて。10本ぐらいメロディーを録って、それを岡田くんが組み合わせてくれました」。

 また、アフロビート風のリズムが採り入れられた“Don’t Remember Me”も新機軸。都会のムードに満ち溢れた“Tokyo Breathing”でもアフロビート的なビートにクールな歌がふわりと乗っていて、岡田の手腕が発揮されている。

 「“Don’t Remember Me”は、自分でシンプルな打ち込みのリズムを作ってたんですけど、岡田くんに渡したらアフロビートになって返ってきました(笑)。私も何が起きたんだろう?と驚きましたね」。