ceroのフロントマンが立ち上げた、自身と一緒に年を取っていくソロ・プロジェクト。そこにあるのは、混沌としたアングルのローファイ感覚が醸す禍々しさと、日本のマジックリアリズムで──

自分自身の音楽の幹

 2018年の4枚目のアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』から紡ぎ出されたジャンルを横断する重層的なリズムの波とイマジネイティヴなストーリーテリングによって、未知なるスリルを伝えるポリリズミックなポップ・ミュージックを生み出すに至ったcero。そのフロントマンであるヴォーカルの髙城晶平が、2019年1月の初ライヴを機にソロ・プロジェクト、Shohei Takagi Parallela Botanicaをスタートさせた。

 「ソロの構想を始めたのは、ceroがアルバム『Obscure Ride』を出した2015年です。その年に僕は30歳になったんですけど、子どもが出来て父親になり、さらに自分の母親が亡くなり、いろいろ考えているうちに、ceroとは別の自分にとってのもう一つの幹というか、軸が欲しいなって思うようになりました。ceroは高校生の時に知り合ったメンバーなので、3人で集まればいつもの高校時代の関係性に戻れるというか、感覚的に年を取っていかないんですよね。今、集団と個の在り方が問われていると思うんですけど、集団のなかだけで生きていくとそれはそれで危ういし、かといって、社会にまったく頼らず個人で孤軍奮闘するのも、それはそれで気合いが要る。どちらかに偏ることなく、その両方の世界を持つことがこれから重要になっていくんじゃないかな、という思いもあり、自分の実年齢と一緒に年を取っていけるプロジェクト、自分自身の音楽の幹もあったほうがいいだろうと思ったんです」。

 最初は具体的なアイデアがあったわけではなかったというが、5年の間にパーソナルな世界は徐々に像を結んでいった。

 「ceroとしての活動を続けながら、ソロがceroと似た路線になってはいけないし、ソロがceroの今後の発展を妨げることになってもいけないと、ソロの間合いを図りつつ、自分が年を取っても長くやっていける音楽の根幹はどこにあるんだろう、と。ぼんやり考えながら、プライヴェートで音楽を聴くなかで、アメリカのシンガー・ソングライター、ジョー・ヘンリーの『Scar』(2001年)と『Tiny Voices』(2003年)、『Civilians』(2005年)という3作――その禍々しくシアトリカルな音楽世界がその時の自分にフィットしたというか、自分も彼の音楽のように聴き手を移入させる景色を描きたいと思ったんです。そう考えた時、ceroでいうと『WORLD RECORD』(2011年)の“outdoors”やシングル“街の報せ”(2016年)の“ロープウェー”、『POLY LIFE MU­L­TI SOUL』の“薄闇の花”といった曲が僕個人の世界に近くて、そのあたりの曲を発展させた先に自分の居場所がありそうだなって」。

 

アングルを変える手法

 そうした数々の端緒を掴んだ髙城は作品制作を敢行。ceroのサポートを務めるドラムスの光永渉やヴィブラフォン/コーラスの角銅真実、キーボードの伴瀬朝彦やサックスのハラナツコといった親交の深いミュージシャンに加え、SOIL &“PIMP”SESSIONSの秋田ゴールドマン(ウッドベース)、松井泉(パーカッション)、中山うり(トランペット/コーラス)、武嶋聡(クラリネット他)、田島華乃(ヴァイオリン)、高田漣(ペダル・スティール)といった第一線で活躍するプレイヤーをフィーチャー。さらにヒップホップとダンス・ミュージックを横断するビートメイカーにして、過去に“ロープウェー”でコラボレーションを行ったsauce81を共同プロデューサーに迎えたファースト・アルバム『Triptych』は完成した。その残響にフォークやブルース、ジャズやソウルが香るルーツ・ミュージックに根ざした楽曲の数々を聴き進めていくうちに、ゆったりとした流れから時間感覚や遠近感が失われ、幻想的な風景がゆらゆらと立ち昇る。

 「この作品の音楽性それ自体、オーセンティックなものなんですけど、通常ではあり得ない混沌としたアングルから表現することで、禍々しさや不気味さが香ってくる作品にしたくて、そのためにsauce81に声をかけさせてもらいました。例えば、シェイカーやタンバリンは、通常、遠いところでさりげなく鳴らす楽器ですけど、彼はそれを耳の真横で演奏しているかのように大きい音で鳴らしたり、バンド音楽をやっている人にはない音響感覚、バランス感覚を持っていて。“ロープウェー”の作業もまったくストレスがなかったし、今回の作品でも自分が求めるイメージを具現化するために必要不可欠だったんです」。

Shohei Takagi Parallela Botanica Triptych KAKUBARHYTHM/ソニー(2020)

 ダメージ・ジーンズのようにあえて汚すように加工した独特な音の質感と、地場が狂ったように感じられる音響構築が大きな特徴である本作。そのヒントとなったのは、アメリカーナにアンビエントの発想を持ち込んだプロデューシングによって、エミルー・ハリスの『Wrecking Ball』(95年)やウィリー・ネルソンの『Teatro』(98年)をはじめ、数々の傑作アルバムを生み出したダニエル・ラノワ。そして、90年代にロス・ロボスやその派生プロジェクトであるラテン・プレイボーイズなど、メジャー・フィールドで先鋭的な音響実験を繰り広げたプロデューサー・チーム、ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクのサウンド・アプローチだったという。

