Sauce81と宇宙を夢想したばかりのShing02が、次にめざすは和の世界! SPIN MASTER A-1との タッグで繰り出した11年ぶりの日本語アルバムには、こんなにも不思議な音風景が広がっていて……
Sauce81とのコラボレーションによるアルバム『S8102』を昨年末にリリースしたばかりのShing02が、間髪を入れずに年明けの1月11日にBandcampで突如発表したアルバム『249611』が、『S8102』と同様に改めてCDにてリリースされる。15年以上、Shing02のライヴDJも務めてきたSPIN MASTER A-1(以下A-1)が全曲プロデュースを務め、2008年の『歪曲』以来、10年以上ぶりの日本語ラップ・アルバムとなった今回の作品だが、『S8102』の制作終了直後にプロジェクトがスタートし、1か月未満という超短期間でリリースまで至ったというから驚きだ。
「(日本語ラップ・アルバムの)〈有事通信〉っていうプロジェクトをずっと作り続けているんですけど、なかなかリリースする段階に行けず。けど、『歪曲』から10年経っちゃっていたので、去年の時点で何かをやりたかったんですよ。それで去年の12月半ばに、〈ミックステープ的に日本語でハードなやつを作りたい〉ってA-1君に相談して。彼が和物のビートをずっと作っていて、新しいビートのストックもあったので、それを聴きながら2週間くらいで仕上げました」(Shing02)。
「去年の頭に自分のDJプレイにMPC(フィンガードラム)を採り入れようと思った時に、どうせやるんだったらオリジナルのビートでライヴ・パフォーマンスをやりたいなと。そこから積極的に和楽器をサンプリングして、ビートを作りはじめたら、〈これやな!〉ってビートが増えていった」(A-1)。
A-1の和物ビートにインスパイアされて出来上がった『249611』(=西向く侍)は、タイトルの通り江戸時代を中心とした、侍がいた頃の日本をテーマに描いた曲で構成されている。
「江戸の社会の仕組みっていうのは、倫理観や道徳、あと宗教だったりっていうのが複雑に絡み合っているわけですよね。一言で言えば江戸時代ならではの〈価値観〉なんですけど。そういうのを全部引っくるめて、その生々しさをストーリーを通して描きたかったんですよね」(Shing02)。
特にアルバム前半で強烈なのが、和製トラップとも言うべき“鐘”という曲で、トラック、リリック共にかなり突き抜けている。
「あのリリックは、要するにトラップを当時の日本の価値観で歌ったらどうなるかな?っていう実験で。あと、今年春のアメリカ・ツアーで、A-1君がソロの時間に“鐘”のトラックをプレイするんですけど、本当にめちゃめちゃ盛り上がって、ヤバかったです」(Shing02)。
「サンプリングしている和楽器は琴がメインなんですけど、和楽器で編成を組んでるレコードって、致命的にベースがないんですよね。けど、そこに低音を上手く馴染ませた時の衝撃が凄くて。特に“鐘”とかは日本の雰囲気も伝わるし、そういった部分が出てます」(A-1)。
突き抜けているという意味では、日本昔話風のストーリーテリングが展開されている“狸”も実にニヤリとさせられる一曲だ。
「A-1君のトラックにツボな題名がたいてい付いていて。これも最初から“狸”だったんですよ。それで狸をテーマにちょっと音楽業界の話をしてみようかなって。アーティストみたいにアイデアを持っている人っていうのは、そうやって騙されるっていうところから、兎と狸の話が生まれました」(Shing02)。
短期間で仕上げた作品を新鮮なままにリリースする、ミックステープ的な手法はいまや当たり前のものであるが、2人にとってもこのプロジェクトは大きな刺激になったようだ。
「作った新鮮なものをすぐに出して、すぐに聴いてもらえるってうのはめちゃめちゃ興奮しますね。もちろん、煮詰めて作れば、もっと出来ることがあると思うんですけど、瞬発力っていうのもすごく大事だと思うし」(Shing02)。
今回のCDには1曲ボーナス・トラックが収録されているが、実は他にも曲のストックがあるようで、これからも2人の〈和モノ〉プロジェクトは続いていくという。今後もサプライズのリリースに期待!
SPIN MASTER A-1の関連作を一部紹介。
Shing02の関連作を一部紹介。