 「ローファイというと、今はチープな機材を用いたベッドルーム・ミュージックの音質を指しがちですけど、ミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクに感じる〈ローファイ〉というのは、例えば、音から荒れ果てた荒野のような風景をイメージさせるために、クリーンに録った音をアンプやエフェクターを通して加工したり、汚してみたりっていう、もっと抽象的な、概念的なもの。だから、単に音質が悪いという話ではなく、キッチュなものだったというか、いかがわしさ満載のエキゾ音楽やモンド・ミュージックがそうであるように、ポスト・モダン的に表現のアングルを変える手法だったんですよね。当時、高校生だった僕はその意図がわからないなりに、彼らが手掛けた作品から立ち昇る独特なムードを感じていたことを思い出して、自分も今の時代において異なるアングルを提示できないかなって」。

 

自分のなかの父性

 その独自のアングルは歌詞にも及ぶ。語り部のように物語を饒舌に歌い綴るceroに対して、この作品では第三者的な視点から切り取った断片的なイメージをスケッチするように描いており、そこでは光と闇、生と死、あるいは聖と俗といった対極的な要素を共存させることで、聴き手の想像力を掻き立てる。

 「作品のテーマでもあるアルバム・タイトル『Triptych』(3枚続きの絵画)は、アメリカの作家、マディソン・スマート・ベルの同名の短編小説から取りました。僕は外国文学やつげ義春のような漫画家が好きなんですけど、マディソン・スマート・ベルを含め、その多くは自分の父親に教えてもらったものなんです。これまで自分がやってきた音楽は、どこか母親に向けているようなところがあったのに対して、今回の歌詞がハードボイルドな男の世界になったのは、ソロの楽曲制作を通じて自分を見つめるなかで、父親と自分の関係であったり、自分にも子どもが生まれて父親になったことも含め、自分のなかの父性を掘り下げたくなったんだと思います。そして、全9曲が3つのセクションで構成されているんですけど、物語性に則っているceroに対して、ここには始まりも終わりもなく、そのセクションを夕暮れや朝焼けが象徴する混じり合った時間の色味で3枚の絵のように描きました。しかも、僕が表現したかったイメージやムードは、アメリカだったり、違う土地や国から借りてきたものではなく、例えば、つげ義春の諸作品がそうであるように、日本の原風景、日本のマジックリアリズムであるべきだなと思ったんです」。

 ファースト・アルバムにして音楽に対する独自のアングルを見い出したShohei Takagi Parallela Botanica。髙城の視界のその先にはどんな風景が広がっているのか。

 「高校生の頃と変わらない探究心、好奇心で今後も冒険を続けていくceroに対して、Para­llela Botanicaは年を重ねながら、求道的に一本の幹を伸ばしていく活動をめざしています。そして、今回のように作品で表現する色合い、そのヴァリエーションを今後どんどん増やしていくことを楽しみたいですね」。

ceroの近作を紹介。

 

『Triptych』に参加したアーティストの関連作品。

 

髙城がピックアップする『Triptych』と合わせて聴きたい6枚

JOE HENRY 『Tiny Voices』 Anti(2003)

「通算9作目のアルバムです。この作品は曲と曲が繋がっていて、どんどん進んでいく作りになっています。禍々しくシアトリカルな音楽世界が広がっているんですけど、体裁としてはミックステープに近いものだったりもするので、彼のことを知らない若いリスナーも今の感覚で聴けるんじゃないかと思います」。

 

「LAのラテン・ロック・バンド、ロス・ロボスの別プロジェクトによるセカンド・アルバム。音楽的にはお化け屋敷のようなキッチュな恐ろしさが具現化されていて、音以上にアートワークの文字がお化け屋敷とは比べものにならない恐ろしさを醸し出しているという(笑)。これは知らない人が聴いたら相当驚くんじゃないかな」。

 

鈴木正人 『UNFIXED MUSIC』 intoxicate(2006)

「LITTLE CREATURESのベーシスト、鈴木正人さんの初のソロ作。これが素晴らしくて、ビル・フリゼールっぽさがあったり、ラテン・フレイヴァーもあったり、かなりおかしな音楽なんですけどすごい洒落ていて。他にもSigh Boatやコンボピアノなど2000年頃の鈴木正人さん周辺の音楽はどれもおもしろいです」。

 

「ギターの名手にして、『パリ・テキサス』などの映画音楽や大ヒット作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を手掛けたりと多彩なアーティスト。2000年代以降は自分で小説を書いて、その音楽を作ったりもしてますし、この作品ではLAのメキシカン・コミュニティーをテーマに一風変わったラテン音楽を掘り下げています」。

 

WILMA ARCHER 『A Western Circular』 Weird World/Domino(2020)

「ついこの間出た新譜で、今いちばん気に入っているアルバムです。イギリス人のマルチ・インストゥルメンタリストということ以外、詳しいバック・グラウンドはわからないんですけど、MFドゥームのラップやシンガーをフィーチャーしつつ、弦楽器主体でアレンジされた楽曲がいい具合に不気味で、めちゃめちゃ好みですね」。

 

KING KRULE 『The Ooz』 XL/BEAT(2017)

「同時代の音楽家で、僕がいちばん影響を受けたアーティストの一人。最新作も出たばかりですけど、こちらはいまだによく聴いている2017年のセカンド・アルバムです。彼はビートメイクも手掛ける現代の若者でありつつ、その一方でオーセンティックなロックのマナーが揺るぎなく染み付いていて、その二面性に痺れますね」。